第43話 アレク、クランを結成する
クラン事務局は、領主が管理する公営の施設である。
領主からすると、高レベルの冒険者パーティーを登録し、その存在を管理しやすくする事を目的としているらしい。
勿論、クランに登録する事は、利用者からしても大きなメリットが存在する。
簡単な依頼なら各ギルドで扱われるが、それらの報酬は当然ながら低い。それに対して、クランで発行される依頼は、難易度が高い代わりに報酬も高額となる。
また、クランとして登録すると、クラン事務局にお金を預けておく事が出来る。高額の金額を持ち歩くのは危険なので、領主の管理する施設が預かる意味は大きい。
また、低位のクランには倉庫が貸し与えらえるので、アイテムも預ける事が可能だ。
そして、重要なのが中級以上が利用可能なクランハウスである。
クランハウスを得ると、転移のスクロールで戻る拠点が手に入る。クランのランクが上がれば、転移サービス等の様々なサポートが得られる。
更には、宿屋に泊まる必要が無くなる為、毎日発生する宿泊費が不要になるのだ。
……それと、攻城戦は最上位クラン所属という参加条件がある。
こちらは今の所は不要であるが、ゲーム時代では最も重要なポイントであった。
「こんにちは。ご用件は何でしょうか?」
クラン事務局の受付へ訪れると、受付のお姉さんが対応してくれる。
こちらのお姉さんは二十歳過ぎで、若くて美人な感じである。紫の髪をショートカットにした、クールビューティーなタイプである。
「クラン結成をお願いしたいのですが」
ボクがギルドカードを差し出すと、お姉さんは軽く目を見開いた。
「え……? 賢者と錬金術師……。失礼ですが、ご本人で合ってますか……?」
「ああ、そう言われると思いまして、魔術師ギルドのギルドマスターからの紹介状も用意しています」
ボクは苦笑して手紙をお姉さんに差し出す。ギルドマスターの気遣いだが、正直助かったと思う。
深く考えてなかったが、普通に考えれば偽のギルドカードを用意したと疑われてもおかしくなかったのだから。
「失礼します……。まあ、確かにギルドマスターからの紹介状ですね……。え、賢者ゲイル様のお孫なのですか……!?」
「え……? 祖父をご存じなのですか……?」
「当然では無いですか……!!」
バンッと机を叩き、お姉さんが立ち会がる。そして、拳を握って語り始める。
「賢者ゲイル様と言えば、伝説のクラン『ホワイト・オウル』のリーダーですよ! ヴォルクスを拠点に活動したクランで唯一のオリハルコン級であり、数多の最高難易度の依頼を達成し、国の防衛にも貢献し続けて来ました! 賢者ゲイル様に憧れてクランを結成した者は数えきれず、ヴォルクスの住民で賢者ゲイル様を尊敬しない者は存在しておりません!」
「え、ええ……。そうなんですか……?」
お姉さんの熱弁に思わず引いてしまう。隣のアンナはポカンと口を開き、ギリーは僅かに目を見開いていた。
「そ、そんな英雄の孫がクランを結成だなんて……。ここから新しい伝説が始まるのですね……」
「いえ、そんな予定はありませんので」
ボクはキッパリと否定しておく。
ゲームと違って命掛けの冒険などをするつもりは無い。ボク達に必要なのは生き残る為の力だけだ。下手な期待等は無い方が良い。
しかし、お姉さんは「またまた~。わかってますよ?」というニヤニヤした笑みを浮かべていた。正直、イラっとする笑顔である。
「……ゴホン。とりあえず、身元については確認出来ました。クラン結成については問題無いでしょう。ちなみに、クランについての詳しい説明は必要でしょうか?」
お姉さんは「不要ですよね?」といった目でボクを見ている。
確かにボクは大体の事を理解している。しかし、ギリーとアンナには詳しい説明が必要だろう。
……それに、ゲームの知識と齟齬があっても困るので、ボクとしても一応聞いておきたい。
「はい、説明をお願いします」
「……わかりました。それでは、説明させて頂きます」
お姉さんは一瞬面倒そうな顔をする。しかし、すぐに笑顔になって頷いた。
……何となく不安になって来たのだが、このお姉さんに対応して貰って大丈夫なのだろうか?
「クランは腕に自信のあるパーティーが、領主公認の団体として認定されたものです。その為、結成には条件がいくつか存在します。また、クランにはブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコンの五段階の階級が存在しており、上位になれば高難易度の依頼を受けられ、相応の報酬とサービスを受ける事が出来ます」
この辺りの説明はボクの知っている内容と同じ様だ。ギリーとアンナも今の所は話に着いて来ている。
「クランを結成するには、まずはブロンズ級から始まります。こちらの結成条件は、Lv15以上のメンバーが3名以上である事、そして登録手数料として一万Gが支払える事となります。こちらの条件は問題無いでしょうか?」
「はい、問題ありません」
……危なかった。ゲームではLv15という制限は無かったはず。アンナのレベルを上げておいたので、ギリギリ達成する事が出来た。
「では、次はシルバー級を目指す事になります。ランクアップの為の条件は、以下の中からいずれか二つを達成する事です。一つ目はリーダーが上級職であること。二つ目は依頼達成による貢献度が百万ポイントに達していること。三つめは百万Gを事務局に収めることとなります」
「一つ目と三つ目が達成可能ですね。シルバー級にはすぐに上がれますか?」
「え……? 達成可能……?」
お姉さんはボクの言葉にポカンと口を開ける。一つ目の達成は先ほど確認しているので、驚いているのは三つ目の百万Gだろうか?
条件として存在するのに、選択する人が少ないのかな?
「えっと、百万Gですよ……? 本当にお支払い可能なんですか……?」
「ええ、では用意しましょう」
ボクはマジックバックに手を突っ込む。
そして、金貨が10枚を取り出して、カウンターに並べる。金貨一枚が10万Gになるので、これで間違っていないはずだ。
「ああ、ブロンズの1万Gも必要でしたね」
続いてボクは大銀貨を10枚取り出す。大銀貨一枚で千Gなので、これで合計101万Gである。
「は、はい……。確かに101万Gを受け取りました……」
お姉さんは恐る恐る、金貨と銀貨を木製のトレーへと移して行く。
そして、そっとカウンターの脇へと移動させると、キラキラした目でボクを見つめる。
「はあ……。流石は賢者ゲイル様のお孫ですね……。こうして、伝説が積み重なっていくのですか……」
「え……? これが伝説って……」
解せない……。お金を払ったら、何故か伝説扱いされた……。
しかし、ギリーとアンナを見ても、何故かボクを呆れた目で見つめている。ボクは何を間違ったのだろうか?
お姉さんはボクの様子に呆れた表情をする。そして、ボクに対して説明を始める。
「……クランを結成する人達は、一攫千金を夢見て挑戦される訳です。しかし、アレク様はお金目的では無さそうですね? シルバー級のクランでは、百万Gを稼ぐのに百回以上の依頼達成が必要です。元を取るのが非常に大変なのです」
「へ、へえ……」
「……それに、普通はブロンズ級で二、三年掛けて百万Gを稼ぐと、その間に貢献度百万ポイントが稼げます。ですので、実際にお金を支払われる方は珍しいですね」
「そうなんですか……」
……正直、よくわからない。
シルバー級等は通過点にしか過ぎない訳だ。さっさとシルバーになり、次のゴールドを目指すべきだろう。
ゴールドになれば百万Gを稼ぐのが簡単になる。もっと言えば、オリハルコンまで上がれば、百万G等は大した金額では無くなってくる。
二、三年も掛けてシルバーになる意味がわからない……。
しかし、ギリーとアンナは、ボクの様子に呆れている。更にお姉さんは呆れを通り越したのか、納得した様に良い笑顔となっていた。
「流石は次代の英雄ですね。我々凡人とは考え方が違うのでしょう。私としてはアレク様の活躍を、一日も早くお聞かせ頂きたいと考えております」
「いえ、そういう予定はありませんので」
お姉さんは相変わらず「わかってますから」という、イラっと来る顔をしている。殴りたい衝動はある。
しかし、ギリーとアンナの様子を見ると、呆れた目でボクを見つめていた。
正直、ボクが間違っているのか、自信が無くなって来る……。
「……ゴホン。それでは、手続きを進めさせて頂きます。メンバーは後ろのお二人で宜しいのですよね? それで、クラン名は何にされますか?」
「クラン名……」
そうだ。クラン名を考えるのをすっかり忘れていた。ゲーム時代のクラン名は中二病っぽいのをノリで付けてしまった。
今回はこの世界で、浮く事の無い名前を考えなければならない……。
「ち、ちなみに、他のクランはどの様な名前が多いのですか……?」
他の名前に合わせれば、極端におかしな名前にはならないだろう。
とりあえず、今回のネーミングは安全第一で付ける事にしよう。
「そうですね。ヴォルクスのクランですと、ミスリル級が『黄金の剣』、ゴールド級が『銀の翼竜』、『赤の戦斧』、『緑の旋風』となります。その他のシルバー級以下についても、色とクランの特徴を組み合わせる事が多いですね」
「成程、色と特徴ですね……」
……上級クランがミスリル1組とゴールド3組しか無い?
余りにも戦力が低すぎる気がするが、その辺りの確認は追々行う事にしよう。
まずは、色となるがこれは『白』で良いだろう。爺ちゃんから譲り受けたローブとマントの色であるし、爺ちゃんのクランでも使ってた色だからね。
きっと、爺ちゃんのクランと比較されるだろうけど、それはそれで構わない。ボクは爺ちゃんの後継者でもあるのだから。
そして、特徴は何だろうか?
ボクの特徴は賢者や錬金術士であること。だが、クランの特徴かと言われれば疑問である。
アンナとギリーを合わせると、後衛職ばかりであるが、これは今後解消していく事になる。クランの特徴とは言えないだろう。
剣や斧の様な特徴的な装備も特には無い。翼竜は恐らく家紋か何かで、旋風は風を使った戦い方が得意なのかな?
こういった特徴も思いつかない。
……いや、戦い方なら一つあるな。
ボク達のクランが他と違う、圧倒的なアドバンテージが存在している。
「……決めました。クラン名は『白の叡智』です」
「叡智……? それは、知識等の事ですよね……?」
お姉さんは何かを考える素振りを見せる。
ギリーに目をやると、問題無い様で頷いていた。アンナも良くわかっていないが、大きく何度も頷いている。
そして、お姉さんは何故か、目をキラキラさせながらボクを見つめていた。
「素晴らしいです! 賢者ゲイル様のお孫であり、アレク様自身も賢者ですものね! 確かに知識を武器と名乗るのに、これ程素晴らしいクランは存在いたしません! 『白の叡智』の伝説が、今ここから始まるのです! その始まりの物語に立ち会えるなんて! 私はなんて幸運なのでしょう!」
「うわぁ……。テンション高いですね……」
お姉さんのテンションの高さにドン引きである。ギリーとアンナもやはり引いている。
ボク達三人は、お姉さんが落ち着くまで、しばらく待つことになった。
ちなみに、領主からクラン結成の承認が必要な為、クランハウスは明日以降になってしまった。
代わりに、お姉さんの紹介で、高級宿を割引価格で紹介して貰えた。
どうも、お姉さんの親族が経営している様で、女将さんのテンションも非常に高かった……。
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