第2話 アレーネシア魔道学院
学園の敷地内に入ってから既に20分以上経っていた。
アレーネシア魔道学院はオーランド皇国唯一の魔道学院であったため、国中から大量の生徒があつまり、敷地もそれに応じた広大な敷地であった。
学院内の長い長い廊下をアリスに案内され、複数の廊下を歩ききったところで1つの部屋の前で止まる。
「着いたわよ」
「いくらなんでも大きすぎるだろこの学院……」
大きな扉の前に立ち止まるとアリスは扉をノックする。
「入りたまえ」
「失礼します。さきほどの者を連れてきました」
部屋の中の両脇には本棚があり、分厚い本が大量に納められている。
遠目でも本の表紙に字が書かれてあることはわかるが、なんて書いてあるかわからない。
ウィルが知っている文字とは明らかに異なる文字で書かれていた。
部屋の一番奥の窓際に机が置いてあり、そこに茶髪のウェーブがかかった髪をした、1人の女性が椅子に座っていた。
見た目は二十代後半といったところでどうやら先ほどの通信機からの声の主らしい。
「アリス、君は本当にトラブルに愛されているね、もう少しお淑やかにしたらどうだい?」
かなり軽い口調の女性は、あきれた様子でアリスに話しかける。
「私だって好きで巻き込まれたいわけじゃありません。それに賭けに勝ったのだから占いの講義は今後一切免除でお願いします!!」
「不本意だけど仕方がないねぇ。それにもしかすると君の行動は世界を揺るがしかねないかもしれない」
「え?」
椅子に座った女性はウィルへと視線を向ける。
「さて君がウィル君だね。私はこのアレーネシア魔導学院の学院長をしているセレジア・フォン・アレーネだ。通信機でおおよそな経緯は聞いていたよ」
「学院長、この者ですがすぐ騎士団に引き渡すべきです。魔法も使わず祭壇にいて無事な者など聞いたことがありません」
「おいおい。君の占い人だろ??」
「何重にも上級結界が貼ってある遺跡に魔法もまともに使えない者が入れるわけがありません。どう考えても異常です」
「異常も何も彼が言っていたじゃないかい? 異世界人だと。裁定で彼が嘘をついていたかい?」
ウィルに話しかけるセレジアだったが、アリスが割り込む。
どうやらアリスはウィルが異世界人というのは信じているようだが、ウィル自身にまだなにかあると疑っているみたいだ。
だがアリスの持つ能力には嘘を見抜けるというものがあるらしい。セレジアの言葉でアリスが口を紡いでいることを考えればウィルの言っていることを肯定しているということだ。
「君の懸念もわかるが……祭壇は、魔力の低いものなら意識を保つのが困難なほど魔力濃度が高い、魔法を知らずに生きているわけがない。だから何かあるというわけだろ? 」
「はいそうです! 私でも魔装を展開していなければ数分と耐えられません!」
「確かに、でも魔力に目覚める前でも高純度の魔力濃度に耐えた話は聞く」
「あの遺跡だけは別格です」
「異世界人の人間種の黒髪の少年か。ようやく止まっていた時が進み始めるのかねぇ」
「どういうことですか?」
「さぁてね」
少し沈黙し、何か考え込んでいたセレジアが何かを思いついたように話し始める。
「さてウィル君、私としては解放してあげたいところなんだがそうもいかない。君はどんな事情があろうと学院内の遺跡への不法侵入をしたわけだ、通常なら騎士団に身柄を引き渡すところだが、どうだろうか、この学院で魔法を学んで見ないかい?」
「学院長!」
セレジアの意外な提案にウィルは困惑する。
騎士団はこの世界の軍みたいなものだろうか、どういった組織かは定かではないが、前いた世界の軍であれば状況的に遺跡への侵入で、盗賊か密偵あたりで罪を作られそうだ。実質選択肢はないに等しい。
「わかりました。ですが魔法なんてもの俺は使えませんよ」
「魔法については安心したまえ、この世界でも魔法適正0の者は少なくはないが、私の見立てでは恐らく君は相当な魔法資質を持っていると思う。」
セレジアは席を立つとウィルの隣に立つ。
「ただ、問題なのは本来であれば数年かけて自身の中の魔力を理解し魔法を開花させるもの。開花した者が在籍しているのがこのアレーネシア魔道学院だ。魔法を使えぬ現状の君を入学させるわけにもいかない」
不安に苛まれウィルはうつむくが、それを見てセレジアは面白げににやにやと口元を緩ませる。
「安心したまえ。少々荒い呼び起こす方法だが、降魔の儀式といって外部から高密度の魔力を体内に注ぎ込み無理やりこじ開ける方法もある」
「本当ですか?」
「もちろんだよ。私が開発した魔法でね。ちょうどよかったよ。なら早速やってみよう。場所を変えるよ」
そう言うのと同時にセレジアの足元を中心に魔方陣が出現する。
一瞬光に視界を奪われたかと思うと、今いたはずの部屋ではなく先ほどまでいた遺跡の湖の中心にあった小さな島にいた。
遺跡の前の湖には夕日が映し出され、先ほどまでとは光景が一変し、湖には夕日が映し出され美しい黄昏の光景が広がっている。
島を見渡すと、一面石畳で覆われた島の中心には魔方陣が描かれ中央には何かを置く台座が設けられていた。
「今のも魔法?」
いきなりこのようなことが起こり驚くところなのだろうが、色々なことが立て続けに起こりすぎてウィルは考えることをやめた。
「学院長の転移魔術よ」
「ウィル君これを」
セレジアは握りこぶしより一回り大きな水晶を取り出す。
水晶の中には様々な色に輝く光が見受けられる。
「これは?」
「これは大気中のマナを集める水晶でね、この輝いているのは大気中から集めたマナの光だよ。そこの魔方陣の中央にある台座におけば、魔法陣がその水晶の効力を爆発的に高めてマナを魔法陣内に充満させる。その時に魔法陣の中にいる者の魔力を呼び起こすんだよ。儀式が始まると魔法陣が光るから光が完全に消えるまで魔法陣から決して出ないようにね。たまに廃人になったり、運が悪いと体はバラバラになっちゃうからね」
セレジアの説明を静かに聞いていたウィルだが、説明の最後の一言に顔が引きつる。
「まぁまぁ安心しておくれ、今までは魔力の低い者しか挑戦したことがないからね。君ならばほぼ問題ない。さぁ、そこの台座に水晶を置けば君も魔法使いだ!」
肩をバシバシと叩かれながらすごく軽い口調で簡単に説明し直しているが不安しか感じていなかった。
だがどのみちこれからどうするか決まっていない。ウィルは渋々セレジアから水晶を受け取り魔方陣の中に入った。
「君のタイミングで始めるといいよ」
「分かりました」
あきらめたように返事をしながら言われるがまま台座の前に歩みを進め一呼吸置く。
水晶を台座に置いた瞬間、水晶が大きく紫に輝きはじめ魔方陣が目がくらむほどの光に包まれた。
魔方陣からは空高く紫色の光が伸び、夕日で鮮やかに染め上がった美しい空が二つに割れた。
太陽が地平線に沈むまで光が収まることはなくウィルは光の中で妙に落ち着いた気持ちに包まれていた。ようやく光が消えた時には周りは太陽が沈み薄暗い。
「どうやら私の勘は正しかったようだね。祭壇で意識を失わずにいられたのは潜在的な魔力量が高いためだと思ったが、鍛えればアリスを簡単に超えられるんじゃないかい?」
「魔力が高くてもなんでもないですよ」
一般的な魔道士の資質を持つ者の場合、魔法陣が薄く光る程度だが、空を割るほどの光を発したのはウィルの魔力量が多い証明であった。
セレジアは意地を張るアリスを面白そうに見つめ、納得いかなそうな表情を浮かべているアリスはウィルに詰め寄っていく。
だが近づくとあることに気づいた。
「あんたその首から提げているネックレスって……」
気がつくとウィルの首には丸い枠の中に、透き通るような紫色の六芒星の形をしたネックレスがかかっていた。
「まさか、精霊装飾!?」
「これは驚きだね。何かしらの精霊が君には宿っていたみたいだね」
きょとんとするアリスを横目に見つつ口を開いた。
「そんなにめずらしいことなんですか?」
「あたりまえでしょこんなこと聞いたことないわ」
「そうなんだ……」
「それにこの形……って」
アリスがウィルの首にかかる精霊装飾を凝視しているとセレジアがそれを遮った。
「用件は済んだしひとまず私の部屋に戻ろうか。日も沈んでしまったし森を抜けるのは魔物に出くわすかもしれないからまた転移魔術で戻るよ」
そう言うとセレジアは先ほどの転送魔術をもう一度展開した。
再び目がくらむような光に包まれると学院長室に戻っていた。
「早速だがこれに魔力をこめてみてくれるかい」
セレジアは椅子に腰掛けると先ほどよりも一回り大きな水晶を机に置く。
「これは?」
「一応この学院にも入学試験があってね、この水晶は魔力をこめた者が一定以上の魔力を持っていたなら輝き、その者の魔法裁定を教えてくれる」
「輝かなかったら不合格ということでしょうか?」
「君なら問題ないさ。ほらやってみて」
「えっと……」
魔力をこめると言われても具体的にどうやったらいいのかウィルは困惑していた。
その様子を見ていたセレジアがハッとして気がつく。
「アリス説明してあげて」
先ほどから不機嫌なアリスが不服そうに水晶に手をかざす。
「いい? 魔力は体の中にめぐっているものなの。心の中に白い球体をイメージしてそこから全身にめぐっている魔力を集めるイメージそしてそれを手に集める。これはすべての魔法を使う際の基礎になることよ」
そう言うと水晶が光った。
「さぁあんたもやってみて」
水晶の前に立って手をかざす、正直全身から魔力を集めるといわれてもできるのか半信半疑だったが。半分やけくそで教えられたとおり心の中に白い球体をイメージして、そこから全身の力を引っ張す感じで手に集めた。
するとアリスの時より水晶は激しく輝き、部屋内を明るく照らしていると、水晶にひびが入った。
「えっ」
それに驚き、アリスが水晶を覗き込んだ。
そのとき空気が振るえ水晶が砕け四方に飛び散った。
「きゃっ」
その中の大きな破片がアリスの額にクリーンヒットした。
苦痛のあまり床にうずくまり、なにやら声を上げているが幸いなことに怪我はなさそうだ、だが合否がかかっているウィルに気にしている余裕はない。
「これは不合格でしょうか?」
不安げにセレジアに合否を尋ねた。
「クククっいやいや、問題ないよ合格だ。まさか水晶が壊れるほどとはね」
セレジアの言葉にウィルはほっと胸をなでおろした。
彼の足元にうずくまっていたアリスが急に立ち上がり、目に涙をためながらウィルに掴みかかる。
「あんた、いまのわざとでしょ、私があんたを疑っているからわざとやったんでしょ?」
「わっわざとじゃないよ」
遺跡で銃口を向けられその直後に空中を引き回されたわけだから恨みがないわけではなかったが、今のは完全に不可抗力だ。
その横で笑いを堪えていたのを我慢できなかったセレジアがおなかを抱えて笑っている。
「はぁはっははふぅ~仲がよさそうで良かったよ~実はこの学園にはチーム制度といったものがあって、チームを組んだ者は在学中一緒に生活して色々なことをチームで協力して乗り越えていく制度なんだけど、中等部の3年にもなってアリスは未だにチームが作れてなくてね。ちょうど良かったよー2人にはチームを組んでもらうよ」
「チーム?」
「ふざけないでください!。何で私がこんなやつと」
「ふざけるも何も中等部の3年にもなるのに、まともな友達一人も作れず、それにチームを組んでない者は既にほぼいないって言うのにどうチームを作るって言うんだね? それにだ。高等部になれば今よりもチームでの連携を用いての実技も増える。このまま高等部になったら単位を揃えられずに進級もできないけどいいのかい」
言葉が出ないアリスにセレジアは笑みを送る。
「まぁー明日は休日だから2人で親睦を深めたまえ」
長い長い1日がようやく終わろうとしていた。
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