とある双子のお話番外編

いつの間にか、真っ白な世界にいた。

上も、下も、右も、左も、

見渡す限り一面の白。

ここは、一体どこなのだろう。


「──────────◻◻◻」


声がした。

凛とした、凪いだ風のように穏やかな、

少し低い男の人の声。

私はその声を知っていた気がした。

物心着く前からずっと聞いていたような、

ずっと、そばに居たような

酷く懐かしくて、恋しい。


恐る恐る

声のした方に振り向く。


目に映ったのは、

しなやかな体を黒い衣に包む 青年の姿だった。

ゆっくりとした動作で、

彼は私の方に手を伸ばす。


ぽん、と頭の上に手が置かれて

そっと髪を撫でていく。

大きな手の温かさが、じんわりと胸に広がって

ここが夢ではないのだと実感した。


でも、なら、ここはどこ?

ここに来る前の事を思い出そうとしたが

まるで頭に霞がかかったように朧気で

何も浮かんでこない。


「思い出さなくて、良いんだよ」


私の考えている事を当てるかのように

真白な世界で声が囁く。

頭を撫でていた手のひらが

両の耳を塞いだ。


「◼◼◼」


不安になって、

縋り付くように彼の名を呼べば

"大丈夫だよ"と

今度は音は出さず、

唇の端だけが静かに弧を描いた。

ああ、小さな声が漏れた。


◼◼◼が居るこの場所、

◼◼◼がいるこの世界。


決して思い出せはしないのに

頭のどこかで歯車達が合わさって

急速に回転ていく。


耳を塞いでいた両手を

やんわりと自分の手で押し下げて、

真っ黒な青年の夜空のように深い色をした瞳を

まっすぐと見つめた。


「どうしたの?」


彼は不思議そうに首を傾げる。


「......わたし、死んだのね」


一瞬、◼◼◼の顔がくしゃっと歪む。

苦しそうに、痛ましそうに。


その表情を見て、

やっぱりそうなんだと悟った。

あんまり思い出せないけれど、

今度はどうやって死んだのだろう。


お母さんに殴られたのかな


友達だと思っていた子に、

階段から突き飛ばされたのかな


飛び出してきた車に轢かれてしまったのかな


それとも、生まれる事さえも

叶わなかったのかな


「何も、何も、考えないで」


優しい手が頬を撫でる

溢れてもいない涙を拭うように。

見えもしない血の跡を消し去るように。


「ねぇ、◼◼◼」


やっとの事で絞り出した声は

情けなく震えていて。


「な、ぁに?◻◻◻」


そっと私を抱きしめた彼の声も、

また震えていて。


「──────────今度、こそ。

しあわせになろうね」


きっともう何度も"これ"を

繰り返しているんだろうなぁ、

なんて考えながら、彼に笑いかけていた。


私の体をそっと放した◼◼◼は

幸せそうな笑顔で

その瞳の中に映る私もまた幸せそうな表情で

目尻に浮かんでいた涙には

お互い気付かぬフリをしながら

手を取りあって、いつの間にか

そこにあった白い光の中に歩み出す。


一歩、また一歩。


終わりが近づいていく。

あまりの眩しさに瞳を閉じて

それでも二人の歩みは止まる事なく続いた。


「「あいしてる」」


最後に聞こえたのは

最後に言ったのは

そんな言葉だったのかもしれない。

























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