心霊カーナビゲート⑦




気付けば地蔵はなくなり、その場所には少女が立っていた。 少年もそれを見ると、走り出し二人は抱き合った。 どんな事情があるのか知らないが、感動の再会という感じなのだろう。 

それが霊のような存在であるということが、なんとも不思議な気持ちになる。


「これが俺たちにして欲しかったことなのかな。 姉弟・・・ってとこ?」

「さぁな。 しかし、そうすると奏に成りすましたのは何だったんだ?」

「いいねいいね! 怖いもの見たさだったけど、こんないいことできちゃうなんて!」


三人は少年少女を見ながら、思い思い感想を述べていた。 色々あったけれど、これでとりあえずは一件落着でもう帰れる。 というのは、まだ早いようだ。


「ん・・・? こっち見てるな」

「帰仙壕を指さしてる。 中に入れってことか?」

「ええー、流石にそれは危なくない?」


二人はじっとこちらを見ていた。 それを無視して帰るのは、逆に危険だと思える。


「行ってみよう。 何かあるんだろ」


琉心の言葉に奏と恭夜は頷き、洞窟へと近づいて行った。 大きな岩が入口に二つ置かれ、紙垂が飾られている。 中はかなり深そうで、懐中電灯の光が奥へと吸い込まれては消えていく。


「付いてきてるな・・・」


二人は三人の脇を抜けると奥へと進んでいった。 三人も覚悟を決め二人についていく。


「どうした、奏?」

「いや、後ろから誰かが見てるような気がして・・・」

「・・・気のせいだろ」


言ってみたものの先ほどのこともあって不安になり、確認してみたがやはり何もいない。 そう思ったのだが――――


「気のせいではない」

「うわぁっ!?」


突如、真横から聞こえた女性の声に奏はひっくり返った。 みすぼらしい服装、肌はやせこけ、顔は青白く生気を感じない。 そんな彼女は洞窟の奥を眺めながら淡々と言う。


「お前たち、あの子らに危害を加えたりはせんのだな」

「え、あ、はい」

「随分と長い間縛ってしまった。 どうか開放してやってくれ」


それだけ言うと、女性の姿はすぅっと消えていった。


「あの二人のお母さん・・・なのか?」

「奏に成りすましたのも今の霊なのかもしれないな」

「開放してって、あの二人のことだよね」


三人は洞窟の奥へと向かい、歩き始めた。 夏なのに少し肌寒い空気が流れている。 しばらく進むと開けた場所に出て、少年少女が奥に立っていた。


「目的地周辺です、ってとこか。 思えばずっとカーナビに導かれてきたよな」

「でも、従わなかったこともあったろ?」

「確かに、三つに分かれた道とかあったっけ」

「・・・さっきの女の人が嘘の案内してたんじゃ。 もしかして、運が悪かったら僕たちも・・・」


そう考えるとゾッとした。 本当にたまたま運よくここに来れただけだったのかもしれない。 元々、ここに来れば誰も帰れないという噂を聞いていたのだから。


「よそう。 そんなもしもを考えても仕方ないさ」

「そうだね。 ってか、ここ、なんで開けて・・・・・・わわわぁぁぁ!?!?」

「どうした!?」


奏がまたしても尻もちをつき、そのまま後ずさって足にしがみついてきた。


「ほ、骨! 人の、骨!」


懐中電灯で周りを照らして、全身が震えた。 前情報で確かに聞いていた、おびただしい数の人骨がそこにあった。


「まじで人の骨じゃん! こわっ!」

「名前から思ってたけど、元々防空壕とかだったのかもしれないな」

「爆弾から身を守るってやつか・・・。 でも、なんで・・・俺たち、大丈夫か?」


大量の骨があるということは、多くの人がここで死んだという事実。 その理由が何かは分からないが、安全は保障されていないだろう。


「あの子たちの願いをかなえて、早めに出よう」

「そうだな、それがいい」


三人は二人の元へ近づいていく。


「う・・・」


少年少女の足元にあったのは人骨だった。 着ていた衣服は先ほど現れた幽霊と同じものだったが、周りに転がってる人骨よりもひどい状態。 まるで大勢に殴られたかのように破損している。


「何があったか分からないし、俺たちができることは何もない。 天国へ行けるようお祈りでもしよう」

「ああ」

「そうだね」


それを合図にして三人は目をつむり手を合わせた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る