第14話 転入生と図書室の憂鬱姫
翌日、休日が明け教室内の教壇には、担任のエリクと見覚えのある顔の美少女が立っていた。アリスは顔を引きつらせ、ウィルは目を白くし口を開け固まっている。
「今日から皆さんとご一緒に学院生活を送ることになった転入生を紹介します」
「シルフィー・フィル・エファーナ・オーランドと申します。よろしくお願いします」
学院の制服を身に付けたシルフィーが笑顔で自己紹介をした。
クラスの面々は予期せぬ転入生に盛大に盛り上がる中、チャイムがなり今日の授業が始まった。
ウィルが固まっているうちにあっという間に最初の授業が終わった。
「ウィルさーん」
休み時間になるとシルフィーの席の周りに人が群がり始めるが、囲まれる前にすばやく席を立ちウィルに抱きつく。その拍子に固まっていたウィルも動き出す。
「何でシルフィーがここにいるの」
「昨日言ったではないですか。私が魔法の先生になると。」
「ちょっとシルフィー離れて」
「そんなに照れることはありませんよ。私達はもう婚約しているのですから」
シルフィーの向こう側に視線を向けると、男子からは鋭く突き刺さるような視線が向けられ、女子からは暖かな視線を感じていた。ウィル自身、少し幼い顔立ちはしていたが、目鼻立ちは整い、シルフィーと2人でいる光景はクラスの女子からしたら憧れの光景であった。
その中をアリスが2人に近づいてくる。
「シルフィー。あなた学院に来て公務は大丈夫なの?」
「大丈夫ですわ。私もウィルさんと同じように公務がある際は、授業は抜けさせていただきますので。」
「そう……」
アリスは2人を見つつ顔が引きつる
「そんなことよりさっさと離れて」
2人が話す一方で、周りからの視線をなんととかしたいと思い、ウィルは彼女の肩に手を置き、必死に引き剥がそうとしているが、がっつりしがみつかれビクともしない。
そのままの体勢でシルフィーは見上げる
「そういえば、お二人のチームに入ることになりましたのでよろしくお願いしますね。」
「はい?」
「私は構わないわ戦力として大歓迎よ」
「待った! チームってことはシルフィーも寮で暮らすの?」
「そうですわ。今頃荷物を運び込んでくださっていると思いますわ。」
そんなやり取りをしていると次の授業のチャイムが鳴った。
「むぅー残念ですがウィルさんまた後ほど。授業が終わったら今日から早速お教えします」
シルフィーは渋々離れ席へと戻っていくと。ひとまず開放され彼は安堵した。うっとりと見入っていたクラスの女子は残念そうだ。
放課後になり、3人は寮の部屋の部屋のソファーに座り話していた。
「いいですかウィルさん。昨日少しお話しましたが、魔道士の魔力には基本属性が合って、属性が合う魔法については習得も他の属性の魔法より早く、少ない消費魔力で強く魔法を発動することができます。怠惰のスキルを使えば大抵の魔法は実戦レベルで使用できますが、魔力コントロールがウィルさんのように未熟な場合は、何かしらの問題が生じるようですね。」
シルフィーの指摘にウィルは心当たりがあった。
「たしかに森でフローズンレインを発動した時、障壁が維持できなかったからね……」
「フローズンレイン!!あんたいつの間にそんな上級魔法覚えたのよ」
フローズンレインは氷属性の7階梯に指定されている広域範囲魔法で上級魔法に分類されており中等部の生徒が使えるようなものではない。それを可能にしたのは怠惰のスキルによるものだ。
「あのようなムチャはもうおやめくださいね。あの場に私がいなかったら、出血多量で死んでましたよ」
「なっそんな大怪我したの!聞いてないわよ!」
アリスは話の至る所で驚きの声を上げていた。
「ごめん心配すると思ってこないだ説明した時は話さなかった。もうあんなことにはならないようにするから……」
アリスの手が飛んできそうな気配を感じ、先手を取って誤る
「魔力のコントロールについては、あの魔剣は相当じゃじゃ馬のようですから、自由自在に使えるようになれば、ある程度の魔力のコントロールができるようになっていると思いますので、上級魔法を使っても障壁が切れるような致命的なことは避けられるはずです。」
「確かに魔剣は今のままじゃ、競技際みたいなところだと周りを巻き込みかねないからな~」
「競技場の屋根吹き飛ばしていたものね……」
3人は吹き飛んだ競技場の屋根を思い出し、早々に何とかしなければと再確認した。
「国としてもウィルさんが放った最後の一撃を問題視していまして、国中の競技場の障壁については改修予定です。それまでは全力での戦闘は控えていただきたいところですね。」
「これで腰が重い連中がようやく動いたから、逆によかったんじゃないかしら。ネクロフィアの領地の結界は常に更新し続けているというのにね」
「国防関連の施設の障壁はすぐに更新するのに後回しになっていたのは否めませんね」
勉強会ではなくいつの間にか反省会になりつつあった。
「まぁそれはおいておくとして、とりあえずウィルさんがメインで使う魔法を闇属性の魔法に絞ってみましょうか。魔法の細かなことは順々に覚えていきましょう。」
「ひとまずは魔弾系かしら?」
「そうですね。複雑な魔法をいきなり使われると最悪暴発して学院が吹き飛びかねませんから、7階梯の闇属性魔法であたってみましょうか」
「そうね。階梯を上げていって強弱制御できるようになったら徐々に特殊な性質な魔法を覚えさせる方法でいいんじゃない」
「それでいいと思いますよ。私もそのつもりで王宮から蔵書から闇属性の9階梯の魔導書を全部持ってきましたので」
「はぁあ!? 王宮の蔵書!? 全部!?」
突然大声を張り上げるアリスに思わずウィルは耳をふさぐ。
魔法は基本的に魔導書に記されている概念を理解して習得するものであるが、上級魔法の魔導書は出回っている数は数は少なく、強力な魔法ほど世に出ることはない。強力な魔法の魔導書ほど価値は高く本一冊で豪邸が購入できるほどだ。オーランドの王宮の蔵書であれば間違いなく一冊一冊がそのクラスの魔導書であることは間違いない。実際王宮の蔵書を見ることができるのは聖騎士以上の魔導士に限られている
「よく陛下の許可が下りたわね……」
「なに? そんなにやばい物なの?」
「王宮の蔵書は男爵以上か聖騎士以上でしか閲覧権限はもらえない所なのよ」
「許可はもらってませんよ?」
「「え」」
2人同時にシルフィーに目を向けた。
「は!? 勝手に持ってきたの!?」
「大丈夫です。ウィルさんに教えるためであればおじいさまもお許しになられるはずです」
「あんたねぇ……」
「でもまずは学院にある魔導書からですね。いきなり持ってきた魔導書の魔法なんて扱えるわけありませんから」
アリスは頭を抱えているがシルフィーはあっけらかんとした様子で話を進める。
「そうだね……なんかいい魔道書あったら教えてもらえるかな」
「ええ。私にお任せください。図書室にでも探しに行きましょうか」
「あっいまは……」
突然アリスは焦りを見せる。
「この時間は図書室には姉さまがいるわね」
「え!アリスのお姉さんってこの学園の生徒なの?」
「ええ……たぶん何回も見たことあるはずよ。あんたを探しに図書室に行った時、席に座っていたもの」
彼はこんな近くに自分以外の大帝がいることに驚き、今までのアリス話を思い出しすごく気が合いそうな気がしていた。
「アリスのお姉さんか、話してみたいな」
「私も久しぶりに会いたいですね。残念ながら式典では会えませんでしたので」
アリスの焦った様子の理由を感じ取ったウィルは、まだ会っていないアリスの姉に同情した。
3人は学院の図書室の扉をくぐる。
図書室とは言うものの膨大な蔵書量を有している大図書館だ。
通路が吹き抜けになって両サイドに棚が並び、それが2階部分にも同じような棚が並んでいる。
そのような通路が遠くに見える窓際まで続いている。
3人は魔道書を持ち、窓際にある席に向かっていると、アリスが席に座っている1人の女生徒に呼びかける。
「姉さま」
「アリス? あなたが図書室に来るなんて珍しいわね」
そこにはアリスと同じ猫耳に肩までのウェーブのかかった赤い髪をしたお淑やかな雰囲気な女性がいた。
「紹介するわ。私の姉さまで高等部1年のミリア・ネクロフィアよ。んで姉さま。私のチームメイトのウィル・アースガルドよ。」
名を聞いたミリアは読んでいた本を閉じ、じっとウィルを見つめる。
「君が、怠惰の大帝ね。一度話してみたいと思っていたの」
「俺もです。アリスから話を聞いて、お話ししてみたいと思っていました。」
怠惰と憂鬱の大帝の性格はかなり似ていることもあって、お互いに利害が一致すると思い興味があった。2人の心を見透かしたようにアリスは苦々しい顔をしている。
「たまにここで見かけてはいたのだけどなかなか――っ」
ミリアはウィルの陰から現れた笑顔の人物を見た瞬間、口を開けたまま固まった。
「ミリア。お久しぶりです。昨日の式典で会えると思っていたのですが、会えなくてとても寂しかったですよ。」
「シッシシッシルフィー!何でここにっ」
ミリアはシルフィーの姿を確認すると後ろに倒れんばかりに椅子を揺らす。冷や汗を流し体が小刻みに震え始めた。
「もしかして、式典に出席せずにここでこうしていたわけじゃないですよね?式典より本が大事……なんてことはありませんよね?」
「いやそんなことは……」
先程までのお淑やかなさは影を潜めシルフィーに対しての尋常ではない反応にウィルは驚きアリスに耳打ちする。
「なにこれ……」
「姉さまはシルフィー対しては、何かやましいことがあるとこんな感じなのよ。ちょっと幼い頃にあってね……」
アリスは幼い頃の出来事を話し始めた。
幼い頃よく3人で遊んでいたが、ミリアは昔から本が好きで、シルフィーが遊びに来ても1人、本を読むことが多々あった。
あるとき、なかなか一緒に遊んでくれないことにシルフィーがミリアに、「友達なら一緒に遊びましょう」といった時、ミリアは「本も大切な友達なの」と返したのだ。
その直後から、ミリアが大事にしていた本が日に日になくなっていった。
ある日、ミリアはシルフィーの誘いから逃げるため庭の木の裏に隠れて読書をしていたところに、ミリアの大事にしていた本を持ったシルフィーが庭に現れると火属性魔法で灰に変えたのだった。
そしてこう呟いていた「これでミリアは遊んでくれるかしら」
話を黙って聞いていたウィルは確認する。
「それって何年前のこと?」
「私とシルフィーはその時はまだ8歳ね……私はその光景を偶然部屋の窓から見ていたけどあの雰囲気は子供の出すものじゃなかったわ。」
年齢を聞きウィルは恐怖した。8歳の子供が取る行動ではなかったからだ。ミリアもその時はまだ9歳ということになる。そんなことがあればああなるだろうと、目の前の彼女の様子を見直した。
「シルフィー。違うの、昨日はたまたま体調が良くなくて……」
「そうでしたの。汗すごいですよ。まだお体の調子がよろしくないんじゃ」
「そうね。今日はもう部屋に戻って休むわ」
そう言うと、逃げるように図書室を出て行った。
「はぁーまったくあんなになるぐらいなら式典出なさいよ。」
「ははは……」
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