第74話 アレク、地下墳墓(ボス)へ挑む

 地下へと続く階段を降りると、そこには大きな扉があった。木製ではあるが、古くて丈夫そうな扉である。


「さて、この先にボスがいるから作戦を伝えるよ」


 一同はこれまで同様に、ボクの言葉に耳を傾ける。これまでの作戦で、ボクには実績がある。その為、ボクの言葉を疑う人間はここには誰もいなかった。


「この先にいるのはワイトキング。スケルトン系の王様である、魔法攻撃をメインに使ってくる。そして、取り巻きとして、スケルトン騎士ナイトを五体召喚する能力も持っている」


 スケルトン・ナイトは防御力の高いスケルトンである。攻撃能力はそこまで高く無いが、攻撃力の低いパーティーだと戦闘が長期化して不味い相手となる。


 しかし、こちらにはギリーと言う超火力が存在する。一撃で仕留める攻撃力がある為、その防御力もそれ程は問題にならない。しかし、ここでのスケルトン・ナイトには、別の厄介な問題があった。


「このスケルトン騎士ナイトだけど、数が二体以下に減ると、ワイトキングが再召喚を行う。つまり、減らしても減らしても、元を絶たない限りは無限に沸き続ける事になる」


「それは流石に……」


 ルージュが嫌そうな顔で呟く。ロレーヌやハティは勿論、アンナですら同じ様な顔をしていた。


「なので、初手でギリーが二体を仕留める。その後は、数を減らさない様に、ルージュが足止めを行います。スケルトン・ナイトの攻撃力は低いので、ボクの支援があればルージュでも問題無いですよ」


「わ、わかりました!」


 ルージュは緊張した様子で力強く頷く。まあ、気負い過ぎた感じも無いし、戦闘が始まれば上手くやってくれる事だろう。


「そして、アンナとロレーヌは待機。ロレーヌは『盗む』とか考えないでね? ギリーの流れ矢に刺さってしまうからさ?」


「あ、あはは……。流石におっかなくて無理だよね……」


 ロレーヌはギリーを見て、引き攣った笑いを浮かべる。流石に今回は自重する事だろう。ギリーの攻撃力を、嫌という程に目にしているのだから。


 そして、ボクは視線を横に逸らす。そこには、完全に油断したハティの姿があった。


「ハティ、喜んで良いよ。今回はハティにも役割があるから……」


「え、それって……」


 ハティは何かを察したらしい。とても嫌そうな顔でボクを見つめ返していた。うん、実に良い勘をしている。


「そう、その役割というのは……」





「……こういう役割なのかぁぁぁ!!!」


 ハティは炎に包まれながら叫んでいた。ワイトキングが放つ、ファイア・ストームによる魔法攻撃である。


 しかし、熱さは感じても、大したダメージでは無いはずだ。何故なら、炎のタリスマンを装備させ、エンチャント・アーマーで、炎耐性も付けているからだ。


「ふっ……!」


 そんなハティを横目に、ギリーは大量の矢をワイトキングに叩き込んでいた。ワイトキングはボス部屋の最奥にある玉座から動かない。ギリーにとっては良い的でしか無かった。


「いや~、凄い光景だよね……」


「うん、お兄ちゃんの作戦はいつも完璧……」


 ロレーヌとアンナが、少し後ろで傍観していた。ロレーヌは引き気味だが、アンナは何故か光悦の表情を浮かべている。


「ワイトキングって馬鹿なのかな……?」


「いや、そういう制約があるんでしょ……」


 ロレーヌの言い様に、流石にフォローを入れてしまう。まあ、攻撃されても玉座から動かないので、見ようによっては馬鹿みたいに映るとは思うんだけどさ……。


 そう、ワイトキングには簡単な攻略方法がある。取り巻きを適当に足止めし、遠距離から攻撃すれば、一方的に袋叩きに出来るという攻略法である。


 ……しかし、これも知っている人間にしか取れない手段なのだ。


 ワイトキングは近距離では威力の高いファイア・ボルトを、中距離には威力の低いファイア・ストームを、遠距離には最も威力の高いライトニング・ボルトを使うという特性を持つ。


 そして、ワイトキングは距離の近い対象を優先して攻撃する。つまり、中距離にターゲットがいれば、遠距離の相手には攻撃を行わないのである。


「ヒール、プロテス」


 ボクはルージュに回復と支援を飛ばす。見ればルージュの方も安定して足止めが出来ている。シールドバッシュはスタンが効かないが、シールドスイングによる吹き飛ばしを上手く使っている様だ。


 本来、スケルトン・ナイトは基本職が相手取るには難しい相手と言われている。しかし、守るだけとはいえ、三体と渡り合えているのだから、ルージュのセンスは中々の物と言えるだろう。


「リーダー、こっちにもヒールを……!」


「ヒール、マジック・バリア」


 ハティの求めに応じて、回復と支援を飛ばす。ルージュに比べれば、まだまだ余力があるはずなのに。痛みになれてないからだろうね……。


 ファイア・ストームは威力が低い代わりに、ジワジワと相手の体力を奪う攻撃魔法である。ヒーラーとしては、対象の体力が把握出来ていれば、事故も起きにくく、支援が非常に楽な魔法だ。


 そして、ハティは先ほどから、休みなく炎の渦に飲まれている。一定時間で消えるのだが、消えたそばからワイトキングが再発させる為である。


「さて、ワイトキングの体力的にはそろそろかな?」


 じっとワイトキングを見ていると、程なくして崩れ落ちる姿が目に映った。ダンジョンのボスは体力が多めな場合が多いのだが、ワイトキングはそこまで膨大な体力を持っていない。その為、ギリー一人の攻撃でも倒しきれてしまうのである。


「さて、それでは戦利品を確かめに行きますか」


 ワイトキングが倒れると同時に、取り巻きのスケルトン・ナイトも消えていた。ハティとルージュにヒールを飛ばすと、ボクは玉座へと向かって歩いて行く。二人は疲れた様子で座り込んでいた。


「お、よしよし。目的の品はドロップしたね」


「どれが目的の品だ……?」


 後ろからはギリー、アンナ、ロレーヌが着いて来ていた。三人は興味津々といった様子で、玉座に散らばったアイテムを眺めていた。


 ボクはその中から、一本の杖を拾い上げる。不気味に歪んだ木の柄の先に、人と思われる髑髏が付いた杖である。


「この『髑髏の杖』が目的のアイテムだよ。後々、役に立つ予定なんだよね」


「うへ、気味が悪い杖だね……」


 ロレーヌは顔を歪めるが、ギリーとアンナは気にした態度が見られない。きっと、ボクが言うからには、役立つとしか考えていないのだろう。


「まあ、その効果は今後のお楽しみという事で……」


 ボクは拾った杖をマジックバックへと収納する。ついでに、ドロップした魔石や素材も合わせて回収しておく。


 ……ちなみに、この『髑髏の杖』はネクロマンサー専用装備だ。黒魔術師でも装備は可能だが、受けれる恩恵が少ないので装備する事は無い。


 攻撃力が高い訳でも無く、魔力が上がる訳でも無い。装備としての性能は低いのだが、一つだけユニークな特殊効果を持っている。


 それは、『スケルトン系の召喚数を二倍にする』という能力である。低コストで数を並べられるスケルトン召喚は、ネクロマンサーの基本魔法である。それを精神力消費を増やさずに、二倍の数を召喚可能となる。使い方によっては、非常に壊れた性能を発揮する杖なのである。


 とはいえ、その効果を発揮するのは、まだまだ先の予定なのだが。ネクロマンサー転職の為には、まだ揃っていないパーツがあるのだ。


 ボクはルージュに視線を向ける。彼は疲れた様子で、まだ座ったままだった。


「まあ、焦る必要は無いよね……」


 ボクは肩を竦めると、ルージュとハティの回収に向かう。二人はボクの動きに気付いて、慌てて立ち上がる所だった。


 ……いずれはこのメンバーで挑む事になるのだろう。ただ、それにはまだ少し、時間が必要というだけの話である。そう、焦る必要なんて無いんだ。


 ボクは胸の中のモヤモヤを打ち消しながら、仲間と共に地上へと戻って行った。

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