心霊カーナビゲート⑤




「二人共ー! 帰ってくるの遅いよー! どうにかしてよ、あのカーナビ! めっちゃうるさいんだけど!」


アナウンスの内容は大したことを言っていないが、音量がやたら大きい。 琉心がドアを閉めると、その音も次第に消えていった。


「ポルターガイスト現象ってやつかな? だとしたら何か理由があるはずだけど」

「ポルターガイストってものが飛んでくるやつでしょ。 別に何も飛んできてないよ」

「うーむ。 俺たちに何か言いたいことがあるのかもしれん」


三人は考えてみたものの、答えは出なかった。 そこで奏が思い出したように言った。


「ところで、お地蔵様の奥に何かあったの? 二人の帰りが遅かったけど」

「あぁ、奥で一人の女の子に会ったんだ。 ビー玉も。 奏も女の子に貰ったんだろ?」


琉心はビー玉を見せながら言ったのだが、奏は首を捻るばかり。


「え? どうだったかなぁ・・・。 記憶にはないけど」

「恭夜もさっき、同じ子を見たみたいだし」


しかし、恭夜の同意を得ることもできなかった。


「は? 俺も女の子なんて知らねぇよ?」

「はぁ!? さっき見たって言ったじゃないか!」

「言った記憶もないんだけど・・・」

「どうして全ての記憶がないんだよ・・・」


さっき話したことと違う。 若年性認知症といったことではないだろうから、これも一種の心霊現象なのかもしれない。

とにかくここにいても仕方ないと思い、三人は車に乗り込んだのだが、そこで再度アナウンスが始まった。


『音声案内を開始します。 ガイドに従って走行してください』


「またかぁ! どうする、恭夜」

「従ったほうがいいだろうな。 俺たちに何かメッセージを送ってるんだとしたら、間違いなくこのカーナビが媒体だと思う。 怒りに触れて呪われでもしたら流石にやばいだろうし・・・」


琉心もその言葉に賛成だった。 頷いて車を動かそうとしたところで奏が茶化すように言う。


「あれ、ひょっとして・・・恭夜、怖いの?」

「あほっ! 俺は皆の安全を考えてだな・・・」

「ふぅん。 ね、そのビー玉。 一人一つずつ持っておかない?」

「・・・なぜ?」

「別に理由はないよ。 俺たちは三人、ビー玉は三つ、ちょうどいいじゃん!」


奏が楽しそうに笑いながらいった。


「俺が三つ管理する。 琉心は運転してるし、奏は無くしそうだから」

「なんでさ! 貸してよ! 僕がなくしたりするもんか!」


奏がヒートアップしそうだったので、琉心は恭夜の意見に賛同することにした。


「俺は恭夜の意見に従うよ。 はい、これ」

「奏もあんま不貞腐れんなって。 さ、行くぞ」


車を走らせ、アナウンス通りに進んでいく。 山道でありしかも暗いため、何が正しくて何が間違っているか分からなかったが、しばらくすると明らかに雰囲気が変わった。


『20メートル先目的地周辺です 音声案内を終了します』


彼岸花があちらこちらに咲き、暗がりでも車のライトに照らされ綺麗に思える。 その先には大きな井戸。 普段見慣れないためか不気味に思えた。


「井戸・・・って、嫌なイメージしかないんだけど」

「霊が這い出てきたりしないよな・・・」

「何で井戸があるんだろうな。 奏はどう思・・・」


言いながら奏を見たのだが、まだ不貞腐れているようだった。 口を一文字に縛り一言も発しようとしない。


「仕方ない。 俺が見てくるから、二人は車で待ってて・・・」

「僕も行くよ! さっき一人で留守番していたんだから、今度は行く!」


さっきまでが嘘のような上機嫌で奏が言った。 ニコニコとしていて、どうにも気になる。 ただ断ると先ほどの様に不機嫌になりそうだったので、一緒に連れていくことにした。


「じゃあ、行こう」


二人は車の外に出ると井戸に向かって歩いた。 使われてない井戸だと、蓋で打ち付けてあることが多いのだがこれは蓋すらない。


「本当に何の変哲もない井戸だな。 落ちたらヤバそうだけど、周りに何かあるか?」

「いや、特には・・・って、ちょっと! 琉心!」

「えっ?」


辺りを調べていたのだが、奏の声に井戸を見ると青白い顔をした少年が井戸の淵に座っていた。 懐中電灯の明かりを向けてみても、瞬き一つしない。 

さらに言うなら、先ほどの女の子と似てるような気もする。


「俺たちをここに呼んだのは君・・・?」


恐る恐る尋ねかけたが答えは返ってこない。 到底生身には思えないが、確認してみようと二人は近付いていく。 はずだった。



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