心霊カーナビゲート④
一方その頃、車で恭夜と奏は琉心の帰りを待っていた。
「・・・なぁ、奏。 俺が地蔵の奥へ行った時、戻ってくるまでに結構時間がかかったか?」
「いや? 割と早く戻ってきたと思うよ」
「だよな、奏の時もそうだった。 となると、琉心は遅過ぎる」
「でも、どうしようもなくない?」
ドアが開かないことに諦めていたのだが、今は先ほどと状況が違った。
「いや、出ようと思えば窓から出れると思う。 もしかしたら、琉心がわざと開けさせたのかも」
「なるほど、もしそうなら頭いい! じゃあ、俺も行くよ」
「奏はここにいろ。 車を放置しておくわけにはいかないから」
「え・・・。 俺、一人・・・?」
恭夜は何も言わず走って奥へと行ってしまった。 余程心配だったのだろう。 奏はその背中を見つめながらつぶやく。
「よく走れるなぁ、こんな暗くて怖いところ・・・」
そして、琉心はというと地蔵の奥で少女と対面していた。 懐中電灯の明かりだけでは周りはよく見えないが、特に何かがあると言ったことはないようだ。
―――それにしても、この子、普通なわけないよな。
「君名前は? 何でこんなところにいるの?」
「・・・」
少女は握ったビー玉を見つめるばかりで何も答えようとはしない。
―――本当にただはぐれただけって可能性もあるんだろうか。
ここまで起きている奇怪な現象を思えば、そんなことはあり得ないと思いつつ尋ねた。
「ご両親は? 俺でよければ、家の近くまで送るよ。 車だし、すぐに着くと思う」
「・・・」
「え?」
今度は何かをしゃべろうとしたのか口が動いたが、何を言ったかは分からなかった。 その仕草に害意があるようには思えない。 差し出された手はビー玉を渡そうとしているのだろうか。
―――冷たい・・・!?
体温を全く感じなかった。 死人の手。 触れたことはないがそう表現するのが適当だろう。
「琉心!」
「・・・恭夜?」
振り返るとこちらへ向かって恭夜が走ってきていた。 暗がりの中、懐中電灯の明かりを目指したのだろう。
「こんなところにいたのか。 遅かったから呼びに来たぞ」
「悪い、心配かけて。 ちょっと相談したいことがあるんだけど、実はこの子・・・。 って、あれ?」
少女の姿が影も形もなかった。 足音を聞いた憶えもない。
「この子って?」
「さっきまで、ここに小さな女の子がいたんだよ。 恭夜たちが持ってきたビー玉を三つ持ってて」
「それってこれのことか?」
言いながら恭夜は地面に転がっていたビー玉を拾い上げた。
「そう。 ビー玉は置いていったのか・・・いや、でも、いつのまに・・・」
「急にいなくなったってことは、幽霊とかなんじゃないか?」
「あっ、そうだ! 手に触れたんだけど、めっちゃ冷たかったんだよ!」
まるで金属を触ったかのような感触が思い出される。
「気持ち悪いけど、とりあえずこれは持っていこう。 お祓いとかしてもらったほうがいいかもしれない」
「そうだな。 ってか、奏は?」
「車で待ってると思う。 車の中だから大丈夫だと思ったけど、今は一人でいるのが何より危険かも」
恭夜の言葉はもっともだと思えた。 更に追い打ちをかけるよう奏の助けを呼ぶ声が響いた。
「恭夜ー、琉しーん! 助けてーッ!」
車の明かりは見えている。 二人は顔を見合わせると、そこまで全力で走った。 車までたどり着くと同時、ドアが開き奏が転がり落ちてくる。
爆音ともいうべきアナウンスが車から発せられ、耳の奥がキーンと痛んだ。
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