第100話 アレク、トゥルー・バイブルを知る
ロード・オブ・デスが、ボクの胸倉を掴んだ。その動きにギリー達は臨戦態勢となる。しかし、ボクは彼らに制止する様に手を掲げる。
そして、ロード・オブ・デスはギリー達を歯牙にもかけない。彼は怒気を込め、ボクへと衝撃の事実を告げる。
『私はゲイルに、呪術師の知識を与えてない……。あの小僧が、呪術師の知識を持つはずが無い!』
「知識を、与えた……?」
茫然とするボクを、彼は突き飛ばす。苛立ちはしているが、すぐに襲い掛かって来る様子は無い。そして、倒れるボクを見下ろして呟く。
『そもそもだ……。奴は経験で理解する感覚派だぞ? 理論立てた説明が出来るタイプでは無い。アレでは、君の様な後継者が育つはずが無いのだ』
「祖父と……知り合いなのでしょうか……?」
先程の内容からすると、爺ちゃんの事を良く知った口ぶりだ。それに、知識を与えたとか、あの小僧とか、それではまるで……。
『ん……? ああ、ゲイルは私の弟子だった頃がある。最も、奴が私の元を離れ、五十年以上の月日が流れているがね……』
「ロード・オブ・デスが、爺ちゃんの師匠……?」
そういえば、ワトソンさんから聞いた事がある。爺ちゃんとワトソンさんが子どもの頃に、戦災孤児となって師匠に拾われたと。そして、同じ師匠の元で、兄弟同然に育ったと。
つまり、爺ちゃんとワトソンさんは、この人の元で育った? だから、英雄と讃えられる、規格外な存在へと成長したのだろうか?
しかし、彼は呆れた様子で軽く手を振る。
『その言葉は正しく無いな。ゲイルの師であった頃は、まだ人を辞めてはいなかったのでね』
「え……? 人を辞めてアンデッドになったの?」
彼は転生者じゃないのか? それとも、二度目の転生を行った?
ボクが混乱していると、彼は不思議そうに呟く。
『君は何を不思議がっているのだ? 先程、自ら『転生の秘儀』について、口にしていただろう?』
「転生の秘儀……?」
転生の秘儀とは何だ? 何か話が噛み合っていない気がするのだが……。
どうやら、向こうも同じ事を感じたらしい。一つ頷くと、彼は改めて問い掛けて来た。
『改めて質問しよう。君のその知識は、どうやって得た物なのかね?』
彼の口調は落ち着いた物になっている。圧力を掛けて、無理に口を割ろうとは考えいないらしい。
しかし、ボクは回答に悩む。この回答次第で、彼は何らかの判断を行うつもりなのだろう。どこまで話し、どこまで隠すか……。
逡巡した後に、ボクはゆっくりと口を開く。
「ボクは生前の記憶を持っています……。その記憶の中には、『ディスガルド戦記』の知識も含まれています……」
嘘は付いていない。まずは様子見である。そして、必要最低限の情報は込めた。相手の反応次第で、相手がプレイヤーかどうかも判別出来るはずだ。
しかし、彼は動きを止めていた。じっと、深く考え込んでいる様子だった。余りに長く動かないので、ボクは恐る恐る問い掛けた。
「……えっと、どうかしましたか?」
彼の視線が、ボクを捉えた気配を感じる。そして、彼の口がゆっくりと動き出す。
『今、『ディスガルド戦記』と言ったな……。君は、『トゥルー・バイブル』の存在を知っているのか……?』
「トゥルー・バイブル?」
初めて聞く単語だ。直訳するなら、『真の聖書』だろうか?
ボクはそんな物を見た事が無い。そして、ゲーム内でも存在しないはずだ。彼の尋ねるアイテムに、心当たりは無かった。
しかし、その事で逆に、彼は動揺した様子を見せる。何故か、焦った様子で質問を重ねる。
『まさか、『トゥルー・バイブル』を知らないのか? ならば何故、『ディスガルド戦記』を知っている? それとも、『トゥルー・バイブル』以外に、『ディスガルド戦記』の知識を得る方法があるのか?』
……話しを聞く限りだと、彼は『トゥルー・バイブル』から、『ディスガルド戦記』の知識を得たらしい。そして、それ以外に方法が無いと考えている事もわかる。
つまり、彼はプレイヤーでは無いという事だろう。だとすると、彼の知る『ディスガルド戦記』とは、どの様な内容なのだろうか?
「確認ですが、あなたは異世界からの転生者では無いのですね?」
『……異世界から? まさか、君はその異世界からの転生者なのか?』
彼は身を乗り出して質問する。顔は髑髏なので表情は無い。だが、目を輝かせている状況なのだと、気配で感じる事は出来た。
「はい、ボクは異世界転生を行っています。そして、生前の世界では、『ディスガルド戦記』という
『何と言う事だ……』
彼は天井を仰ぎ見る。そして、ゆっくりとその両手を広げる。骨で出来たその体からは、歓喜が満ち溢れていた。
『おぉ、神よ! 何と素晴らしい巡り合わせ! 貴方様の采配に、感謝致します!』
……どの神に感謝してるんだろう? 悪魔公の時も思ったけど、悪魔や死霊が神に祈るのってどうなの?
ボクが何となく呆れていると、彼はバッと顔をこちらへ向ける。そして、何も無い空間を掴み、一冊の本を取り出した。
「え……? どこから取り出したの……?」
『時空魔法だ。だが、今はそんな事はどうでも良い。この内容について教えてくれ!』
彼は取り出した本を開き、ボクにとあるページを指し示す。ボクは彼の指示に従い、本に視線を落とす。そして、その内容に目を見開く。
「そんな、まさか……?」
その本の中身は、日本語で表記されていた。記載されている内容は、
十五年ぶりに見た日本語に、ボクは戸惑いを隠せずにいた。しかし、彼はそんな事を気にせず、ボクへと問い掛けて来る。
『ここの記述はどういう意味かね? 長年の研究でも、ここの解読がどうしても出来なかったのだ』
「……エクストラ・スキル『英霊召喚』と書いています」
『やはり、読めるのか……!?』
彼の声は喜びをはらんでいた。それどころか、余りの喜びに、声が裏返ってさえいた。
しかし、喜ぶ彼とは逆に、ボクは動揺を隠せずにいた。確かにこれは『ディスガルド戦記』の知識だ。だが、何故こんな本が存在しているのだろう?
「この本は、一体……?」
『これは『トゥルー・バイブル』の写本。……その一部と言うべきかな? 『トゥルー・バイブル』は複数存在するらしいが、これは『ジョブマスタリー・パーフェクトバイブル』と言う章らしい』
何その攻略本みたいな名前? 他にもモンスター図鑑とか、アイテム図鑑みたいな物もあるのかな?
戸惑うボクに構わず、彼は質問を続けようとする。しかし、流れとしては、ここが分岐点だよな……。
『それで、詳しい内容は……』
「ちょっと待って貰えますか?」
『む……?』
話しを遮られ、彼は不満そうな声を上げる。しかし、こちらも命が掛かっている。しっかりと、交渉させて貰わなければ。
「質問への回答は行います。ただ、その前に命の保証をお願いします。それは、ボクだけで無く、仲間も含めてですが……」
『ああ、そんな事か。勿論、君と仲間の命は保証するとも。それ以外にも、大抵の望みなら叶えてやろう』
彼は明るい声で答える。しかし、彼はそれに続いて、小さな声で囁く。後ろのギリー達へと聞かせたく無いかの様に……。
『何せ君には利用価値がある。その価値は、この世界の誰よりも重いのだからね……』
その囁きに、ボクの背中がゾクリと震えた。仄かに暗く光る眼が、ボクを完全な獲物として捕らえているのがわかる。
これから先、色々な面倒毎に巻き込まれそうな予感をがする。ボクは命の保証に喜びつつも、今の状況を素直に喜べずにいた。
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