第46話 ハスティール、面接を受ける
オレの名前はハスティール。年齢は十八歳で、職業は武道家だ。とある事情により、レベルは12と非常に低い。
普段は初級冒険者に混じって、薬草採取等の依頼で日銭を稼いで生活している。
魔物狩りも時々は行うが、基本的には弱い魔物しか狩らない。怪我をすると日銭すら稼げなくなるからだ。
白魔術師がいるパーティーなら、強い魔物も狩れて稼ぎも良いのだろう。
しかし、オレはパーティーに誘われる事が無い。オレがパーティーで役に立てない事は、この街の冒険者なら誰でも知っているからな……。
そんなオレが、何故かある屋敷に呼ばれている。武道家のギルドマスターが、オレを新設クランに推薦したらしい。
更に何故か、書類選考に通ったとの事だ。何かの間違いとしか思えない……。
「ハスティール様、こちらが面接部屋となります」
「あ、はい……」
クラン事務局の女性職員が、とある部屋まで案内してくれる。二十歳程の年齢で、キリッとした美人である。とても仕事が出来そうな感じだ。
女性職員は扉を開けて、オレを室内へ入る様に促す。中に入るとそこは、三人の青年と少女が待ち構えていた。
「アレク様、ハスティール様をお連れしました」
「ありがとう御座います。さあ、ハスティールさん。そちらの席にお座り下さい」
「は、はい……」
青年達は柔らかそうなソファーに腰掛けている。オレは進められるままに、向かいに置かれた木の椅子に座る。
「えっと、彼等は……?」
オレは戸惑い、戸口に控えた女性職員に尋ねる。彼女は微かに口角を持ち上げる。そして、誇る様に告げた。
「アレク様は、シルバー級クラン『白の叡智』のリーダーです。賢者ゲイル様のお孫様であり、御自身も賢者であらせられます」
「え……!? 賢者様のお孫で、御自身も……!?」
驚くべき紹介に、オレは改めて彼に目を向ける。爽やかに微笑む彼が、かの有名な英雄の孫だって?
成人したてにしか見えないが、この年齢で既に賢者……?
……いや、良く見ると、あの白のローブとマントは賢者様と同じ物じゃないか?
それに賢者様も成人時点で賢者だったのは有名な話だ。ならば、彼も或いは……。
「ご紹介頂きましたが、改めて挨拶させて下さい。ボクはクランのリーダーであるアレクです。職としては、賢者の他に錬金術師も習得しています」
「錬金術師まで……!?」
オレは思わず女性職員に振り返る。彼女は満足気にゆっくり頷いた。
どうやら、彼女にとっては確認済みの事らしい……。
「続いて彼はギリーです。ボクの乳兄弟であり、Lv50の狩人でもあります」
「宜しく頼む……」
「こ、こちらこそ……」
ギリーと呼ばれた少年は、鋭い視線をオレに向ける。その眼力は成人したてと思えない。歴然の戦士が醸し出す何かを感じる。
それにしても、乳兄弟と言う事は、彼を育てたのは乳母という事だよな? 乳母がいるという事は、アレク様は高貴な産まれなのか?
まさか、賢者様の孫に母がいないとは思えないし……。
つまり、ギリーはアレク様の護衛であり、側近という事になるのか……?
「そして、こちらはアンナ。ボクの妹であり、Lv15の黒魔術師でもあります」
「その子がLv15だって……!?」
「は、初めまして……」
アンナ様は小さく挨拶すると、ふいっと視線を逸らす。彼女は人見知りなのだろうか? それとも、平民とは会話したくないタイプだろうか?
平民を見下すタイプで無いと良いな……。
……いやいや、気にする所はそこじゃない。この小さな子が、黒魔術師Lv15だって?
いくら何でも若すぎる。賢者様の血族は、皆こんなに規格外なのか?
「さて、こちらの紹介も終わりましたし、面接を始めさせて頂きますね?」
「は、はい。宜しくお願いします!」
アレク様は優しく微笑むが、纏う空気は明らかに変わる。こちらを値踏みする様に、鋭い視線がオレに向く。
「ハスティールさんは、面白いスキル構成をしていますね?」
「っ……!?」
いきなり斬り込んで来たな。まあ、質問される事は、わかっていたけど……。
「体術Lv5、鉄拳Lv5、練気Lv2です。全て攻撃に寄せてますよね?」
「え、ええ……」
そう、これがオレの抱える問題。オレはある夢の為に、一般的では無いスキルの取り方をしている。
一般的な武道家は、真っ先に回避能力を高める。それにより、戦闘継続能力を高め、パーティーでも前衛として、活躍出来る様になるのだ。
しかし、オレはその道を選ばなかった。それが、どれ程の茨の道かも知らずに……。
「この後はやはり、練気をLv5まで上げるんですよね? それで、次は金剛の構えをLv5ですね?」
「……は?」
アレク様は何を当然の様に話してるんだ?
金剛の構えは、一時的にダメージを半減させるスキルと聞いた事がある。
しかし、取得した者がいるとは聞いた事が無い。使い所の難しい、マイナースキルだからだ。
「それで、最後に爆裂波動拳ですね。ロマン型ですか。良いですね。うん、カッコいいと思います」
「爆裂波動拳……?」
そんなスキルは聞いた事が無い。本当に存在するスキルなのか?
アレク様は、当然の様に話しているが……?
「えっと、爆裂波動拳とは、どんなスキルですか? 不勉強で申し訳ないのですが……」
「え……?」
オレの質問に、アレク様は目を瞬く。意外そうなその反応に、オレは羞恥で顔が熱くなる。
そんな事も知らないのかと、言われた気がしたからだ……。
「えっと、武道家が使う、一撃必殺技ですけど……。条件が揃えば、ロックゴーレムも一撃という……」
「っ……!?」
オレの体が硬直する。自然と拳を強く握りしめる。
高鳴る鼓動を抑え、オレはアレク様にゆっくりと質問する。
「……そのスキルは、本当に存在するのですか? それに、ロックゴーレムを一撃で倒せるというのも……」
「ええ、勿論です。装備やレベルによっては、アイアンゴーレムでも、一撃で倒せる様になりますよ?」
オレはブルリと身を震わす。そのスキルこそ、オレがずっと求めていたものだ……。
何としても身に付けたい。いや、身に付けなければ、これまでの冒険者生活に対する冒涜となる。
……そもそも、オレは農家の次男として産まれた。そんなオレが、武道家になったのは、忘れられない思い出があるからだ。
それはオレが十歳の出来事だ。ある日、村へロックゴーレムが襲って来たのだ。
村に戦える大人はいなかった。オレ達はただ、村を捨てて逃げるしかない状況だった。
しかし、そんな時に一人の冒険者が現れた。彼は任せろと笑うと、ロックゴーレムへと駆けて行く。
制止しようとする大人達を他所に、彼はロックゴーレムを一撃で粉砕した。それも、武器を使わずに拳だけで。
カッコ良かった。子供心に憧れた。オレもあんな風になりたいと思った。そして、オレは成人して村を出た。
……しかし、現実は甘くなかった。所詮は子供の夢だった。オレは一年間、底辺をさ迷った。そして、現実の残酷さを知った。
英雄と呼ばれる存在は、冒険者の中でもほんの一握りだ。
彼等は何かを持つ者達である。それは才能だったり、身分だったり、運だったりする。オレの様に、何の取り柄も無い存在とは違うのだ。
……だが、諦め掛け、捨てられなかった夢が、再び目の前に現れた。可能性でしか無いが、それでも手が届くかもしれないのだ。
「……オレはどうすれば良い、ですか?」
「そうですね……。練気、金剛の構え、爆裂波動拳ですから……まずは今から、8レベル以上を上げる必要がありますね」
「なるほど……」
8レベルの道のりは長い……。
だが、これまで三年間を苦しんだのだ。もう数年を掛ける事に迷いは無い。それ位は耐えてみせる……。
「まあ、8レベル位はすぐでしょう。アンナの火力があれば、十日少々で何とかなりますよ」
「はぁ……!?」
覚悟を決めた側から、とんでもない言葉が耳に飛び込む。
アレク様は十日程で、オレのレベルが8も上がると考えているのか……?
例えオレがLv1だったとしても、レベルを8も上げるには最低でも一月以上は掛かるものだ。
そして、今のオレはLv12まで上がっている。金銭を無視した狩りをしても、一月に1レベルが上がれば良い方である。
アレク様は冒険者の常識を知らないのか……?
……いや、アレク様は成人したてで、既に二つの上級職を習得されている。
隣のギリー様やアンナ様も、常識外の成長をされている。もしかすると、賢者様だけが知る、特別な訓練法があるのかもしれない。
オレはゴクリと喉を鳴らす。そして、恐る恐るアレク様に質問をする。
「……オレがクランに入れば、その爆裂波動拳を覚えられるんですよね?」
「ええ、それは約束しましょう。それでは、クラン加入の条件を説明しても良いですか?」
「え、えぇ……」
加入の条件と聞き、オレの中の熱が引いて行く。夢から現実に引き戻された気分だ。
そもそも、オレは何故、無条件で夢が叶うと考えた?
現実が残酷な事は、嫌という程に味わったじゃないか。オレは成長しない自分を惨めに感じた。
そして、オレは姿勢を正し、アレク様の話しに耳を傾ける。
「労働条件は五日狩りをして、その後に休息日が一日。狩りの収入は全てクランで管理しますが、代わりに毎月の生活費として二万Gを支給します。それと、装備やアイテムは、クランの資金で購入して支給します。ああ、それとこの屋敷に部屋を用意するので、引っ越すなら朝晩の食事も付いて来ますよ」
「………………はぁっ!?」
オレの耳がおかしくなったのか? アレク様はとんでもない好条件を提示した気がする。
そもそも、オレがクランに入る為の条件じゃ無いのか? 課題を出されるのかと思っていたのだが……。
「えっと、条件が破格過ぎます……。それに、オレに課題等は無いのでしょうか……?」
何故かアレク様は目を丸くする。
そして、唐突に大声で笑い出す。オレは何か、変な事を言ったのだろうか……?
「あっはっは! 思ってた以上の条件なら喜べば良いのに、反応が破格過ぎるか……。いや、良いね! ボクはハスティールさんの事を気に入りました!」
「は、はぁ……」
どうやら、失礼な事を言った訳では無さそうだ。
気に入ったという発言が事実なのか、アレク様はニヤニヤと笑いながら告げる。
「そうそう、課題は一つあります。このクランに入るなら、上級職となり、その職を極める事をお願いします。こちらで必要な環境は整えます。ですので、後は私を信じられるかだけですが……?」
アレク様は楽しそうに笑う。しかし、その目を見れば、オレの返事を試しているとわかる。
リーダーであるアレク様を、信じられるかどうか……。
「信じます。オレを強くして下さい!」
「わかりました。これから宜しくお願いします」
「アレク様、こちらこそ宜しくお願いします!」
選択肢など無いに等しい。これは、オレの人生に舞い込んだ、奇跡的な幸運なのだ。
それに、このヴォルクスで賢者ゲイル様は絶対的な存在である。その孫であるアレク様の誘いを断るなら、そいつはこの街の住人では無い。
オレが自分の幸運を噛み締めていると、何故かアレク様が不満そうな表情になっていく。
どうしたのかと慌てると、アレク様は不機嫌な声で告げて来た。
「アレク様は止めて下さい。これからボク達は、同じクランの仲間なのですから」
「あ、えっと……それでは、リーダーで良いですか?」
「……まあ、それなら良いでしょう」
アレク様……いや、リーダーは納得した様に頷く。
オレがホッとすると、次の瞬間にリーダーはニヤリと笑う。
「ああ、言い忘れてました。先程の条件面は、上級職になるまでの暫定的なものです。上級職になれば、それに相応しい内容になります。より良い人生の為に、ハスティールさんの努力を期待します」
これより待遇が上がるのか……?
オレのリーダーは、それだけ向上心が強いという事なのだろう……。
「わかりました。期待に応えられる様に、精一杯の努力を約束します」
オレは改めて腹を括る。どれ程の試練だって越えてみせる。
そして、8年前に見たあの日の夢を、必ず実現してみせるのだ……。
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