第3話 怠惰の大帝
太陽が昇り鳥達のさえずりが聞こえ始めた頃、
『ぎゃぁぁぁぁー!!』
学生寮のある部屋で爆発音と悲鳴が轟いた。
この学院ではチームとなったものは男女問わず共同生活することが義務づけられており、学生寮の部屋は一定のプライバシーが守られるように各位の部屋とダイニングがついた部屋になっている。
そんな学生寮で爆発音と悲鳴が聞こえたのは、ウィルとアリスの部屋だ。
チームとなれば学院の授業でチームとして成績がつくことが多々あるためアリスは昨晩のうちにウィルを鍛え上げると心に決め今朝から特訓に移ろうとしたが、ウィルが何をやっても起きなかったため痺れを切らしたアリスは火属性魔法をウィルに叩き込んだのだ。
「目が覚めたかしら?おはよ」
「ああ……危うく覚めない眠りに尽きそうではあったけどね」
部屋の壁がところどころ焦げ、焦げ臭い匂いが室内に充満していた。
ウィルの髪の毛は爆発でちりちりになり、お互いに怒りを顔に表しながら朝の挨拶を交わす。
「んじゃ朝食を済ましたら早速特訓するわよ」
「特訓?」
「ええ。不本意ながらもチームになったんだから。ウィルの評価は私の評価にも繋がってくるんだから最短であんたを1人前の魔道士にしてあげるわ。とりあえず今日は魔力の使い方と魔装と飛行術式ね。」
ウィルはあからさまにいやそうな顔をしている。昨日1日だけでも数回命を落としそうになる散々な目にあったのだ今日はゆっくりしたいと思った。
「いやなら別にいいけど……今度は髪の毛だけじゃすまないわよ?焼き加減はどのくらいがご希望かしら?」
アリスはそういいつつ右手をウィルにかざし、掌には魔方陣が浮かび上がった。
「わわわかった……やるよ」
朝から過激な起こし方をするアリスのことだ。
もしここで断った場合今度は髪の毛ではなく、じっくり中まで焼かれるのは間違いないとウィルは悟った。
「魔装と飛行術式を覚えておけば明日からクラスに編入しても魔法技能の授業に関しては問題ないはずよ」
昨日の儀式後に気がついたら首にかかっていたネックレスが精霊装飾なのだがウィルはどういった武器や装備になるのか少し楽しみではあった。
「具体的に何をやればいいの?」
「んーそうねー、魔力の使い方と魔装に関しては基本的にはイメージトレーニングね。飛行術式に関しては……そうだ!私が魔法を打ち込むからあんたはそれをかわすといったところかしら。人は窮地の時こそ成長するというものね」
「……」
昨日ドラゴン相手に打ち込んだものを自分に向かって討たれるのかと、身の危険を目で訴えるがそれを横目に淡々と話を進めるアリス。
ウィルは今日一日、怪我と命を落とさぬように気をつけるのを心に誓うのであった。
「そういえば昨日の水晶に魔力を注ぎ込んだとき何かイメージが頭の中にわいてこなかった?昨日は色々あったけど、チームを組むことになったんだからあんたの魔力裁定ぐらいは把握しておく必要があるわ。」
「イメージね~特にはそんなことはなかったな」
昨日のことを思い出しアリスが怒りを抑えているのが目に見える。
入学審査用の水晶には魔力をこめた者は、魔力の大きさと同時に魔力裁定をその者に知らせる性質がある。だがウィルが魔力を注ぎ込んだ瞬間水晶は壊れてしまい魔力裁定を知ることができずにいた。
「ならこの紙に魔力をこめてみて」
アリスは一枚の紙を差し出す。見た感じ普通のA4ほどの白い紙に見える。
「この紙に魔力をこめると、こめた者が所持している魔力裁定とその詳細がわかるの。」
「裁定って誰でも持ってるものなの?」
「持っているほうが稀だけど、あんたの魔力量ならなにかしらあるはずよ」
ウィル自身アリスの裁定「真実」のことがあり自分の魔力裁定が気になっていた。
紙に手を置き昨日の水晶の時と同じように魔力をこめると文字が浮き出てきた。
神を覗き込もうとした瞬間アリスが紙を掻っ攫った。
「なになに~」
その瞬間アリスが固まった。言葉を失うほど使えない能力だったのかと、ウィルはまた理不尽に扱われると思い身構える。
「怠惰」
アリスはそうつぶやくと紙をウィルのほうに向ける。紙にはウィルのネックレスと同じデザインの六芒星が書かれ怠惰と書いてあり、その下に本来ならば詳細が書いてあると思われる枠の中には何も書いてなかった。
「やっぱり……もしかしたらと思ったけど……」
「えっと、どういうこと??」
動揺をあらわにするアリスに対し問いかける。
「いい? 怠惰の魔力裁定は大帝と呼ばれる人間の七つの欲求を意味する最強の魔力裁定の一つよ。大帝は「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」の8つあってこの世界を救った英雄たちが持っていた裁定と言われているの」
「へ~そんなにすごいの?」
「いや……ありえないわ……しかも怠惰の大帝だなんて……」
大帝の魔力裁定は1世代に1種類につき1人しかいない希少な魔力裁定で、その能力は意味する欲求の種類にもよるが、大抵の場合強大な魔力と他の追随を許さないほどの特殊能力があるらしい。
「裁定ってアリスの嘘を見抜く力ってこと?」
「裁定といっても色々あるから内容まではわからないわ。魔装ができれば何かわかるかもしれないけど」
ふと思い出したようにアリスは自身の部屋に行き1冊の本を持ってきた。
「この本をかしてあげるわ。怠惰の魔道士の物語が書かれている本よ」
「物語ね……」
ウィルは昨日学院長の部屋で大量の本を見かけたが、この世界の文字なのかまったく読めなかった。そのため本をすぐに返そうとしたが、本に目をやるとなぜかほんのタイトルを理解することができた、本をぺらぺらと流していっても不思議と文字を理解できる。
どうやら魔力を得たことが影響しているみたいだ。
「ありがとう。読んでおくよ。」
話を進めていると急にお腹がなる音が聞こえてきた、ウィルがアリスの顔見ると赤面して恥ずかしがっている。
「とっとりあえず朝ごはんを食べに食堂に行きましょ」
「俺はいいよ食欲もないしもう少し寝るよ」
「これからあんたを鍛えるんだからエネルギー補給しときなさいよ」
ウィルは食欲よりも睡眠をを取りたいようだが、そんなことお構いなしにアリスに引きずられ部屋を後にする。
アレーネシア聖魔道学院には国中から魔導士を志す少年少女が親元を離れ集まってくる。そんな彼らのため学生寮の食堂のメニューには国中の郷土料理が並んでいる。
メニューを少し見た感じだと名前は異なるが前の世界にあったものと似たようなものと思われるものがいくつかあった。その一方で間違いなくゲテモノ系と思われる物もあった。ウィルは比較的安全なものから試すのかサンドパンを注文し、少し待つとパンに野菜と卵がはさまれたものが出てきた。
ウィルは想像通りのものが出てきて安堵しアリスと食べ始めたところに1人の男子生徒が話しかけてきた。
「アリス、珍しいなお前が誰かと飯食ってるなんて」
「別にいいでしょ」
「あれ?こいつは?」
「明日から私達のクラスに転入するウィル・アースガルドよ」
アリスは口をもぐもぐさせながらウィルを男子生徒に紹介しながらも食べ続けていた。
「そうなのか、俺はカロルド・ハーゲンだ、カロルドでいいぜよろしくなウィル」
「ああよろしくカロルド」
人見知りというほどではないが外交的な性格ではなかったウィルにとって、すぐ仲良くなれそうな明るくフレンドリーなカロルドはとても心強い。
「まだこの学院に来たばかりなんだろ?よかったらあとで学院を案内してやろうか?」
「ほんと!?」
ウィルは胸を張って横に立つ青年を見上げるが
「却下。ウィルとチームを組むことになったからこの後徹底的に鍛える予定よ」
「おまえらチームを組んだのか!?」
改めてカロルドはウィルに目をやり髪の毛が一部ちりちりになっていることに気がついた。
「なるほどな今朝の騒ぎはお前らか。ははっ楽しくなってきそうだ。悪いな、俺も用事を思い出しちまったから行くわ。また後でな!」
カロルドはそういい残すと走り去っていった。
「まったく。騒がしいやつね」
「ははは」
ウィルとアリスは、食事を済ませ訓練のため学院敷地内にある訓練用の競技場に向かった。
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