第13話 今後の計画

3人はフィールドから控え室に戻りくつろいでいた。

無傷のウィルに対して2人は見るからに擦り傷だらけでぐったりして痛々しい姿だ。


「シルフィー治癒魔法お願い」


アリスは治癒魔法をお願いするが。


「ごめんなさい。魔力がもうほとんど残ってないんです」


シルフィーがそう言うとアリスは肩を落とす。


「ごめん。俺が治癒魔法覚えていればね」

「ウィルさんは治癒魔法は使えませんよ」

「え?」

「治癒魔法は光属性の魔法ですから。ウィルさんは光属性の魔法は一切使えないじゃないですか」

「え! そうなの?」


魔力の特性について何一つ理解していないウィルに驚きつつアリスのほうに目をやり驚いた声色で問う。


「アリス。ウィルさんにそのあたり教えてないのですか!?」

「いや……私はあくまで実戦の中で魔力の使い方をこいつの体に叩き込んだまでで……」

「なるほど……だから森で氷属性や雷属性の魔法を主に使われていたわけですか」


焦るアリスの反応を見てシルフィーは呆れていた。


「ウィルさん、怠惰の大帝の魔力は闇属性で、闇属性の魔力は力強く、他の属性の魔法を普通に使えますが、本来の力を発揮するのは同一属性の闇属性の魔法なんです。その一方で闇と正反対の光属性の魔法を一切使えないんですよ」

「だから詠唱を覚えても使えない魔法があったのか……」


ウィルは学院の図書室でアリスの特訓から逃げるついでに片っ端から魔道書を読み漁り、詠唱を覚えては試していたが、光属性の魔法が一切発動しないことに疑問に思っていた。



「まぁー詠唱を覚えたら即魔法が使えるのはすごいことですが……」

「ん? そうなの?」

「まさか……怠惰の大帝のスキルについてご存じなかったりしませんよね?」


ウィルの反応に違和感を覚えたのか、再度目を見開き2人にシルフィーは問いかける。


「スキル?」

「あっ……」


アリスから漏れ出て小さな声にシルフィーは頭を抱えた。


「怠惰の魔道士を書いた本で出てくるではありませんか! 怠惰の大帝のスキルは一度詠唱を覚えれば最上級魔法を除いては全ての魔法を即行使できると」

「仕方ないでしょ!! 授業の模擬戦で一日でも早くこいつを使い物にするにはそこまで余裕なかったのよ!!」


シルフィーは再度頭を抱えた。

本来魔法を詳しく知っていれば、魔剣がなくてもウィルはシルフィーとアリスを容易く圧倒するだけの力を秘めている。

それを想定してシルフィーは2対1という騎士としては承認しがたい戦闘を承諾していたのだ。

蓋を開けてみれば、まだまだシルフィーが想定していた力とは程遠く、それを放置しているアリスにあきれ果てていた。


「分かりました……では私が魔法の先生になり基礎的なことをウィルさんにお教えします!」


シルフィーが先生役を申し出た所に、控え室の扉が開きカロルドとレイシアが入ってきた。


「お疲れ!」


カロルドは作戦が大成功の結果に終わり満面の笑みだ。


「いやー 一時はどうなるかと思ったけど最高な盛り上がりだったな。今日は本当に助かったよ。王女様もこのような物に参加していただき本当にありがとうございました!」

「いえいえ。皆様も楽しまれていたみたいで良かったです」

「ん?」


笑顔を見せるシルフィーだが、傷だらけの姿にカロルドが気がつく。


「レイシア。王女殿下に治癒魔法をかけてくれ。ついでにアリスにも」

「はいはーい」

「ついでって何よ。私もわざわざ参加してあげたのよ」

「お前はそんな傷じゃビクともしないだろ」


激怒するアリスを気にせずにレイシアが回復魔法を発動し、光がシルフィーとアリスを包む。

みるみる傷が消えていき、ものの数分で傷がなくなった。


「王女様の魔法までとは行かないけど私の魔法もなかなかでしょ」

「ありがとうございます。レイシアさん」

「どういたしまして」


2人が笑顔で見合う中、カロルドが話を進める。


「あとウィルこれを」


そう言うと気まずそうにウィルに1枚の紙を手渡した。


「請求書?」

「ああ……俺たちが誘っておいてこんなこと言いづらいんだが。おまえの最後の攻撃で客席の屋根が吹き飛んだろ。それの修理代だ」


書類に目をやるとすごい数の0があった。

0を数えるウィルは真っ白になっていた。

この世界の相場は単位は異なるが、ウィルの元いた世界とあまり変わらなかったため、どのくらいの金額かは直ぐに分かった。


「わっ」


シルフィーはほっぺをくっ付け紙を覗き込んだ。


「大金ですね。ご安心ください。今回の件は一応王族の代わりに参加していただいている名目ですので私のほうで何とかしましょう」

「ほんとに!!?」


真っ白になっていたウィルは首をぐるりと回しシルフィーの顔を見る。


「ええ。王族の婚約者に借金があるのは問題ですから。おじいさまも分かってくださるかと思います」

「ソッカ・・・」


ウィルはますます狭まる王族の包囲網を感じていた。


「じゃ修理のほうはお願いします。ところでこのあと俺とレイシアは学院に戻るが、おまえらはどうするんだ? 良かったら一緒に送らせるが」

「んじゃお願いするわ」

「俺も頼むよ」


アリスとウィルはありがたく申し出を受ける。


「あっウィルさんはちょっと王都に残ってください。おじいさまからお話があるみたいですので」

「シルフィーこのままウィルを王宮に囲ったりはしないでしょうね?」

「そっそんなことしません! たぶん……」


アリスは不安をシルフィーにそのままぶつけるが、思ってもいなかった案にそれもいいなとシルフィーは考え腕を組み口に手を当てる。


「では王宮に戻りましょう」

「んじゃ俺は話が終わったら飛んで戻るよ」


シルフィーに引きづられるようにウィルは闘技場を離れ王宮へと戻っていった。


「じゃー俺たちも行くか」



アリスたちが学院に戻って数時間後にウィルは学院に戻った。

学院に戻ったウィルは早々にアリスに全てのいきさつと自身の考えを話していた。


「なるほどね」

「何か手はないかな」


ウィルは藁をも掴む思いで助言を求めた。


「ないわね」

「………………」


即答するとウィルがシュンとしてうつむく。


「相手があのシルフィーじゃ手のうち用がないわ。いまさら手遅れだけど、王宮で目が覚めた直後に逃げていればここまでのことにはならなかったはずよ。もうあきらめて婚約を飲むことね。私が言うのもなんだけど、性格以外はシルフィーは完璧だと思うわよ」


「………………………………」



過去に色々あり内心シルフィーの逆鱗は、ドラゴンの逆鱗以上に恐ろしく思っていたアリスはできればこの件には関わりたくなかった。

アリスが腕を組み自業自得と思いつつウィルのほうを見ると、この世の終わりみたいな表情をしてうつむいている姿があった。


「でっでもよかったじゃない……高等部卒業までは待ってくれることになったんでしょ。それまでに何か考えれば……」


闘技場でアリスと別れたあと、今後のことで陛下を含め3人で話し合っていた。

アリスの推測どおり陛下の話は、学院に通うのは止め、王宮で勉学に励みながら騎士として生活する提案であった。

さすがのウィルも、そうなってしまったら終わりと思い、様々な言い訳と遠まわしに騎士の称号を返還する意図も示した。

その結果どうにか高等部卒業までは、騎士として任務があれば参加することを条件に、学院での生活と、結婚を待ってもらえることになった。


「そうだね」

「まだ4年ぐらいあるんだし。最悪逃げればいいし。そんな悲観する事はないわよ」

「そうか……逃げればいいのか」

「ちょっと」

「わかってるよ。まだ今すぐというわけじゃないよ。もっと力をつけて、逃げても手が出せないぐらいの魔道士になれば自由な生活が……俺を待っている!」

「………」


ウィルの計画を呆れるように聞いていたアリスには、もう一つの不安が浮かんでいた。

シルフィーは自身の願いをかなえるためであるのならば、手段を選ばないということだ。

アリスは見知った彼女の性格と、ウィルの案を聞き、国中を巻き込みかねない事態にならないことを切に願った。


「うまくいくといいわね。私はそろそろ寝るわ。それと今の話、私は何も相談してないし聞いていないということで……」


アリスはこの件にこれ以上首を突っ込むのは危険と判断し、そう言うと自室に戻っていった。

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