第15話 チームの相性

アレーネシア魔道学院では将来の皇国の騎士や魔道士を育成するという使命がある。

皇国の騎士団は基本的に2~4人で小隊を組み任務につくことが多く、そのため学院では連携を覚えるためにチーム制度がある。

そのため授業にはチーム同士で戦闘で評価がつく授業もあり、ウィル達はシルフィーが入ったこともあり連携周りを鍛えるべく、放課後に学院内の闘技場に来ていた。


「とりあえず、シルフィーとウィルが前衛で私がその援護といったことかしらね」


フィールド中央で3人は役割分担と戦法を話し合っていると。


「おーいさっさと始めようぜ」


フィールドにはウィル達3人他に4人の人物がいる。

カロルドとレイシア、そして2人のチームメイトでありウィル達のクラスメイトの黒髪の犬人種のポーラと人間種のフィリップだ。

連携の訓練相手としてお願いしていたのだ。


「分かった」

「戦いながら色々試しましょうか」

「そうね」


7人全員魔装を展開する。

カロルドのチームのほうは、魔装のデバイスの形状から剣を持っているカロルドとレイシア、そしてランスを持っているフィリップが近接、ポーラが遠距離支援の役割のようだ。


「ちょっとまった。そっち4人でやる気?」


カロルドのチームが当たり前の如く全員魔装を展開したことに驚きウィルは聞く。


「そうだけど……なんかだめ?」


後ろに控えているポーラが不思議そうに答える。


「たしかに4対3は不公平だが、誰が見ても戦力的にはそっちが圧倒してるぞ、それに連携の訓練をしたいんだろ?ならこの方がいいと思うが?」


7魔家の家で学院内でも有数の実力者のアリスに、王女で騎士の称号を持つシルフィー、そして怠惰の大帝のウィルだ。それにカロルドの言うとおり訓練には申し分なくウィルは承諾するが、


「それにしてもどこから話を聞きつけてきたのやら……」


ウィルはそう言うとフィールド外の観覧席に目を配る。

観覧席にはクラスメイトが全員集まり、そのほかにも学年中のクラスから野次馬が集まっていた。生徒だけではなく講師も見に来ていた。


「もちろん。俺が宣伝しといたぞ」


カロルドは胸を張り答える。それをウィルは、「やっぱりお前か」と心の中でぼやく


「合図はどうしましょうか?」

「これでいいんじゃない」


アリスはコインを見せる。


「俺たちはそれで構わないぜ」

「じゃーいくわよ」


アリスはコインを弾く弧を描きながら地面に落ちるとウィルとシルフィーは突撃していく。


「レイシア!ポーラ!」

「はいはいー」


カロルドとレイシアが前面に出て攻撃と止める。

そこへ大きく回りこむようにポーラが放っていた砲撃がウィルとシルフィーへと向かっているのを、アリスが砲撃で相殺する。

ウィルは剣を合わせながらデバイスから魔力刃を放とうとデバイスを2人に向けていると、背後からランスが振るわれ向かってくる。

ウィルは剣を弾き身を低くしてかわすが、かわした先にはレイシアと剣を合わせていたシルフィーがいた。ウィルで死角になっていたこともあり、シルフィーにフィリップの攻撃がもろに入り吹き飛ばされる。

ウィルはデバイスで3人同時に魔力刃を放つと3人は距離を取った。


「シルフィー大丈夫?」

「大丈夫です……」


無防備なところに攻撃が入ったため、ダメージはかなりのものであったが何とか立ち上がる。

ウィルは空中に回避していた、フィリップ目掛け突進する。剣をランスで受け止められ下方からカロルドが距離を詰める。

一方のシルフィーも再びレイシアと剣を打ち合う。

シルフィーが力任せに剣でレイシアを弾くと眼前にポーラが放った閃光が迫ってきており、咄嗟に障壁を前方に展開し閃光を弾く。が、弾いた先にはカロルドの攻撃を回避した直後のウィルがいた。

閃光の直撃を受け、フィールドへと弾き落とされる。

直ぐに立ち上がるが背後からいきなり砲撃を受けたためにダメージは小さくなかった。

2人していたそうに起き上がる。


「2人とも何やってるのよ!これはチーム戦なのよ」


アリスは少し離れたところから檄を飛ばす。

そこへフィリップがアリスへと襲い掛かる。

ランスをかわしながら砲撃を放ち攻撃をかわしつつも反撃する。ポーラの砲撃がアリスに浴びせられるが、見事にそちらにも気を配りかわす。援護しようとウィルは詠唱を始める。


「ポーラ! レイシア!」

「うん」

「あいよ」


カロルドの声とともにポーラ身をひるがえすとその後ろからレイシアがアリスに襲い掛かる。同時にポーラがウィルとシルフィーに魔法を発動する。無詠唱で放たれる魔法はウィルの詠唱が終わるよりも早く着弾する。魔法の詠唱を取りやめギリギリで円形に障壁を展開するが、無数の魔法弾に想定外の攻撃に動揺してイメージが固まっていない障壁は弱い。ひびが入り砕けると思った瞬間障壁の表面に光が走る。


「シルフィー大丈――っ」

「守りのイメージをしっかり持ってください! ウィルさんの魔力ならこの程度で障壁を破られることはありません」


心配するも魔法のアドバイスが飛んできてウィルは少々ムッとしていた。

このままでは2人の援護ができないと思い魔法を発動する


《プロミネンスレイ》


フィリップは急加速して攻撃をかわすが閃光が分裂し急旋回するが急降下し避ける。

フィリップが急降下すると閃光の斜線上にはカロルドとレイシアと剣をあわせているウィルとシルフィーがいる、カロルドとレイシアは剣をあわせた相手の向こう側から接近する閃光に気がつくと、即座に剣を弾き退避する。

そして背後から2人に閃光が直撃し2人一緒にフィールドへと落とされ土煙が上がった。

土煙が晴れると2人が重なり倒れている。


「2人とも大丈夫?……ごめん……」


先程注意した分、すこし気まずそうに2人を心配する。


「あぁ大丈夫」


ウィルは体を起こそうとするが


「ひゃっ」


なにやら下から声が聞こえウィルは下に目をやるとシルフィーの胸をわしずかみにしている自身の手があった。


「ごごごめん」


顔を赤くしてあわてて体を起こす。


「いえ…ウィルさんが望むのならいくらでも私は」


シルフィーも顔を赤らめている。


「もう俺ら帰ってもいいか?」


その様子を一部始終見ていたカロルドは呆れていた。

一方アリスの方はレイシアとフィリップの2人を相手に近距離で攻撃を回避しながら反撃をしている。魔法学院内でもカロルドのチームはかなりの実力者揃いだ。レイシアとフィリップは剣と槍の使い手として名が知れ渡っている。フィリップに関しては中等部ながら既に皇国騎士団の入隊が決まっているほどの神童。剣術のことしか知らないウィルから見ても一度魔法抜きで手合わせしてみたいと思うほど見入る槍術。その攻撃をレイシアを合わせて回避しきっているアリスも尋常ではない。

ウィルはアリスの援護をしようと飛び上がるが行く手をカロルドが遮った。


「おっと。行かせないぜ」

「剣できるんだな」

「言ってなかったか? 剣術大会で優勝したこともあるんだぜ」

「へぇ~でも止められるとでも?」


ウィルは剣を交えながら魔剣に魔力を込める。それを見てカロルドは笑みを浮かべる。

直後にレイシアが横から追加の攻撃を仕掛けてくる。

慌てて剣を弾き距離をとるがレイシアは急に横に飛び退いた。


『ゲイルストーム』


風が渦を巻きウィルを飲み込むとそのまま地面にたたき落とした。


「おいおい。怠惰の魔導士様はこんなもんかよ。期待していたが拍子抜けだな。」


土煙の中ではせき込む声が聞こえてくる。


「単なる強力な固定砲台というところか。王女の婚約者であり、騎士様か。名誉が泣くぜ。両方もらってやろうか?」


カロルドのその言葉にウィルはシルフィーの顔を見てから視線を戻す。


「え……いる?」


オーランド皇国の王女であるシルフィーを前にして、戦いを繰り広げている3人以外は凍り付く。カロルドはふと出た自分の言葉を後悔したがもう遅い。カロルドもレイシアもウィルの性格は理解している。数か月の付き合いの中で一番意外だったのは王女との婚約であり、間違いなくウィル自身の意思ではないことは予想していた。

王女本人の目の前で全否定するようなことを言うほど馬鹿でもないこともわかってはいたが、盛大な事故は予想していなかった。

ウィルの言葉を理解してか、シルフィーはウィルの顔を見て固まっている。


「おっ俺も騎士の称号もらってみたいぜ」

「下級貴族の学院生のお兄ぃじゃ、身の知らずの大馬鹿ということを宣伝するようなもんだよ~」


2人の話に気が付いたのかウィルは愛想笑いを浮かべて横をみるとシルフィーが元に戻っていた。


「冗談を言ってないで続けましょう」


それからもウィル達の連携が向上することはなく。味方同士足を引っ張り合った。

訓練を始めて3時間ほど経過し、日が沈みかけていた。


「もういいだろ…俺らもそろそろ魔力が限界だぞ…」

「いやまだよ……」

「そうですね……」


カロルドたちはほぼ無傷であったが、ウィル達とは違い魔力がそこをつきかけていた。一方ウィル達3人は、体中傷だらけで魔力はまだまだ余裕があったが既にフラフラだ。


「俺らはお前らみたいに無尽蔵の魔力じゃないんだぞ・・・普通の人間なんだぞ…」

「俺らも普通の人間だ…化け物みたいに言うなよ……」


ウィルがそう言うとアリスとシルフィーが崩れ落ち意識を失った。

その直後ウィルもその場に倒れこんだ。


「やっと終わりか……」


倒れて意識を失った3人を見てカロルドは喜んだ。


「レイシア回復魔法頼むよ」

「ごめんおにぃ……私も限界……」


レイシアは剣を地面に突き刺し体を支え立っているのも限界のようであった。


「じゃー医務室に運ぶか……」


カロルドがそう言ったとき周りでドサッという音が複数聞こえた。

周りを見渡すとカロルドを残し全員が倒れている。

観覧席にいる誰かに手伝いを頼もうとしたが既に誰もいなくなっていた。


「まじかよ……どうするんだよこれ……」


その後、カロルドは競技場と医務室を6往復して全員を運び、その後自身も医務室に倒れこんだ。

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