心霊カーナビゲート⑥
「えっ・・・!?」
突如、奏が走り出すと少年の肩を突き飛ばした。 まるでスローモーションのように落ちていく少年の腕を、琉心は慌てて掴む。
あと一歩遅れていたら、間違いなく井戸の中へと落ちてしまっていただろう。 少年を引っ張り上げると奏をキッと睨みつけた。
「奏! なにしてるんだよ!」
「何って・・・だって、それ、幽霊でしょ? 始末しないと」
「いや、だからって・・・」
得体が知れないのという気持ちはわかる。 だからといって、あまりにも乱暴だ。
「で、どう? 生きてる?」
「いや・・・それは・・・」
体温はやはり感じなかった。 だが触れることはできている。
「ま、いいや。 で、どうする? 連れて帰るつもり?」
「・・・」
手を離してしまえば、消えてしまうような気がして離せなかった。 目の高さ合わせて尋ねかけてみたのは、琉心自身どうすればいいか分からなかったからなのかもしれない。
「俺たちに何か言いたいことがあるの?」
「・・・」
「カーナビを使って案内したのは君?」
「・・・」
返事どころか微動だにしない。 なのに目だけは真っすぐ琉心に向いている。
「さっき女の子に会ったんだけど、君と関係ある?」
「・・・ッ」
その質問で初めて反応があった。 ただ腕がピクリと動いただけだが、それは確かに伝わって来た。
「さっきの場所に戻りたい?」
首がゆっくり横に振れる。 戻りたいわけではないらしい。 そのまま次の質問をしようと思ったのだが、少年の逆の手が持ち上がり車を指さした。
「戻りたいわけじゃないけど、一緒に行きたいってこと?」
「やめときな。 そんな得体のしれないの連れて行ったら呪われるぞ」
奏が忠告してきたが、それを素直に聞くことはできなかった。
「だからといって置いていくわけにもいかない。 まず恭夜と相談してみよう」
「ふぅん」
三人は車に向かって歩き出す。 そして、そのまま後部座席に少年を乗せようとしたのだが、少年は動かずまたしても腕を上げ指さした。
「トランク・・・?」
トランクを開けると中には見覚えのある青年が眠っていた。
「奏っ!? え、なんで、え? かな・・・」
振り返ると、先ほどまで一緒にいたはずの奏の姿がなかった。 手を繋いでいる少年だけがそこにいる。 全身を怖気が走った。 不安と恐怖から、寝ている奏の体を激しく揺らす。
「おい、起きろよ! なぁ、おい!」
「・・・うぅん・・・。 どこここ」
意外にもあっさりと目を覚まし、辺りをキョロキョロ見る様子はいつもの奏だった。
「お前、いつからトランクで寝てたんだ?」
「トランク・・・って、ほんとだ! 確か二人が地蔵のとこに行って、それから・・・」
その後の記憶がないという。 琉心自身も、恭夜のためにトランクを開けたのを覚えているので合っていると考えた。
「ええと、その子は・・・?」
「ん、あ、ああ・・・」
忘れていたが、少年とは手を繋いだままだった。 先ほど井戸で突き落とそうとしたのも、偽物だったということになる。 ただ説明するのも面倒だと思ったので、琉心は少年の手を奏に触れさせた。
「うひぅ!? ま、まじなの・・・」
「ああ、まじだ。 悪いけど、後部座席で見といてくれるか?」
「え、え、え、一緒に行くの?」
「俺たちに何か伝えたいことがあるみたいで、そうしないと帰れない気がする」
「・・・分かったよ」
渋々、といった感じだが奏は納得してくれた。 車に戻り恭夜にも説明したところでカーナビが音声案内を始めた。
「その子、喋れないのか?」
「今のとこは。 ビー玉に反応したりするかな?」
車を走らせ、ビー玉を見せると少年は初めて口を開く。 平板で生気のない声だ。
「それ、絶対に手放さないで」
「・・・分かった」
「さっき奏の偽物がビー玉を持ちたがったのも意味があったのかも。 あの時、渡してたら・・・」
考えるとゾッとした。 同時に、助手席の恭夜が本物かどうか不安になる。
「きょ、恭夜は本物だよな・・・?」
「多分な。 もし俺が偽物なら、このビー玉を三つ持ってる時点で終わりだろ」
「確かに、それはそうか」
それから三十分程運転し、たどり着いたのは見覚えのある開けた場所だった。 小さな地蔵もある。
「ええええ、こんだけ進んで同じ場所なのー?」
「いや、どうやら違うみたいだぞ。 確かによく似てる場所だけど、地蔵の向こうが開けてない。 あれって・・・洞窟・・・帰仙壕なんじゃないか?」
「そういえば、そんなとこ目指してたね。 すっかり忘れてたけど」
車を止め、念のためエンジンと照明はつけ三人と一人は降り立った。 一人になると何かよくないものと入れ替わってしまう可能性があることが分かったので、全員で行動するしかなかったのだ。
―――さて、おそらく少年が来たかった場所にきたけど、何が起きるのやら。
ビー玉は一人ずつそれぞれが持つことにした。 何かあった時、そのほうがいいと考えたのだ。
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