心霊カーナビゲート②
流石に置いていくという選択肢はない。 二人は車から出ることを諦め、ただ待ち続けるしかなかった。 ――――15分程した時、暗がりから恭夜の姿が見えた。 懐中電灯は消えている。
「戻ってきた・・・」
恭夜は何事もなかったかのように、車のドアを開け助手席に乗り込んだ。 ドアはもしかしたら、外からなら開くのかもしれない。
「・・・恭夜?」
「これ、もらった」
彼の手の平の上には、一つのビー玉が乗っていた。 何の変哲もない、ただのビー玉だ。
「何それ? ビー玉? もらったって、誰にもらったの?」
奏の問いかけに、恭夜は首を傾げる。
「えっと・・・。 誰だっけ」
「何で憶えていないのさ」
ここへ来てから、奇妙なことが起こり過ぎている。
「何か、気味が悪いな」
「うん。 適当に、その辺に置いておきなよ」
ただのビー玉に見えるが、全く汚れていないところが逆に不気味に思えた。 それにもらったというのが本当なら、相手がいるということだ。 恭夜は道路の脇にビー玉を置いた。
その瞬間、カーナビが鳴る。
『音声案内を開始します。 200メートル先、右方向です』
「あ、また案内が始まった!」
「いや、この先200メートルって、道なんかない・・・。 って、あれ? あんなところに、道あったっけ?」
車のライトは切っていない。 明かりの先は草木が生い茂るばかりで、道なんてないと思っていたが、今は普通に道がある。
「・・・なかったよ。 やっぱりヤバいって、帰ろう! ・・・って、あああぁぁぁ!?」
「どうした? ・・・って、マジかよ・・・」
二人が驚くのも無理なかった。 上ってきたはずの後ろの道が、なくなっていたのだから。
「行くしかないな」
ずっと黙っていた恭夜が呟く。 ただ他に、選択肢がないのも事実だった。 車を走らせカーナビの指示通りに進んでいく。 といっても、一本道であり案内の必要はない。
「さっき、右方向とか言っていなかったっけ?」
「確かに右方向に進んではいるけど」
背筋に感じる嫌なものを抑えながら進み、20分程で音声案内が終了した。 開けた場所に出て、そこはどうにも見覚えがあるように思える。
「あれ、ここ、さっきの場所じゃない? ぐるっと回っちゃった?」
「そんなはずはない・・・。 だって、俺は確かに上り道を運転したぞ?」
「あの地蔵を見ろよ。 さっきのと同じように思えないか?」
「本当だ!」
「奏、携帯はどうだ?」
「うーん、やっぱり駄目みたい」
奏は携帯を眺め、琉心と恭夜はカーナビをいじっている。
「タッチパネルがやっぱり利かねーな。 そっちのボタン操作だったらどうだ?」
「ちょっと待ってくれ・・・。 やっぱり、駄目っぽいな」
「なぁ奏。 携帯って電源・・・。 って、あれ、奏は?」
後部座席に、先程まで座っていた奏の姿がない。 恭夜も知らないらしい。
「見ろよ、地蔵のところ。 さっきと同じヤツか、調べに行ったんじゃないか? 一人だと危険だから、早く止めに行かないと」
「恭夜。 ドアの開け閉めの音は聞こえた?」
「いや? 俺は聞いていないけど・・・」
「マズいな、さっきの恭夜もあんな感じだった。 まるで魂が抜けたみたいに、ふらっと地蔵の奥へと消えていった」
「マジか!? って、ドアが開かねぇじゃん!」
琉心も再度、ドアが開くかを試したが無駄だった。
「窓も開かなかったよ。 たださっきの恭夜と同じなら、またふらっと戻ってくるのかもしれない」
「・・・待つしかないか」
しばらく待っていると、やはり地蔵の奥からふらっと現れる奏の姿。 ゆっくりと近付き、何事もなかったかのようにドアを開け後部座席へと座った。
「奏!」
「・・・あッ!? 二人共、何ハトが豆鉄砲喰らったみたいな顔をしているの?」
「今の奏、さっきの恭夜みたいになっていたぞ」
「嘘!? って、本当だ・・・。 ビー玉、持ってる。 しかも2個」
言いながら、奏は手の平を広げビー玉を見せた。 先程のビー玉と同じものと、中の模様が違うものの2個。
「で、誰にもらったのか憶えていないってか?」
「うーん、そもそも何で持っていたのかすら憶えていない」
それを聞き、琉心と恭夜は顔を見合わせた。
「帰ろう。 帰仙壕は、もう少し情報が出てから来るべきだったんだ」
「ビー玉は?」
「置いていった方がいいと思う。 こういうのって、物に憑いた霊を持ち帰ったりするんだろ」
二人がそう言うと、奏は不満気な声を上げた。
「えー! これからだったのに。 唯一の戦利品も置いていっちゃうの?」
「さっきの恭夜を憶えているだろ? 今の奏は同じ感じだったんだぞ」
「・・・分かったよ」
どうやら納得はしていないようだが、諦めてくれたようだ。 先程と同様、帰り道がなくなっていないかと思ったが今回は大丈夫そう。 だがUターンしていると、再度カーナビが鳴った。
『逆、方向に向かおうとしています。 本当によろしいですか?』
首筋がぞわりと震えた。
「気持ち悪ッ。 こんなこと、普通はアナウンスをするもん?」
「しないしない。 尋ねかけてきたりするもんか。 早く行こうぜ」
琉心はアナウンスを無視して、元来た道へと車を走らせた。 その間も音声案内は狂ったかのように、延々とアナウンスを繰り返していた。
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