第112話 アレク、遺跡を巡る

 グローリー島での二日目。メンバーはそれぞれ分かれ、好みの場所へと散って行く。そして、ボクのチームは、この島の遺跡巡りだ。ゲーム上のグラフィックが、実物だとどうなるのか楽しみにしている。


 なお、ボクのチームはアンリエッタ、アンナ、ギル、セスが同行している。それと、観光ガイドのオジサンもだ。


 ガイドさんはナモさんと言い、この島の原住民である。短髪の青髪で、肌はこんがり焼けている。そして、来ている服も、カラフルな民族衣装である。彼は遺跡管理を生業にしているらしい。


「到着したよ~。こちらが水神様の神殿だね~」


「ほう、街から案外近いんですね」


 案内された場所は、観光地から馬車で十五分程度の距離。手入れが行き届いている様で、森林内の広場みたいになっている。そんな中に、ポツンと小さな石造りの建物が立っていた。


 ちなみに、ナモさんは非常にフレンドリーだ。ホテルの推薦なので、人柄には問題が無いと思う。しかし、敬語みたいな畏まった話し方は出来ないらしい。まあ、執事親子が眉を寄せる程度で、他は気にしてないから問題無いんだけどね。


 ボクは案内された神殿へと歩いて行く。その横をアンリエッタ、アンナが並ぶ。ナモさんは、慌てず後ろから付いて来る。


「港の町は元々、我々の祖先が作った町だったんだよ~。そんで、ご先祖様達は、街からここまで毎月お参りに来てたんだってさ~」


「徒歩でと考えると、それなりに距離がありますね……」


「他の村からもお参りに来てたからね~。いくつかの村の中心地に建てたんだってさ~」


 なるほど。各村で共有して利用していたのか。それなら、地理的な物は納得出来るな。


 少し歩くと、ボク達は神殿の入口に到着する。神殿は頑丈そうだが、それでも年季の入った風化が見える。所々補修されているし、壊れる心配は無さそうだけどね。


「遠慮なく入って良いよ~。壊さない様にだけ、気を付けてね~」


「それでは、遠慮なく……」


 ナモさんは入口で手を振って見送ってくれる。ボク達はナモさんを残して、中へと入って行く。


 とはいえ、建物はそれ程大きな物では無い。精々が十人程度が入れる広さしか無く、中央にドラゴンの石像が祀られているだけだ。ドラゴン以外に何も無い為、ボク達は真っ直ぐに石像へと向かう。


「何か書いてありますわね……?」


 アンリエッタが石像の台座を覗き込む。ボクとアンナも、つられてその文字に目を向ける。


『宝玉に触れ、魔力の奉納を行いなさい』


 台座に書かれた文字は、参拝者への指示らしい。改めてドラゴンに目を向けると、両手で石の球を抱えているのがわかる。


「奉納ですか……?」


 アンリエッタは首を傾げる。そして、無造作に玉へと触れる。後ろのセスから、あっという声が聞こえたが、流石に止める間が無かった様だ……。


「青く光ってる……」


 アンナがぽつりと呟く。一同の視線が玉に向かうが、彼女の言う通りに光っていた。ほんのりと漏れる程度の、淡い輝きではあるが。


「これで奉納された事になるのでしょうか?」


 アンリエッタは手を放す。すると、玉の光も止まる。触れた者の魔力に反応しているのは、間違いが無さそうだ。


「お兄ちゃん……」


 アンナがボクの袖を引いていた。その目を見ると、キラキラと輝いている。どうやら、アンナもやってみたいらしい。


 ボクが苦笑して頷くと、アンナも早速手を触れてみる。


「わ、さっきより凄い……」


「へえ、魔力によって、光り方が違うのかな?」


 アンナの場合、輝きは小さな豆電球程の輝きだ。先程に比べると、直視が躊躇われる程度の強さがある。


 そして、アンナは満足したのか手を放す。しかし、そのまま振り返ると、ボクの袖を引っ張って来る。


「お兄ちゃんも……」


 その目は完全に期待をしていた。ボクの場合どうなるか、楽しみで仕方が無いらしい。


 見ればアンリエッタも同じ目をしている。振り返ると、ギルとセスも、興味深そうにしていた。


「じゃあ、やってみますか」


 ボクは肩を竦めて手を伸ばす。そして、何の気構えも無く、玉に触れてしまう……。


「うわっ……!? め、目が……!?」


「きゃっ……!?」


「ま、眩しい……」


 完全な不意打ちを食らってしまった。玉は激しく発光し、太陽の様な輝きを放ってしまったのだ。


 ボクは慌てて手を放す。しかし、既に目が眩んでしまい、まともに目が開けられない状態だ。


「な、何事なんだな~!?」


 ナモさんの声が聞こえて来る。慌てているのか、のんびりしているのか、良くわからない声だ。足音が近づいているので、すぐ近くまで来ているのはわかる。


「た、玉に触れたら急に……」


「おお~! それは凄い魔力なんだな~!?」


 ナモさんは驚いた様子だが、どこか嬉しそうでもあった。この現象自体は、珍しい事では無いのだろうか?


 ボクはチカチカする目を何とか開き、ナモさんに向かって質問する。


「こんなに輝くのは、普通の事なんですか?」


「いや~、実際見るのは初めてだな~。昔はそういう事もあったみたいだけどさ~」


 それは、奉納者が観光客ばかりになったから? 昔は神官みたいな人が、魔力を奉納していたのかもしれないな。


 ボクは目を抑えた後、再びドラゴンに視線を送る。ようやく、視力が元に戻って来たらしい。


 しかし、先程との違いに眉を寄せる。ボクの記憶と違う箇所があるのだが……。


「玉って、青かったっけ……?」


「ううん、灰色だったよ……」


「ええ、確かにただの石でしたわね……」


 ドラゴンの抱える宝玉が、青い魔石の様な色となっていた。先程までは石像と同じく、ただの石でしか無かったはずなのに……。


「はわわ~。伝説の通りなんだな~。沢山の魔力を奉納すると、青い宝石になったんだな~!」


「そんな伝説があるんですか……?」


 多分、慌てているモナさんに尋ねる。すると、彼はコクコクと頷きながら説明する。


「元々、宝玉は水神様の魔石だったんだな~。いつしか力が弱まって、今の石になったって話なんだな~。そんで、沢山の魔力を奉納すると、島に水神様の加護が満ちるって言い伝えなんだな~」


 この宝玉は、魔力を失った魔石の姿だったのか? ただ、ゲームに無い設定だから、真偽の確かめ様が無いんだけど。


 ……まあ、また今度、ガウルに聞けばわかるかな?


 喜ぶモナさんを他所に、ボク達は遺跡内を軽く見て回る。しかし、宝玉の変化以外、特に変わった所は無さそうである。


 ボク達は満足して、モナさんに視線を送る。


「とりあえず、ここはもう良いですよ。次はどこに向かうんですか?」


「次はココの岬なんだな~。水神様が悪魔と戦った跡地なんだな~」


 ああ、『ディスガルド戦記』でもそんな場所があったな。イベント用のマップと推測されてたけど、結局は何のイベントも実装されなかった。


 ……ボクの死後になら、実装された可能性はあるけどね。


「じゃあ、移動しましょうか?」


「では、馬車まで戻るんだな~」


 そして、ボク達は水神の神殿を後にする。仄かに輝き続ける、水神の魔石を残したまま……。

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