第179話 アレク、現状を報告する
王城の外れにある個室。今のボクは、そこでザナック侯爵とディナーを摂っている。
同席しているのは、お互いの執事のみ。この二人であれば、会話の内容を気にする必要が無い。
そして、ボクはパンを千切りながら、ザナック侯爵へと報告を行う。
「今の所は予定通り。事前に相談した通りに進んでいますね」
「ふむ、順調そうでなによりだね」
ザナック侯爵は嬉しそうに微笑む。そして、ワインを口に付け、ボクの言葉を待つ。
ボクは小さく頷き、説明を続ける。
「ただ、シャルロッテ様に動きが見られません……。予想に反して、何の行動も取らないんですよね……」
「確かに不気味ではあるね……。わかった、貴族達への接触が無いか、こちらでも調べておこう」
「はい、助かります」
新国王であるエドが言う通り、第一王女は別荘地で静かに暮らしている。それはヴェインさんにも調べて貰い、間違いないと確認出来ている。
過去の経緯を聞く限りでは、邪魔をすると思っていた。第一王子との継承権争いで、色々と暗躍していたみたいだからね。
……案外、決着が付いたから、潔く諦めたのだろうか?
ボクが思案していると、ザナック侯爵はグラスを置いた。そして、ニコニコと微笑みながら、別の質問を投げ掛けて来る。
「それで、騎士団の方はどうかね? アレク君の活躍を、快く思っていないのだろう?」
その質問は、答えがわかって聞いているみたいだった。都合の悪い回答が返って来るとは、微塵も感じさせない表情だからだ。
「ヴェインさんが訓練がてら、ロレーヌに探らせていますね。そして、その報告を聞く限りでは、反感は持っていても、脅威には成り得ないかと……」
「ほう……?」
ボクの答えに、ザナック侯爵が笑う。そして、楽しそうに続きを待つ。
ボクは肩を竦めて、ロレーヌの報告内容を話す。
「警備はザルで、密談内容は聞きたい放題……。そして、密談内容は非現実的で、実行不可能な物ばかり……。それ以前に、団員全てが自堕落的で、誰も行動を起こそうとしないそうです……」
「はははっ! それは確かに、脅威に成り得ないね!」
騎士が優遇されるペンドラゴン王国で、騎士の地位はとても高い。それ故に、彼等は驕りの塊と化していた。最近、王国内で人気の高いボクは、彼等にとって不快な存在らしい。
しかし、彼等は自分達が声を上げれば、全ての貴族が言う事を聞く……。全ての市民が、彼等の手足となる……。そう考えている為に、いざとなればクーデターを起こせば良いと考えているのだ……。
だが、貴族は誰に付くのが賢いか、その位は理解出来ている。市民からの期待も、既に今の騎士団には向いていない。
そんな状態でクーデターを起こしても、誰も付いては来ないだろう。それ所か、大半の騎士は実戦経験に乏しく、若手騎士すら離反する可能性が高い状況だ。
つまり、実際にクーデターを起こせば、彼等は勝手に自滅する事になるのだ。これはもう、ボクやエドが手を出すまでも無いよね……?
ボクは肩を竦め、溜息を吐く。すると、ザナック公爵が、別の話題を振って来た。
「そうそう、頼まれていた調整が終わったよ。来月には飛竜王国から、ベテラン
「本当ですか……!?」
その朗報に、ボクは思わず声を上げる。ザナック公爵は微笑みながら、頷きを返してくれた。
「流石に仕事が早いですね……。これは、来月からまた忙しくなるな……!」
「はははっ。余り張り切り過ぎない様にね。今でも十分に過密スケジュールだろうから」
ザナック公爵には、やんわりと窘めるられる。ただ、今は大切な時期なので、自重するのは難しいだろうな……。
というのも、
馬よりも強く早い、有用な魔物は数多い。しかし、それを活用出来ていないのは、
しかし、ザナック公爵が国家間の友好条約を結び、ペンドラゴン王国と飛竜王国の交流を活性化させる事に成功した。飛竜王国のアドバンテージである
……当然ながら、こちらもそれ相応の謝礼金や物資の提供は行うんだけどね?
「それで、
「ええ、隊員の方は上手くやれそうです。後はワイバーンの繁殖を、
この国には騎士は多く存在する。しかし、その騎士が乗るべきワイバーンは、以前に譲り受けた十体しかいないのだ。これでは、
なので、
「はあ……。やりたい事が、沢山有り過ぎて困りますね……」
「はははっ。アレク君が楽しんでいるなら何よりだ。……ただ、多くの事を為したいなら、人、金、物の動かし方を、学んで行かねばならないがね」
ザナック公爵は、意味有り気な視線をボクへと向ける。それは、ボクの反応を待っているみたいだった。
なので、ボクは姿勢を正す。そして、ザナック公爵へと頭を下げる。
「これから、貴族としての有り方を、多く学ばせて頂きます」
「はははっ。貴族としては、私が師匠と言う事だね? これは家族にも自慢が出来そうだ」
ザナック公爵は、心から楽しそうに笑う。そして、優しそうな微笑みを、ボクへと向ける。
そして、ザナック公爵は、その思いを口にする。
「アレク君の成長は、この国の発展において重要な意味を持つ……。それは、将来的にハミルトン家……ひいては、私の子供達にも利益となるという事だ。だからこそ、私は全力でアレク君の支援を行わせて貰うよ」
「はい、学んだ事は、この国の未来に役立てたいと思います」
ボクが力強く頷くと、ザナック公爵は満足気に微笑む。そして、椅子から腰を上げ、ボクの元へと歩み寄る。
ボクも同じく腰を上げる。そして、差し出された右手を両手で掴む。
「この先の活躍に、期待しているよ?」
「任せて下さい。期待に応えてみせます」
こうしてボクは、新たな師匠の元、貴族としての有り方を学んで行く事となった。
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