心霊カーナビゲート
ゆーり。
心霊カーナビゲート①
星明りが照らす田舎道を、一台の車が走っている。 運転しているのは琉心(リュウシン)、その後ろに奏(カナデ)、助手席には恭夜(キョウヤ)が座っている。
同じ大学に在籍している友人で、肝試しに心霊スポットへ向かっている最中だ。
「今日が一番期待できるんだよね? 今のところ、全てハズレだからねー」
奏は前の座席に乗り出しながら話しかける。 三人はここ一週間、毎日心霊スポットを巡っていた。 全てネットで調べた場所で、雰囲気こそいいが特に何か起きたりはしなかった。
「“帰仙壕”っていう名前だけでも、凄い感じがするもんな」
恭夜が携帯を弄りながら言う。 最近見つかったらしい場所で、夥しい量の人骨が散らばっていたと噂になっていた。 現在立ち入りは禁止されているが、その近くまでは行くことができる。
「噂では、立ち入り禁止を無視して入った馬鹿が行方不明になっているらしい」
「それは単純に、山から滑り落ちたとかなんじゃない?」
「立ち入り禁止になっているっていうことは、本当にヤバイっていうことだろ?」
琉心は運転しながら、二人の会話を聞いていた。
―――奏の言う単純な安全面の問題の方が、可能性が高いかな。
まだコンビニが散見するくらいのため問題はないが、この一週間で山道を通り危険を感じたことは幾度となくあった。
実際に行方不明者が出ているなら、運転している自分が最も気を引き締めなければならない。
「ちょっと、コーヒーを開けてくれる?」
「ほいさー」
受け取った缶コーヒーを一口含む。 仄かな苦みと甘みが、喉の奥へと落ちていった。
「っと、ここからは山道っぽいな。 何かいるものとかあったり、トイレとかいいか?」
カーナビを見るに、これより先へ進むとずっと山。 目的地は観光地化されているわけではないため、本当にそれ以外は何もないのだろう。
「僕はいいかな」
「俺も大丈夫だ」
二人の言葉を聞くと、再度車を走らせた。 山道へと入ったが、どうやら道はきちんと舗装されているらしい。
―――通り抜けに使っている場所なのかな。
その時、カーナビの音声案内がどこか奇妙なアナウンスをした。
『目的地はこれより先にはありません。 音声案内を終了します』
同時に、画面が電源が落ちるように消えてしまう。
「あれ、目的地はない・・・? 場所で設定したのに?」
「ちょっと待ってよ。 携帯だと、まだ先まで道案内は続いているみたい」
「おっけい。 じゃあ奏、案内を頼むわ」
山道だから一本道ではあるが、何があるか分からないため案内を頼んだ。 しばらく進むと、道が三つに分かれている。 左は舗装されていない勾配が急な下り坂。
真っすぐはアスファルトで、今までとあまり変わりがない。 右の道は、上りになっている砂利道のような感じだ。
「左に進んで・・・」
「左・・・? え、ここから下るの?」
「携帯ではそうなっているし」
琉心は一度車を止めた。 どの道も先は見えないが、下りだけはないように思えたからだ。
「雰囲気、右が正解っぽくない?」
「折角案内をしたんだけど。 んでも、下へ降りて間違っていたら、戻ってこれなさそうだよな・・・」
奏と恭夜は車を降りて、道の先を覗き込んでいる。 すると、カーナビが突然つきアナウンスを始めた。
『音声案内を開始します。 この先、右方向です』
「うわッ、びっくりした・・・。 二人共、カーナビがついてやっぱり右って言ってるわ」
「よくよく考えてみれば、さっきまでどうして消えていたんだ?」
恭夜が戻ってくるなり、カーナビを覗き込んで言った。
「携帯もちょっと繋がりにくいみたいだから、関係があるんじゃない?」
「山ん中だからなー。 まぁ、行ってみるか」
一行は車に乗り込むと、カーナビに従い走り始める。 といっても、一本道で今までの様に曲がりくねってはいない。
「何か、ちょっとワクワクしてきた!」
「ここ、本当に車で通っていいところなのか?」
道幅は狭く、対向車が来たらバックするしかない。 自分たちのように、肝試しをしに来る人間がいないとは限らなかった。
「まぁ、大丈夫なんじゃね? それとも降りて歩いていく?」
「いや、まぁ、大丈夫だろ。 そんな気配はないし」
しばらく進むと開けた場所に出る。 山の中腹辺りと思われるが、かなり広い場所だ。
『――――目的地、終点です。 音声案内を終了します』
カーナビが到着を告げたが、ここが目的地とは思えなかった。
「え、ここ・・・? 帰仙壕って、洞窟じゃないの?」
地蔵がポツンと祀られているだけで、興味を惹くものは他に何もない。 ただ名前からイメージしていただけで、どんな場所か全く知らないのだ。 調べてみたが、写真一枚も出てこなかった。
「俺たちが勘違いをしていたのか、それともこの場所じゃないのか」
「だけど案内はここで止まったしな・・・。 まぁ、大体の場所を目印にしただけだけど」
「うーん。 奏、携帯の案内はどうなっているんだ?」
携帯をいじっている奏を見て、恭夜が尋ねかけた。
「それが、さっきから動かないんだ。 タッチパネルが反応しなくて・・・」
「ふぅ。 じゃあ、俺が周りを見てくる間に目的地検索をしておいてくれよ。 携帯は再起動してみたら?」
そう言って、恭夜は助手席から降り立った。 後部座席から懐中電灯を取り出すと、点灯させる。
「あまり遠くへは行くなよ? 滑り落ちたりしたら、洒落にならないからな」
琉心の言葉に手だけで返事をし、一人さっさと歩いていった。 見ている限り、遠くへは行かなさそうだ。
「んじゃ、カーナビはっと・・・。 って、カーナビもタッチパネルが利かないんだけど!」
「・・・やっぱりおかしいよ。 ここ、普通じゃないのかもしれない」
奏は青い顔をしながら、携帯を握り締めている。
「何で?」
「電源、切れない」
「ただ故障しているだけなんじゃないのか?」
「そうかも。 ちなみに、車のエンジンは切れる?」
「そりゃあ・・・。 あれ、マジかよ・・・」
鍵を回しても、エンジンが切れることはなかった。
「確かに、帰った方がい・・・」
「ちょちょ、琉心琉心! 恭夜が!」
「え?」
奏が慌てふためいたため恭夜を見ると、彼は地蔵の奥へとまるで導かれるように歩いていた。
「うわ、マズいって・・・! ちょ、恭・・・。 え、マジかよ、ドアが開かねぇ!」
二人は慌てて車から出ようとするが、ドアはビクともせず窓を開けることもできない。 できるのは、消えゆく恭夜の背中を見守ることだけ。 恐怖からなのか、二人の額からは汗が噴き出していた。
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