第181話 アレク、戦果に満足する

 竜の渓谷に到着し、早々にレッド・ドラゴンとの戦闘になった。しかし、結果を見れば、たったの一分で勝利を収める事となった。


 まあ、当然と言えば当然である。十人の騎士ナイトで壁を築き、三十人の魔導士ウィザードで集中砲火なのである。レッド・ドラゴンで無ければ、秒殺だったはずだ……。


 その呆気ない結果に、宮廷魔術師団のメンバーは自信を付けた。ドラゴンが恐ろしい存在としても、決して勝てない存在では無いと理解したのだ。


 そして、騎士ナイト二名、魔導士ウィザード六名、医術師ドクター一名で小隊を組んだ。今はアンナが二個小隊を引き連れ、マルコ副団長が三個小隊を引き連れて狩りに出かけている。


 アンナにはロレーヌを付け、マルコ副団長にはハティとルージュを付けた。いざ事故が起きても、ボクの『蘇生リザレクション』が有るし、半日もあれば問題無く狩りは終わるだろう。


 ……ちなみに、ボク、ギリー、ギルは、荷台の警護で待機中である。


「それにしても、良く三ヶ月でここまで育った物ですね……」


「まあね。皆のやる気が凄かったからね」


 ギルの呟きに、ボクは苦笑して答える。


 ギリーが周囲の警戒をしているので、ボクとギルは気楽な状態だったりする。


「これも、アレク様の実力と言う事でしょうか?」


「いや、彼等の気持ちの問題だろうね。これまでは宮廷内で、抑圧されてたみたいだから……」


 遠くから聞こえる戦闘音に耳を傾ける。怒声は聞こえても、悲鳴は聞こえて来ない。今の所は順調と思って良さそうだ。


 そして、ギルに視線を向ける。彼はいまいち理解が出来ていない様子だった。


「ゴーシュ小隊長の部隊は、騎士団の中では爪弾き状態だったんだ。『盾の騎士』の威光で設立したにも関わらず、最も成果を出せない最弱部隊ってね」


「確かに、その様な噂も耳にしております……」


 ちなみに、今でもチラホラと噂は耳にする。最弱部隊が運良く拾われたと……。


 そして、彼等如きでは、成果を出す事は出来ないだろうともね……。


「それと、マルコ副隊長が集めた魔導士ウィザード達も、元々が宮廷内で働く魔導士ウィザードだったんだ。ただ、騎士団から低く見られ、不当な扱いを受ける事が多かったみたいだね」


「そうなのですか? 宮廷に上がる以上、実力があるか、貴族の血縁者かと思うのですが……」


 ギルの疑問はもっとも。彼等は本来、それなりの地位を持つべき人達なのだ。


 ……しかし、それは他の国だったらの話である。


 この国では騎士の力が強すぎる。宮廷内でも強大な発言力を有しているのだ。騎士以外で有力な者達は、出る杭は打たれる状態となってしまったのだ。


「ただ、ボクが宮廷に上がってからは、騎士団も大っぴらに発言出来なくなったからね。ボクへの不満があれば、国王まで申し付ける様に、お達しが出てしまったからさ」


「ははぁ……。エドワード国王から、そこまで支援して頂いているのですね……」


 ギルは感嘆した様子だった。エドとボクの仲が、対外的なポーズとしか考えていなかったのだろう。


 しかし、エドにも思惑はあるが、ボクとの関係は本心から望んでいるみたいだ。ボクの知らない所でも、結構なサポートをしてくれてるみたいなのだ。


 ……正直、余りにもベッタリ過ぎて、時々怖くなる時もある位だ。


「そんな訳で、ボク……というか、エドの威光に守られ、活躍する機会が与えられたってこと。彼等からしたら、今までの鬱憤を晴らす、良い機会って事なんだろうね」


「……いや、それだけではあるまい」


 ボクの発言に、ギリーが言葉を挟んで来た。彼はジッとボクを見つめ、力強く言い放った。


「期待を掛けられたから……。それも、英雄と憧れる存在から……。だから彼等は、限界まで努力出来るのだ……」


「なるほど……。私としても、そちらの方が納得出来ますね」


 ギリーの意見に、ギルが納得した様子を見せる。ボクに向けられるその視線からは、敬意の色が滲み出ていた。


 ……というか、真顔でそういう事を言わないで欲しい。流石のボクも照れてしまう。


「ま、まあ……。いずれにしても、彼等のモチベーションが最大の要因だよ。ボクは強くなる方法を示した。それを信じ、実践し、強くなったのは、彼等の頑張りあっての事だからね」


「ははは、そういう事にしておきましょう」


「ふっ……」


 ……そのわかった様は顔は止めてくれないかな? 何とも言い返しにくい感じになり、ボクは一人で顔を顰める。


 ボクが一人でモヤモヤしていると、前方から一人の騎士が、ワイバーンに乗って飛翔して来た。


「アレク団長! レッド・ドラゴンを仕留めました! 荷台の準備をお願いします!」


「わかりました! すぐ、そちらに向かいます!」


 ボクの返事を聞くと、騎士は再び小隊の方へと戻って行く。その背中を見つめ、ボクはギルに声を掛ける。


「それじゃあ、引き取りに行こうか?」


「ええ、魔物調教師ビースト・テイマーの方々にも、声を掛けて来ますね」


 ギルは軽く一礼すると、そのまま身を翻す。そして、後方の荷台へと駆けて行った。


 そして、ボクは馬車の業者に声を掛ける。ボク達を先頭に、ドラゴンを乗せた荷台が前進を開始するのだった。

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