第7話 妖精との出会い

王都サンルシア、街中には水路が張り巡らされており、水路には数多くの船が行き交い人々の交通手段に使われている。アレーネシアのように町の周りには城壁はなく周囲を湖が囲み天然の城壁になっている。元々巨大な湖に浮かぶ山を切り崩して作られたこの町は中央に行くほど緩やかだが土地の高さが増し町の中央には雲をを突き抜けるほど巨大な城がそびえ立ち雄大な雰囲気な町だ。

その城の中の1部屋にウィルの姿がある。


「ここは……」


ウィルが目を覚ますと知らない天井があった。


「またか……またどっかの世界か?」


大きなベッドにバルコニーへと続く戸の向こう側には大きな湖が見えた。

部屋の中には高級感が漂っており、部屋に飾られた装飾一つ一つがすごく品格が高そうなものばかりが飾られていた、

そんなことをウィルが考えていると横向きになって寝ていた背中になにやら柔らかなものが当たった気がした。

ウィルはふと後ろを見ると


「うわぁ!」


後ろを振り返ると言葉では言い表せないほど目鼻立ちが整った金髪碧眼のエルフの少女が一緒にベッドで寝ていた。大きな目でウィルを見つめている。


「やっと目を覚まされましたか。怠惰の魔道士さま。」


ウィルは驚きのあまりベッドから飛び起きた。


「ぇっえっどういこと???」


再度ベッドにいる少女に目を向ける

彼の前には2つのどこまでも透き通るような碧眼、腰までの鮮やかな金髪で寝着姿の少女がいる。布の上からでも見て取れるほど美しいプロモーションを持ち、まだ顔にはあどけなさが残り年の頃はウィルと同じぐらいだ、しかしそうとは感じられないほどの色気をかもし出していた。

そんな彼女のことを目の前にしつつ現状の状況をまったく把握できずにいたウィルだが森での出来事を思い出しハッとして自分の腹部を確認した。


「あれ…………傷がない」


森での戦闘で腹部に深い傷を負ったはずだったが目に映る範囲では傷が一切見受けられない。


「ご安心ください。森で受けた傷でしたら私が治癒魔法で治療させていただきましたので。」


シルフィーはベッドから体を起こしつつもウィルを見つめたままだ。


「あっ君は森にいた人だよね?」

「はい。私はシルフィー・フィル・オーランドと申します。どうそシルフィーと及び下さい。危ないところをお救いくださいまして感謝の言葉もありません。」

「いやいや感謝も何も俺がやりたいようにしただけだから気にしないで、それに結局は俺の方も助けてもらったし。」


ウィルは最初はほっとけない気持ちで乱入したが、すぐにストレス解消に方向転換してしまっていたので感謝されると少し申し訳ない気持ちに苛まれていた。


「ところでここはどこ?」

「ここは王都サンルシアの王宮です。」

「はい?…………王宮って王様がいるあの王宮?」

「はいそうですわ。」


森で戦い傷を負い、目が覚めたら王城の中の一室で美少女エルフと一緒に寝ている。

こんなわけの分からない状況に混濁した記憶でこの状況を理解しようと頭がいっぱいになった。

寝着姿のシルフィーは胸に手を当て


「怠惰の魔道士さま……ですよね?」

「俺はウィル・アースガルド。ウィルでいいよ。」

「ではウィルさん、私は小さい頃から怠惰の魔道士様に憧れを抱いていまして。いつか私もあのようになりたいと考えるようになり、魔道士として鍛錬し続け、王国の騎士の称号も頂き小さい頃からの夢をかなえたのですが。もうひとつ夢がございまして将来を添い遂げる方は怠惰の魔道士様のような殿方と決めていまして。」

「えっ」


そう言うとシルフィーはベッドから起き上がりウィルに歩み寄っていく。

ウィルは後ずさりして行き部屋の壁に追いやられシルフィーの顔が眼前に迫ってきた。

正面には柔らかな感触が感じ取れ、股の間にはすべすべの太ももが入れられ横にも逃げられない。


「ちょちょっと」

「もしウィルさんにお相手の方がいなければそのようなことを考えていただけないでしょうか?」

「ごめんいきなりすぎて何がなんだか・・・君みたいな子に好意を向けられるのは嬉しいけど……」

「怠惰の魔道士さまであり、命を助けていただいたそれだけども十分かと思いますが」

「は?」


シルフィーは強く体を密着させ彼に密着した胸は潰れる。


「まった!そのえっと」


ウィルは密着してこちらを見上げて頬を赤らめたシルフィーを見ながら、あまりの急展開に考えがついていかずに赤面し返答にしどろもどろしながら困っていると。部屋の扉をノックする音が聞こえ白マントを纏った高貴な雰囲気のエルフの老紳士がはいってきた。


「どうやら目が覚めたみたいじゃな。」

「おじいさま」


シルフィーがウィルに密着したまま老紳士を呼ぶ。


「わしはこの国の皇帝。カルマ・フィヨルド・オーランドじゃ。」

「皇帝陛下!!」


陛下が名乗るとウィルが驚き叫ぶ。だがその事実にもうひとつ、はっと気がつき、しがみついているシルフィーを見る。


「おじいさまって?」

「ええ。私はこのオーランドの王女。シルフィー・フィル・オーランドです」

「王女様!」


ウィルは驚愕し体中から冷や汗が噴き出す。


「おっ王女様、先ほどまでの無礼な態度大変申し訳ありませんでした。」


ウィルはシルフィーから目にも留まらない速さで離れると即座に向かい合い一部の迷いもない見事な土下座で謝罪をした。

王族に無礼をはたらいた者の末路など、どの世界でも共通だろうと必死に頭を下げる。


「おやめください。畏まらなくても、さきほどまでと同じ対応で大丈夫です。」

「はぁ~ちょっ」


とりあえず即首ちょんぱはないと安堵し体を起こしたところにシルフィーが飛び込んできた。


「それはそうと先ほどのご返事を頂きたいところなのですが」


ウィルは再び冷や汗を流し始めた、さっきはただただ唖然としていたが今度は状況が違う。

シルフィーの祖父の皇帝陛下がやり取りを見ているのだ。

ウィルは恐る恐る陛下を横目にちらりと見る。

陛下は真剣な眼で2人を見ていたが急に表情が崩れると


「ハハハ。彼が怠惰の魔道士ということでもしやと思っておったがやはりもう行動に移していたかシルフィー。」

「私は自身の信念を貫いているまでです。」

「とりあえず今は離れなさい。話が進められん。」

「わかりました……」


シルフィーはしぶしぶウィルから離れ陛下の横に立った。


「改めて先日は我々を危ないところ助けていただき感謝する怠惰の……いやウィル・アースガルドよ」


ウィルは陛下にいつの間にか名を知られていて驚く。


「君を連れて王宮に戻って直ぐにセレジアに君と事の顛末について話したのじゃ。」

「そうでしたか。」


今一度ウィルを覗き込むようにじっくりと見直す陛下。


「それにしてもまさかわしの代で怠惰の魔道士をみることができるとはおもわなんだ。約500年ぶりか……しかも異世界人だとはな」

「500年?大帝は1人ずつはいるはでは?」


結構前にアリスに大帝は基本的には1種類1人と聞いていた。アリスの説明が正しければ陛下の言うことは間違っているかウィル自身もまだ知らないことがあるということだ。


「うむ……他の大帝については世代に1人は必ず存在しているのじゃが・・・怠惰だけは違う。怠惰は最初の1人以降現れておらんのじゃ。」


一番最初に大帝が現れたのは500年前、魔物たちが活発で国を容易に滅ぼすことができる強大な魔物が多数存在している時代で魔物の脅威に対抗するため7人の魔道士が立ち上がり。後に怠惰以外の魔道士が世界に宣戦布告し怠惰がそれを阻止しそれ以降誰一人現れていないことになる。


「君には500年前何があったか知る権利がある。少し長くなるが話を聞いていただきたい。」


そう言うと陛下は語りだした。

約500年前、魔物の王で神獣と呼ばれる魔物が出現し町や国が神獣の襲撃を受け滅んでいった。各国最大戦力で神獣を食い止めようと迎え撃ったがなすすべなく次々と滅んでいった。

世界は魔物によって支配されつつあったが。

ある時神獣がこの王都サンルシアを襲撃する時に一人の魔道士が立ちふさがり、ありとあらゆる魔法を駆使して、各国の精鋭の魔道軍隊でも手に負えなかった神獣をたった一人で撃退したのだ。

それが後世に語り継がれている怠惰の魔道士だ。

怠惰の魔道士はある時神獣の討伐を国から指令を受けるが、たった一人では撃退が精一杯だった。そのため自身が契約している闇の大精霊と同等の力を持つ「火」「水」「土」「雷」「風」「氷」の各属性の大精霊に人に力を与えるよう交渉し神獣に対抗すべく強力な魔道士を生み出した。

その魔道士達が最初の大帝と呼ばれる魔道士達になる。

8人の大帝は連携し神獣と近い力を持つ魔物を複数倒し世界から魔物の脅威を退けた。

しかし怠惰以外の7人の大帝は私利私欲に走り世界の分配について争いだしたのだ。

怠惰の魔道士はその状況に憂い7人の大帝によって起こされた戦争に介入し全ての大帝を討ち世界の均衡を保った。


「ここからが君に聞いてほしい内容になる」


陛下は話を続ける。

大帝を討った怠惰の魔道士から近隣諸国王達にあることが伝えられた。

大帝は世襲制で自身で力を譲渡するか、譲渡せずに死んだ場合は血縁者に受け継がれるということだ。

その事実を知った各国の王達は大帝の血縁者が復讐で世界に戦火を広める可能性を恐れ、王

は全員一致で全ての火種を絶やすことに決めた。それを聞いた怠惰の魔道士は自らの選択、大帝を生み出したことを後悔し呪った。

だが非常な決断を決めた時には既に2代目の大帝が力を付け始めたころで既に一般の魔道士では手を付けられない状況であった。初代の大帝たちとは異なり2代目大帝達は既存の国家相手にも侵略を進めていた。だが大帝達の進行を止められる力は国々は持っておらず、そこで王達は怠惰の魔道士にあることを命じた。


『全ての火種を消せ』と


怠惰の魔道士は自ら招いてしまった結果を正すため2代目大帝を討ち関連する人・関連する場所も全てを消し去った。

だが、それを成し遂げた怠惰の魔道士はそれ以降二度と姿を現すことはなかった

これが500年前におこったことであった。

陛下は過去にあった出来事の話を終えるとさらに続ける


「この国、いやこの世界は怠惰の魔道士のおかげで今ここにあることができている。だがあの時の王達は、そのことも忘れ大帝の力を恐れ、全ての業を怠惰の魔道士に押し付けてしまった。到底許される話ではないが、世界各国の王を代表し謝罪する。」


陛下は苦しそうな表情を浮かべウィルに頭を下げる。

ウィルはその謝罪が自分に向けられたものではなく怠惰の魔道士に向けられていることに陛下に尊敬の念抱き、その光景を固ずを飲んでただ見ていた。

しばらくの沈黙の後


「さて堅苦しい話はこのくらいにして、今回の件、お主には感謝しても仕切れない。こんなものでは礼にならんじゃろうが、騎士の称号を受け取ってもらえんじゃろうか。」


シルフィーが重い話が終わったと察し再びウィルの腕にしがみつく。


「それはいいアイデアですわ。ウィルさんにはふさわしい称号かと思います。」


陛下のほうを振り返り陛下の案に賛成した。


「騎士というのがどういったものかは分かりませんが、俺はまだ魔法に触れて間もないひよっこ魔道士ですよ?」

「問題はない。実際に君はその魔法と剣技で我々を救ってくれた。その事実だけで十分その称号に値する。」

「わかりました。」


ウィルはこれ以上は失礼に当たると思い渋々承諾した。

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