第103話 アレク、死霊術士を鍛える

 昨日からボクは、ガウルの不思議なダンジョンで特訓中だ。このダンジョンは、入る度にダンジョンの構造が変わる。そして、下に潜る程に敵が強くなって行く。ドロップは落ちない代わりに、経験値は稼ぎ放題というダンジョンなのである。


 しかし、その難易度はかなり高く、昨日は一階の攻略だけで終ってしまった。数多のアンデッドが出現し、その攻略に手間取ってしまった為である。


 とはいえ、それでも死霊術士ネクロマンサーはLv5まで成長している。上級職のレベル上げとしては、破格の成長を遂げたのは間違い無かった。


「それじゃあ行くよ」


「ああ、任せておけ……」


「「おっけ! サポートは任せな!」」


 今日はボクを先頭にダンジョンを進む。今日のダンジョンは、石造りの人工的なダンジョンである。昨日は洞窟風だった事を考えても、やはり構造が毎回変わるらしい。


 なお、ダンジョンは人工的な明かりが灯り、道幅も広く余裕がある。戦闘を行うには何ら問題が無さそうだ。そして、皆で揃って歩いていると、ギリーがボソリと呟く。


「アレク、来たぞ……」


「わかった。任せておいて」


 通路の奥から姿を見せたのは、二体のアンデッドであった。身体は骨で出来ており、手には剣と盾を持つ。そして、身体はフルプレートアーマーを身に付け、肩にはボロボロなマントを羽織っている。


「スケルトン将軍ジェネラルか……」


 スケルトン将軍ジェネラルは通常モンスターでありながら、取り巻きを召喚する能力を持つ。そして、ボス程のタフさは無い代わりに、複数体が同時出現する事があるのだ。単体でもワイトキング相当の能力を持つので、範囲攻撃を持たない職には厄介な相手だと言える。


「でも、腕試しには丁度良いね……」


 こちらに気付いたスケルトン将軍ジェネラルは、取り巻きとしてスケルトン騎士ナイトを三体ずつ召喚する。取り巻き合わせて、総数は八体である。


 こちらに駆け寄る髑髏の群れ。ボクは髑髏の杖を掲げ、覚えたての魔法を発動させる。


召喚サモンスケルトン騎士ナイト


 死霊術士ネクロマンサーの習得魔法により、ボクの前には髑髏の騎士達が姿を見せる。そして、通常の召喚では五体の召喚を行う『召喚サモンスケルトン騎士ナイト』であるが、ボクの元には十体が召喚されていた。


 これこそ髑髏の杖の能力である。能力はスケルトン系の召喚数を二倍にするもの。死霊術士専用装備であり、スケルトン系にしか効果が無い。代わりに、死霊術士ネクロマンサー序盤では、とても役立つ装備なのだ。


 こちらのスケルトン騎士ナイトは十体。数の上ではこちらが上回っている。しかし、これだけではスケルトン将軍ジェネラルに勝てない。基本となるスペックが違い過ぎるからだ。


 ――なので、ボクはもう一つの習得魔法を発動させる。


デッド祝福ブレス


 『デッド祝福ブレス』は、死霊術士ネクロマンサーの基本スキルである。その効果は、召喚したアンデッドの能力向上。Lv5まで上げれば35%まで向上するが、今はまだLv2である。その為、効果は全能力が20%向上までだ。


「行け! スケルトン騎士ナイト!」


 ボクの指示に従い、髑髏の騎士達が突撃を掛ける。そして、ぶつかり合うお互いの騎士達。ボク達は、その成り行きを静かに見守る。


 まず、相手の側の騎士が二体葬られる。能力向上と、数の暴力の結果である。


 続いて、ボクの側も、二体の騎士が葬られる。相手にはスケルトン将軍ジェネラルもいるし、一方的な勝利とはいかないだろう。


 しかし、その後は相手側の騎士が、立て続けに倒れて行く。これで状況はスケルトン将軍ジェネラル二体に対して、スケルトン騎士ナイト八体となる。


 スケルトン将軍ジェネラルは、それでも善戦した。袋叩きの状況から、こちらのスケルトン騎士ナイト四体を道連れにしたのだから……。


 結果はボクの側の圧勝。ボクの側には、ほぼ無傷の騎士が四体も残っていた。


「うっへ……。えげつねぇ……」


「マジ、数の暴力じゃん……」


 ドリーとグランは、やや引いた様子だ。まあ、こういう戦い方を、普通の冒険者はしないだろうね。


 本来、物量で押し切る戦い方は、軍人が取る戦術である。そこからもわかる通り、死霊術士ネクロマンサーとは、国家間の戦いである攻城戦で輝くジョブなのだ。扱い方が他のジョブと比べ、特殊なのは間違いない。


 ……だからといって、ソロ狩りで弱い訳では無いんだけどね?


「さて、経験値は貯まったかな……?」


 ボクは未習得の術式を脳裏に描く。そして、習得出来るか試してみる。ボクの背後に控える、ミーアに向けて……。


召喚サモンゴースト」


 ボクの使用した死霊術が展開される。どうやら、レベルが上がり、魔法の習得に成功したらしい。


 そして、半透明なミーアの体が変化する。薄ボンヤリと、霧の様な白い体へと。


「ふむ、人の姿だが……」


「これがミーアなんかな?」


「流石に顔はわかんねぇべ」


 ギリー達の言う通り、ミーアと判別出来る状態では無い。それでも、ボクは念の為に確認を行う。


「ミーア、何か意思は示せる……?」


『…………』


 半ば予想はしていたが、やはりミーアは反応しない。まだ、ユニークスキルのレベルが足りていないのだろう。


 ボクは内心の落胆を隠し、ミーアに掛けた術を解く。すると、彼女の姿は、いつもの半透明な物へと戻る。ボクは内心で嘆息した。


「仕方がない。レベル上げを続けよう」


 ボクを先頭に再び奥へと進む。そう、立ち止まっている暇なんて無い。ミーアの意思を確かめる為には、ただ前に進み続けるしかないのだから……。


 そして、それ程の時間を掛けず、次の獲物と遭遇する。現れたのは魔術師風のアンデッドだ。茶色のローブに身を包み、手には杖を持っている。


「ゾンビ・マスターか……」


 あれも通常モンスターだけど、取り巻きの召喚を行う。名前の通り、召喚するのはゾンビ系のモンスターだけど。


 そして、そんなアンデッドが三体で固まっていた。そして、こちらに気付いたらしく、一斉に取り巻きを召喚する。


「げっ、マジかよ……」


「マジ、ヤベエな……」


 三体のゾンビ・マスターは、それぞれ五体のグールを召喚する。その総数は十八体である。


「流石にキツイか……」


 ボクは顔を後ろに向ける。そして、ギリー達に指示を出す。


「ギリー、数減らし宜しく。ドリーとグランは、取り零しを」


「了解した……」


「「おっけ! 任せとけ!」」


 そして、ボクは再び杖を翳す。次はスケルトン騎士ナイトだけで無く、黒魔術での攻撃も必要そうだな。だが、強敵の出現は望む所だ。それだけ早く、死霊術士ネクロマンサーがレベルアップ出来るのだから。


 こうして、二日目のレベル上げが、本格的に開始される。しかし、ボク達はすぐに知る事になる。この相手ですら、このダンジョンでは序の口でしかない事を……。

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