第73話 アレク、地下墳墓(B2F)へ挑む
今のボク達は、地下墳墓地下二階への階段前で休憩を取っていた。この階段があるフロアは、魔物が沸かないので、休憩と作戦会議に最適な場所なのである。
「さて、次からは地下二階へ挑みます。ここからの作戦をお伝えしますね」
ボクの言葉に全員が耳を傾ける。ギリーとアンナは余裕の表情で。残りの三人は地面にへたり込んだ状態で。
「地下二階の魔物は、半分が地下一階と同じです。しかし、同レベルで同量の魔物が出現する中で、上位の魔物も追加されます。ここでは魔物の質よりも、その出現量が何よりも厄介です」
「「「…………」」」
ハティ達三人が息を飲む。多少の余裕があったとはいえ、地下一階も決して楽勝と言えるレベルでは無い。三人はかなりの不安を感じている事だろう。
「しかし、追加される上級の魔物は、私とギリーで対処します。つまり、アンナ、ルージュ、ロレーヌの三人は、地下一階と同じ戦いをすれば良いと言う事です」
ルージュとロレーヌはホッと胸を撫で下ろす。これ以上、ハードになる事が無いと分かって安心したらしい。
しかし、一人だけ不安そうな表情のメンバーがいた。そう、彼の名前はハティだ。
「えっと、リーダー……。オレも地下一階と同じですか……?」
「いや、ハティには重要な役割があるよ」
「え……!?」
想定外の言葉だったらしい。ハティはボクの言葉に目を丸くする。そして、期待した様にキラキラした目で、ボクの言葉を待っていた。
ボクはマジックバックから、三つのアイテムを取り出す。そして、ハティにそれを手渡した。
「これが何かわかりますね?」
「ええ、矢筒ですね……」
そう、彼に手渡したのは矢筒である。それぞれの矢筒には、五十本の矢が刺さっている。それが三つなので、合計で百五十本の矢を手渡した事になる。
「ギリーの矢筒が切れたら、この矢筒を交換してね。そして、矢筒が全て空になったら、私の元へと持ってきてね」
「了解です……」
ハティは絶望した目で返事する。期待した役割では無かったのだろう。
しかし、これは非常に重要な役割である。このパーティーの最高火力であるギリーが、攻撃を続けるには大量の矢が必要となる。それを切らさない様にするのも、パーティーの安定には必要な事である。
メンバーの視線がハティに集まる。その目には、同情の色が浮かんでいる。しかし、その必要性も理解出来ているので、誰も何も言わなかった。そう、彼の役割を誰もが理解しているのだ。
そして、ボク達は休憩を適当に切り上げて、地下墳墓の地下二階へと向かった。
地下二階の状況は、ボクが想定していた通りだった。スケルトン・ソルジャーが三体。ゾンビが二体。ゴーストが一体。地下1階と同じ程度の湧き具合だ。
それに加えて、スケルトン・ナイト、グール、レイス等が混じって来る。しかし、それらは出現した瞬間に、ギリーによって葬り去られていた。
「サブリーダー、半端ないって……」
「うむ、流石はアレク殿の側近といった所だな……」
「全て一撃だから、矢が減らないな……」
ロレーヌ、ルージュ、ハティの三人が呆れていた。想像していた以上に、ギリーのスペックが高かったからだろう。
とはいえ、それは想定の範囲内。ギリーは攻撃能力が高いスナイパーへ転職した。そして、手には炎の追加ダメージが付く烈火の弓を持つ。今のギリーの攻撃力なら、この階層の魔物が一撃なのは計算通りなのだ。
しかし、彼らが驚いているのは、その攻撃力だけでは無い。ギリーの反応速度の速さについてもだ。ギリーは誰よりも早く、自分の獲物を察知するのだ。それは、気配察知を持つロレーヌよりも上なのである。それにはボクも驚いていた。
「相変わらずだけど、反応速度が上がってない?」
「うむ、若干、上がっているのを感じている……」
「それって、スナイパーのスキルでは無いよね?」
「ああ、スキルというより勘に近い感じだな……」
「勘か……」
元々、狩人として気配察知を取得しているギリーだが、それだけならロレーヌと同程度の能力のはずなのだ。しかし、この地下墳墓では、明らかにロレーヌよりギリーの方が反応が早い。
そして、それはスナイパーのスキルでは無い事はわかっている。スナイパーは攻撃に特化する代わりに、その他の生存を高めるスキルを覚えない職だからだ。
つまり、ジョブやスキルとは違う部分で、ギリーはロレーヌを上回っているという事になる。それが経験による物なのか、集中力による物なのかは不明であるが……。
「……ユニーク・スキルじゃ無いよな?」
「む、何か言ったか……?」
「いや、何でもないよ」
「そうか……?」
曖昧に誤魔化すボクに対し、ギリーは特に追及して来なかった。説明しないという事は、自分には必要ない情報だと判断したのだろう。その辺りは、ボクに対する信頼として感じている。
……とはいえ、ギリーの能力については考えても仕方が無い。ユニーク・スキルはギルドカードにも表示されなかった。つまり、持っていても知る術が無い。わからない事は考えても仕方が無い事である。
「さて、ここでの戦闘は無事に終わったね?」
ボクが思考に没頭している間に、全ての魔物を倒し終えていた。アンナ、ルージュ、ロレーヌも上の階で戦闘に慣れていた為、特に苦も無く魔物へ対処出来ている。これなら不安無く、ボス部屋へと向かう事が出来るな。
ひょいひょいと魔石を拾うハティを眺める。彼は彼で、真面目に自分の勤めを果たしていた。
「まだ、休憩は必要なさそうだね? それじゃあ、奥へと進む事にしよう」
ボクの言葉に一同が頷く。その様子を見て、ボクもまた、満足げに頷いた。
良い調子でパーティーは機能している。理想とするパーティーへの道のりは長い。けれども、確実に前進しているのを感じる事が出来る。
その事を実感しながら、ボクは更に奥へと向かう。この迷宮のボスが待つ、最下層のボス部屋へ向けて。
そして、当然の様に、ボク達は地下墳墓の地下2階を踏破した。
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