心霊カーナビゲート③
道は確かに下っている。 だが琉心はまた同じ場所に着いてしまうんじゃないかという不安が拭いきれない。 恭夜も奏も平気そうにしているが、本当に大丈夫なのかも分からない。
「奏は車から降りるとこは憶えてんの?」
「・・・」
「奏?」
「あ、えーと・・・いや、何も憶えてない。 車外に出た記憶もないんだよ」
「俺は、自分の意志で助手席を開けて周りを調べてたけどな」
琉心はその経験自体ないので、もしかしたら二人が自分を揶揄っているという可能性も考えられた。
―――車俺のだから、カーナビに細工は流石にできないと思うけどなぁ。
車を走らせていると、2つの分かれ道が見え車を止めた。
「・・・あれ、こんなところ通ったっけ?」
「上ってきたんだから、下りの道でいいんじゃないか?」
「分かった」
多少の不安はあったが、地蔵の場所に戻らなかったことにホッとしていた。 下りを選び進んでいると、再度分かれ道が現れた。 今度は3つに分かれている。
『この先、左方向です』
その時、またしてもカーナビが案内を始めた。
「またきたー! 従わないほうがいいよ」
「そうだな・・・」
カーナビが案内するのは上りの道なので、端から選ぶ気はなかった。 進んでいると、また分かれ道。 しかも4つに分かれている。
「ったく、何なんだよ・・・。 どの道が正解だよ! こんな道、通った憶えがねぇって!」
『この先、左方向です。 この先、左方向です』
「あー、もう! うるさいうるさい! 何なの、このカーナビ!? 音量が少しずつ大きくなっているんだけど!」
恭夜は慌てる琉心と奏に、冷静に言う。
「二人共、いったん落ち着けって! 琉心、一度引き返そう。 地蔵があったところまで」
「は? 何で」
「場所をリセットするんだよ。 このまま適当に走っても、余計迷うだけだ」
「んー・・・」
正直な話、気が乗らなかったが恭夜の言う通りにUターンして地蔵の前まで戻ることにする。 つもりだったのだが、少し進んだところで開けた場所に出た。 あの地蔵のある場所だ。
『目的地終点です 目的地終点です 目的地終点です』
「あー! うるさいうるさいうるさーい! もう着いたじゃん! 目的地終点って言ってんじゃん! なら早く止まってよ!」
奏が喚くように言った。 カーナビはタッチしてみてもやはり反応がない。
「流石に、ヤバいな気持ちわりぃ。 でも、どうすれば・・・」
「な、なぁ、琉心」
恭夜が震えていた。 唇が紫色になり、顔が青白い。
「お、おい、大丈夫か!?」
「なんか、寒くて・・・」
いくら山道とはいえ今は8月。 暑いとまではいかないが、寒いわけがない。 ただその尋常じゃない様子に、琉心はトランクを開けると外に飛び出した。
「待ってろ、毛布が入ってるから」
非常用にと1枚あるだけだが、それでも今は十分だ。助手席を開けると毛布を掛ける。
「いや、いらねーよ。 夏に毛布は暑すぎるって」
「・・・は? だって、さっきまで・・・」
恭夜は先ほどまで震えていたのに、今はけろっとしていた。 顔色も元通りで何がなんやら分からない。
「奏、さっき恭夜さむがってたよな?」
「え、なんのこと。 こんなに暑いのに寒いわけないじゃん」
窓を開けて毛布を返そうとしてきたのを仕方なく受け取り、トランクまで戻る。 だが間違いなく先ほど恭夜は寒がっていたのだ。
―――俺がおかしくなってんのか?
―――・・・ん?
トランクを閉めたところで、地蔵の奥から風鈴の音が聞こえた。 それに惹かれるように、地蔵の方へと足が勝手に動いていた。 ドアを叩くような音も聞こえるが、意識は前だけに集中していた。
自我はちゃんと保てているようで状況は理解できる。
―――地蔵の奥、こんなにも広かったんだ・・・。
奥は木はあまり生えておらず空き地 みたいになっていた。 辺りを見回していると足の間を生ぬるい風が抜けていった。 それに導かれるよう視線を動かすと、小さな女の子が経っている。
地味な浴衣のような服装だ。
「君、こんなところでどうしたの?」
真夜中の山、明らかに異様な場所で異質な少女。 普通の相手とは思えなかったが、刺激するわけにもいかなかった。
「三つ揃った!」
彼女の手には3つのビー玉が置かれていた。 ギュッと握りしめると、背中を向け奥へと走っていく。
「待てよ!」
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