第47話 ハスティール、装備を整える

 面接の翌日、オレは装備を購入する事になった。


 今の装備が貧弱過ぎて、使い物にならないと言われた為だ……。


 なお、今日はメンバーが増えていた。剣士のルージュと盗賊のロレーヌも、新メンバーとしてクランに加わったらしい。


 今はオレの他に、リーダー、アンナちゃん(様付けはリーダーに禁止された)、ルージュ、ロレーヌの五人で買い物に出掛けている所だ。


 余談だが、ルージュは貴族の三男らしく、15歳で既にLv15である。ロレーヌは16歳の女性で、レベルは14との事である。


 つまり、18歳でLv12のオレは、最年長にして最低レベルという事だ。足手まといにならない様に、気を付けないとな……。


 それと、サブリーダーのギリーは、今朝早くに王都へ向かった。リーダーがオレ達新人を育てる間に、上級職のスナイパーへ転職して来るらしい。


 ……彼は護衛だよな? 護衛の仕事は大丈夫なのだろうか?


「さて、まずは防具を買いましょう」


 リーダーはヴォルクスで最も大きな防具屋に入る。


 この店は中級から上級者向けの防具を扱っている。扱う商品の値段から、初級冒険者が訪れる店では無い。


 案の定、店主らしきオッサンが、こちらの様子を伺っている。平均年齢から、初心者パーティーと思われてそうだな。


 ……やはり店主は冷やかしと判断し、放置を決め込んだ様だ。


「まずは、ハスティールさんからです」


 リーダーはオレの格好を確認する。


 オレの装備は、革鎧と革ブーツ、それに革手袋だ。いずれも三年近く使い込み、見るからにボロボロになっている。


「ハスティールさんは回避を捨ててるから、軽量装備に拘る必要が無いですよね? 軽めの金属装備で揃えますか?」


「うぐ……。お任せします……」


 回避を捨ててると、はっきり言われるのはキツい。前衛として、役立たずと言われている様に感じる。


 しかし、リーダーはオレの反応を気にせず、無視を決め込む店主に話し掛けた。


「彼に鋼製の軽鎧を見繕って下さい」


「あん? 胸当て、ガントレット、グリーブで良いか? 金は15万Gになるぞ?」


 店主は不機嫌そうにリーダーを見つめる。とても払えるとは考えていないのだろう。


 しかし、リーダーは少し考え、こちらに視線を向ける。


 そして、一つ頷いて店主に告げた。


「サークレットと腰回りの鎧もお願いします」


 まさかの追加注目に、店主が目を丸くする。


 しかし、リーダーは店主が反論する前に、金貨を取り出し黙らせる。


「うぐっ……。ちょっと待ってな……」


 リーダーの笑みに、店主は顔を引き釣らせる。


 そして、要望の品を運んで来て、カウンターに並べて見せた。


「大丈夫とは思うが、サイズを確認してくれ。合わないなら、すぐ違うサイズを持って来る」


「さあさあ、急いで試して下さい!」


「あ、あぁ、わかった……」


 店主とリーダーに急かされ、オレは慌てて装備一式を身に付ける。


 うん、サイズは問題無い様だ。見るとリーダーと店主が、揃って満足気に頷いていた。


「おう、中々様になってるぞ。そいつがあれば、大抵の攻撃は防げるだろうよ」


「思った以上にクロスっぽい……。いずれオリハルコンで統一して、ゴールドっぽくしたいな……」


 リーダーの呟きに、オレと店主がギョッとする。


 まさか、リーダーはオリハルコン装備を手に入れるつもりなのか?


 一体いくらあれば、それだけの装備が手に入るのか? というか、クロスって何だ?


「よし、次はルージュさんですね」


 満足したらしく、リーダーの興味がルージュに移る。店主もリーダーに付いて、一緒に相談を始めた。


 一人になったオレは、改めて自分の体を確認する。


 頭にはサークレット。胴体はブレストアーマーにフォールド。腕はガントレットで、足はグリーブ。その全てが新品の鋼鉄製だ。


 鋼鉄製の鎧は、剣士が目指す最高級の装備だ。この上にはミスリルやオリハルコン、それにアダマンタイト製なんて物もある。


 しかし、それらは騎士等の上級職が身に付ける装備である。基本職の装備では無い。


 それに、貴族出のルージュでさえ、身に纏う鎧はランクの落ちる鉄製である。それなのに今のオレは、基本職の最高装備を身に付けている。


 ……オレが感じたのは喜びでは無い。身にのし掛かる、鋼鉄の重みだ。


 果たしてオレは、この装備に相応しいのか? 本当にこれを受け取って良いのか?


 昨日までのオレは、日々の食費にも困る生活だった。貯金等が出来るはずも無く、いつまで経っても、初心者装備を使い続ける様な奴だった。


 そんな男が、この装備に相応しいと言えるのか……?


 断るべきかと思い悩む。しかし、リーダーはそれを認め無いだろう。


 まだ出会って二日だが、リーダーの考えは何となくわかる。


 リーダーの望みはオレの成長だけ。彼は常に未来に目を向けている。この位の出費は、痛くも痒くも無いはずだ。


「オレは、腹を括ったじゃないか……」


 リーダーは必要な環境を用意すると言った。そして、約束通りに最高の装備を用意してくれた。


 爆裂波動拳も約束通り、すぐ使える様にしてくれるだろう。


 オレは拳を強く握る。オレのやる事は決まっている。


 ただひたすらに強くなるだけ。リーダーを信じて、ただ着いて行くだけだ。


 そして、叶うならいずれ、この恩をリーダーへ返して行きたいとも思う……。


「ハスティールさん? 次は武器屋に向かいますよ?」


 気が付くと、リーダーがこちらの様子を伺っていた。


 いつの間にか、ここでの買い物は終わっていたらしい。


「はい、わかりました!」


 オレはリーダーに元気良く返事する。何故かリーダーは驚いた様に目を瞬く。


 しかし、すぐにいつもの笑みを浮かべ、皆を連れて店を出た。


 ……そして、リーダーは次の武器屋でも、武道家最高級の武器を買ってくれた。


 オレが恩を返し終る日は、相当先になりそうである……。

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