黄泉竈食
笑っているのに、笑っていない
口角が上がっていて
目尻は下がっていて
声を発するでもなく
涙を流すでもなく
静かに弧を描いたまま
こちらに手だけを差し伸べている
私ではなくどこか宙を見つめたままの双眸と
一瞬だけ目線が合った
そこには何の感情もなく
底知れないものを感じて堪らず逃げ出した
空の匂いがいつもと違った
何かが腐ったような
そんな臭いが混じっている気がして
肌にまとわりついてくる
酷く生温いような風を振り払うかのごとく走り続ける
どれぐらい走っただろう
いくら走れど歩けど
視界に広がり続ける霧と薮
一度焦燥感に囚われてしまえば
そこはもう抜け出せない森の奥深く
何かがおかしいのだと
気づく頃には
全てが手遅れ
いくら走り続けようとも
もう
不思議な事に疲れを感じなくなっていた
そんな頃
視界の端に
漸く木々の色以外の"色"が見えた
やけに神々しく感じたそれに
唯一の救いを求め
縋る思いでまた走る
辿り着いたのは
赤い鳥居の前
つい先程なのか、もう昔の事なのか
訳もわからなかっが
変わらずそこに"彼"はいて
同じように手招かれる
お前はもうこちら側にいるのだと
言外に伝えようとしているようで
少し前まで感じていた恐怖はいつの間にやら消えいて
その歪な笑顔でさえ愛くるしいものね、と
あれ
......いつの間に?
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