第97話 アレク、腕試しを行う
今日は地下墳墓へと訪れている。ボク以外のパーティーメンバーは、ギリー、ドリー、グランの三人。目的はドリーとグランの腕試しである。
ちなみに、アンナ達は海底洞窟の地下二階に向かった。ギルを護衛に付けたので、あちらは特に心配していない。
「へぇ、こんな場所があったんか~」
「ヤベェな。狩場独占状態じゃね?」
地下墳墓に下りた所で、ドリーとグランは楽しそうに周囲を観察していた。特に気負った様子も無く、いつも通りに緩い雰囲気だ。
そして、ボクは二人の装備を改めて確認する。ミスリルの軽鎧は昨日と変わらない。しかし、手にはショートソードとバックラーが握られている。恐らく戦闘スタイルは、攻撃や防御に特化しない、バランス型なのだろうと推測している。
「じゃあ、お手並み拝見と行こうか?」
「「おっけ! 任せとけ!!」」
二人は揃って振り返り、ボクへとサムズアップする。そして、軽く談笑を交えながら、洞窟内を進みだした。
「やっぱ、アンデッド中心か~。きっついな~」
「華がねぇよな。ロレーヌちゃんがいたらな~」
二人はダラダラと洞窟内を進む。しかし、現れた魔物は瞬殺している。地下一階では、実力を見せるまでも無いという事だろう。
「もう少し進んだら、地下二階に続く階段があるから」
「おっけ! じゃあ、ペース上げっかな!」
「早く帰って、メアリーちゃんの料理だ!」
……先ほどから、女性の名前が良く出ている。男四人のパーティーが不満なのだろうか?
まあ、モチベーションは高いし、その辺りは放っておく事にしよう。
「あれじゃね? あれ階段だべ?」
「おっけ! サクッと降りるべ!」
二人はどんどん先へと進む。事前に話してあるが、この先は難易度が格段に上がるのだ。果たして二人は、無事に進む事が出来るかな?
しかし、ボクの懸念は良い意味で裏切られる。
「ヤッベ、あれ上位種じゃね?」
「じゃあ、本気出してみっか!」
二人は何故か、更にテンションが上がる。そして、お互いに強化魔法を掛け合い、魔物の群れへと突っ込んで行く。
「ヒーハー! 蹴散らしてやんよ!」
「やっちゃうよ! やっちゃうよ~!」
まったく緊張感を感じさせないドリーとグラン。しかし、その動きはふざけた台詞とは正反対だった。
彼等は互いに、前後入れ替わりながら戦う。そして、前に出ると斬りかかり、後ろに下がると魔法を使う。
魔法剣士の攻撃魔法、状態異常付与、武器属性付与。聖騎士の回復魔法、能力向上魔法、状態回復魔法。それらが全て、ベストなタイミングで行使され続けていた。
「へぇ……。あれは凄いね……」
「ああ、オレ達の狩りに匹敵するな……」
二人の狩りを、ギリーと二人で茫然と眺める。大丈夫だろうとは思っていたが、彼等の能力は想定以上だった。
そして、何よりも凄いのは、そのテクニックである。彼等の動きには無駄が無く、最小の動きで最大の効果を叩き出すのだ。それ故に、二人の殲滅力はギリーを上回っていた。
「サクサクと進んで行くね……」
「あれでスタミナが持つのか……?」
ギリーの懸念は良くわかる。二人はとにかくハイテンションだった。
動きには無駄が無いのだが、常に口が動き続けているのだ。正直、聞いている方が疲れを感じてしまう程である……。
「あれ~? アレク達が遅れてね?」
「ボサッとせず、早く来いってば!」
ドリーとグランは、揃ってこちらに手を振っていた。魔物の残骸が散らばる中で……。
ボクは肩を竦めて彼等の後を追う。ついでに、値打ちのあるドロップも回収しながら。
「うん、これならボスも行けそうだね」
「ふむ、行ってみるか……?」
ボクとギリーは互いに頷く。そして、ドリーとグランを伴って、更に地下へと進む事にした。
結論から言おう。ワイトキング相手に圧倒していた……。
「へいへい! さっさと本気出せよ!」
「玉切れか? さっさと次出せって!」
魔法剣士のドリーが、取り巻きの相手をしていた。相手は五体のスケルトン・ナイトだが、ドリーにとっては雑魚でしか無いらしい。召喚されてから、三十秒程で殲滅してしまう。
ワイトキングの相手は、聖騎士のグランである。杖での殴打は盾で弾き、ファイア・ボルトは耐久力とヒールで凌ぐ。そして、その間も攻撃の手が止まる事は無い。
ワイトキングは大忙しだった。目の前の聖騎士は、
また、取り巻きも三十秒毎に倒される。その度に再召喚で十秒程の時間が取られる。
見ているだけで可哀そうに思える状況である。そして、五分程の戦闘で、ワイトキングはあっさり沈んでしまう。
「いや~、マジ余裕って感じじゃね?」
「これって魔石だべ? 高額じゃね?」
二人は早速ドロップを漁っていた。そこに疲れの色は見えない。これが上級の冒険者と言う物なのだろう。
「ふむ、特に問題は無さそうだな……」
「うん、実力は問題無しだね」
ボクとギリーは互いに頷く。恐らく彼等の実力は、『黄金の剣』のリュートさんに匹敵する。彼等が加われば、『白の叡智』は更に戦略の幅が広がる事だろう。
とはいえ、同時にボクは、二人の弱点も理解出来た。ドリーとグランの二人は、良くも悪くもバランス型だった。ハティやルージュの様な特化型では無いのだ。
つまり、上位のボスにも対応可能だけど、逆を言えばそこまでだ。その先に用意されている、レイドボス戦等では実力不足となる事が予想出来る。
「まあ、当面は問題無いか……」
レイドバトルに挑むのは、まだまだ先の話しである。今のボク達にとって、ドリーとグランが貴重な戦力なのは間違い無い。
それに、二人が加われば、大抵の恒常イベントは攻略可能となる。それは、ボクがずっと待ち望んでいた、
「うん、次の目的が決まったね」
「む、次の狩り場か……?」
ギリーの質問に頷きで返す。そして、ドロップを漁る二人へと歩みを進める。
そう、次の狩場は『忘れられた島』だ。
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