第90話 アレク、悪魔公を再封印する
崩れ落ちた悪魔公は、顔を上げてこちらを睨む。
『何故、ここまで……?』
悪魔公の疑問は理解出来る。相手の能力を把握し、その対策が全て準備されているのだ。ボクが逆の立場でも、同じ事を思うだろう。
だが、答えてやる義理は無い。ボクはマリアさんへと視線を向ける。
「マリアさん、予定通り再封印をお願いします」
「はい、わかりまし……って、あれ?」
急に慌て出すマリアさん。そして、リュートさんや周りの皆が気まずそうな表情を浮かべる。
「有りません……。封印石が有りません……!」
『くはははっ……。封印石なら、我が既に砕いてやったわ!』
悪魔公の言葉を肯定する様に、リュートさん達は俯いていた。その様子から、何となく事態は理解した。マリアさんの胸が貫かれたのは、そういう経緯なのだろう。
顔を青くしたマリアさんは、震える声で問い掛けて来る。
「アレクさん……どうしましょう……?」
「ふむ、仕方がないですね……」
余り使いたく無かったが、こうなっては仕方が無い。ボクはマジック・バッグから、そのアイテムを取り出した。
「これを使って下さい」
「これは……って、えぇ……!?」
ボクがマリアに渡したのは、予備の封印石だ。受け取った彼女は、目を白黒していた。
そして、封印石とボクを交互に見つめる。マリアさんは混乱したまま尋ねて来る。
「えっと……えっ? ど、どうして……?」
周囲の皆も驚愕の表情を浮かべている。なので、ボクは淡々と答える。
「こういう時の為に準備しておきました」
「「「おおっ……!?」」」
周囲から感嘆の声が上がる。彼等の顔には、称賛の表情が浮かんでいた。
……ただし、リュートさんとポルクだけは違う反応を示している。彼等二人だけは、ボクに呆れた目を向けていた。
「ふーん、予備ねぇ……?」
「それなら、事前に知らせて欲しかったですね……」
ボクは彼等の声を無視する。そして、彼等もそれ以上は何も言おうとしない。そう、気付かないなら、そのままの方が良いという事もあるのだ。
元々二個目の封印石は、ボク個人用にこっそり作った物だ。何かの際に使えるだろうと思い、リュートさん達に多めの素材を集めて貰っていたのである。基本的にはイベントアイテムで、市場に出回らないアイテムだからね。
……ちなみに、話すと領主に取り上げられると考え、誰にも話してなかったりする。リュートとポルクには、その辺りの魂胆がバレてしまった様だが。
「マリアさん、お願いします」
「はい、お任せ下さい!」
マリアさんは大きく頷くと、封印の儀式に取り掛かる。儀式はプリーストで無いと出来ないが、それ程難しい内容では無い。後はマリアさんに任せれば大丈夫だろう。
そして、ボクはふと視線に気が付く。その視線は、悪魔公の物であった。
『貴様は……一体、何者なのだ……?』
「ボク? 只のしがない賢者だけど?」
ボクの回答に悪魔公は黙り込む。そして、回りからは何故か、否定的な眼差しを向けられる。
……何故だ? 味方からのこの仕打ちは想定外である。
『その知識……その戦術……』
悪魔公は一人で何かを呟いている。その目はジッとボクに向けたままで。
まあ、ジッと見られて気味は悪いが、暴れないだけマシだろう。というか、再封印を始めてるのに、一向に抵抗する気配が無いな?
『いや、その目、その髪、その魂……。そうか、そういう事か……!』
「ん……?」
悪魔公は勢い良く身を起こすと、その場にドカッと座り込む。そして、愉快そうに笑いだす。
『く、くははははっ……! あの御方の差し金か……! ならば仕方あるまい!!』
「あの御方……?」
悪魔公が意味有り気な発言をする。皆の視線が悪魔公に集まるが、彼は気にした様子を見せない。そして、一人だけ満足した様に腕を組んで頷いていた。
『人間共よ! 楽しませて貰った礼に、大人しく封印されてやろう!』
「えっと……。あの御方って誰の事かな……?」
ボクは悪魔公に問う。しかし、悪魔公は首を振って答えない。
『若き英雄よ! 精一杯、足掻いて見せよ! 貴様の未来には、多くの試練が待っているだろう!』
「え、えぇ……」
……何か嫌な宣言をされてしまった。
といか、悪魔公は何を知っているんだ? ゲーム内には無いイベントなので、ボク個人に関わる何かとは思うんだけど……。
『では、さらばだ! 汝に神の加護があらんことを!』
「神って、どの神様ですかね……?」
光の神スルランとは思えない。ならば、闇の神スレインだろうか? しかし、そんな話は聞いた事が無い。悪魔だから魔王とか魔神とかだろうか?
結局、ボクの疑問に悪魔公は答えなかった。悪魔公は抵抗もせず、マリアさんの持つ封印石へと封じされた為である。
イベントの最後としては呆気ない終わり方だったな。そして、最後に嫌なフラグを立てられた気がするのだが……。
しかし、イベントは終わった訳では無かった。油断したボクの背後に、ぬっと影が伸びて来る。
「……アレク! やりましたね!」
「え……? ち、ちょっと……!?」
突然、アンリエッタがボクに飛び掛かって来る。そして、彼女の腕はボクの首に絡み、そのまま抱きしめられてしまう。
……美少女に抱き着かれて嬉しいかって? 鎧がゴリゴリ押し付けられて、とても痛いだけです。まあ、ちょっと良い匂いはするんだけどさ。
「ダメ……。離れて……!」
すかさずアンナが間に入る。そして、アンリエッタとボクを引き剥がそうとする。
しかし悲しいかな……。聖騎士であるアンリエッタと、魔術師であるアンナでは、筋力に差が有り過ぎた。
結局、アンリエッタはアンナを巻き込んで、ボクへの抱擁を続けるのであった。
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