第101話 アレク、死霊術士へ転職する
ロード・オブ・デスとの交渉により、ボクは月に一度の訪問日を設ける事になった。彼の元を定期的に訪れ、ボクの持つ情報を提供する為だ。
代わりにボク達は、育成のサポートを貰える事になっている。彼の作ったオリジナル・ダンジョンを解放してくれるらしい。何でも、地下に潜る程強いアンデッドが出現する、不思議のダンジョンになっているとか……。
更には時空魔術も教えて貰えるらしい。ちなみに、この時空魔術は『ディスガルド戦記』に存在しない。マジック・バッグ等の仕組みを解析し、彼が独自に編み出したとか。
アンデッドへ転生する『転生の秘儀』にオリジナル・ダンジョンの作成。そして、時空魔術を開発したりと、彼は爺ちゃん以上に規格外の存在だったよ……。
『ふむ、それで『死者との交信』だったか? それは、どの様な効果を持つスキルなのかね?』
「いえ、それはわかりません。恐らく、
彼はボクの隣に立ち、興味深そうに見守っていた。少し離れた場所では、ギリー、ドリー、グランの三人も、同じ様に見守っている。
これから、
「……というか、名前を聞いても良いですか? お互いに名前を知らないと呼び辛いですし」
『そうかね……?』
彼は肩を竦めて見せる。あまり興味は無さそうだった。
とはいえ、断るつもりも無いらしい。彼はあっさりと名前を教えてくれた。
『私の名前はガウル=ブラック。歴史の中に消えた名だがね……』
歴史の中に消えた? それは、昔は有名だったって事かな? まあ、それは後程の確認で良いだろう……。
「ボクはアレクです。そして、後ろの彼等は……」
ギリー達を紹介しようとし、それはガウルに止められる。彼は軽く手を振って告げる。
『今後も私と関わるは、アレク一人だろう? それであれば、彼等の紹介は不要だ』
「はあ、そうですか……」
確かに月一訪問も、ボク一人で来る予定だ。それに、ギリー達もガウルに興味は無いだろう。そういう意味では、彼の言葉も間違いでは無いのかもしれない。
ボクは気を取り直し、祭壇へと向き直る。そこには先程から、一冊の本が置かれていた。死霊術が収められた、『死者の書』と呼ばれる本である。
「それでは、始めますね」
『ああ、いつでも良いぞ』
別に断る必要も無いのだが、一応は隣で見守られてるしね。それに、一応は気を使っておかないと、下手に機嫌を損ねても……ね?
ボクは内心で苦笑を浮かべ、『死者の書』へ手を伸ばす。そして、黒い表紙をめくる。
羊皮紙にも似ているが、恐らくは違う素材だろう。時間の経過を感じさせない、しっかりとした手触りである。案外、魔物の皮だったりするのかもね。恐らく、人間の皮では無いと思うのだけど……。
「こっちは日本語じゃないね……」
本の中身は、大陸共通の文字である。古い文法だが、これならこの世界の誰もが読める事だろう。キチンとした転職用アイテムでホッとする。
そして、肝心の中身は、死霊術の概念や、死霊術の術式について。この通りに魔法を展開すれば、死霊の召喚が可能という事だ。
……これで、
ボクが疑問に思っていると、それに答える様に声が響く。
『おめでとう御座います。
「え……?」
突然の声にボクは驚く。しかし、その声は、そんなボクに構わずに説明を続ける。
『『死者との交信』の効果は、霊体の可視化、訴えの感知となります。また、スキルのレベルに応じ、交信可能な範囲も拡大します』
「これって、まさか……」
過去に聞こえていた、ヘルプ機能と同じ声だ。十歳を境に聞こえなくなった為、幼少期限定のチュートリアル的なシステムと思っていた。機能としては、死んで無かったのか……。
『スキルレベルは『死者との交信』の利用に応じて上昇します。また、レベル上限は
ふむふむ。『死者との交信』には、レベル上限があるのか。そして、
ただ、『死者との交信』はどうすれば良いんだ? 常時発動型らしいけど、勝手に発動するのを待つしか無いのかな?
『更に『死者との交信』は、進化の可能性を秘めています。進化には複数条件が存在する為、解放は容易ではありません。しかし、進化を行う事で、真なる効果が発揮されます』
おぉ、スキルの進化があるのか!
効果は明示されなかったけど、中々に期待させる説明だった。これは是非とも進化させ、効果を確認したい所だね。
『以上で、ユニーク・スキルの説明は終了となります。……貴方の御武運をお祈り致します』
「ん……?」
何か最後に違和感を感じた。ただ、違和感の正体は、良くわからなかった。
まあ、わからない事を考えても仕方が無い。まずは、死霊術とユニーク・スキルの検証について考えよう。
『終わったかね? 最後に何か起きていたみたいだが……』
「はい。
ボクは頷いて、ガウルへ答える。そして、彼に視線を向けて、固まってしまう。
「…………え?」
『どうかしたかね?』
ガウルが不思議そうに声を掛ける。しかし、ボクの視線は、彼を捉えてはいない。彼のすぐ後ろへと向いていた。
「そんな……何で……?」
ボクはユルユルと首を振る。その想定外の事態に、ボクの頭は真っ白になってしまった。
ガウルのすぐ後ろ……。いや、ボクの斜め後ろと言う方が正しいのだろう。
そこには、ボクの良く知る人物が立っていた。ボクが求めてやまない、彼女がそこに居たのだ。
「ミーア……?」
そう、そこには死んだはずの、ボクの彼女が立っていた。半透明な姿で、悲しみの表情を浮かべて……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます