第42話 ギリー、ハンターギルドに加入する
あの後、魔術師ギルドのギルドマスターとは、改めて話し合う事になった。ギリーのハンターギルド加入と、クラン結成の為に時間が無かった為である。
それに、ケトル村の事でじっくりと話し合いたい事もあったので、二人で個別の方がボクとしても助かる。
そして、今のボク達はハンターギルドへと移動していた。
到着したのは木造の小さな建物である。狩人やその上位職はそれ程の数がいない。その為、街でもそれ程大きな存在では無い為である。
「ふむ、ここか……」
ギリーは先陣を切って、ハンターギルドに踏み込んで行く。
一度、魔術師ギルドを経験している為か、アンナの時の様に、緊張している様子は無い。
続いてボク達もギルド内へ踏み込む。
中はガランとしていて非常に静かだ。奥にテーブルが置かれているだけで、他には何も無いし、人の気配すら無い。
「ここはハンターギルド。何の用だ……?」
「うわ……!?」
突然、横から掛けられた声に、ボクは驚きの声を上げる。アンナも驚いた様に口元を押させていた。
しかし、ギリーだけは落ち着いて相手に視線を向けている。
「ギルドへの加入を希望する。どうすれば良い……?」
「ほう、加入希望か……」
ギリーの視線の先を見ると、そこには一人の男が立っていた。
茶色い革鎧を身に着けた、四十歳前後の狩人である。灰色の目と髪を持ち、頬には大きな傷跡が残っている。
男は入口脇の壁にもたれ掛っていたが、静かこちらへと歩いて来る。その目はギリーに向けられており、目踏みする様にジロジロと眺めている。
「ふむ、十分な経験を積んでいる様だな……。ギルドに加入もせず、よくそこまで育ったものだ……」
「ああ、父に鍛えて貰ったからな……」
ギリーの言葉に、男は眉を動かす。興味を引かれた様で、静かにギリーの瞳を覗き込む。
「父の名前は何と言う……?」
「父の名前はウィリアム……。ケトル村の狩人だ……」
「なるほど、ウィリアムか……」
どうやらウィリアムさんを知っているらしい。男は満足した様に大きく頷く。そして、テーブルに向けて歩き出した。
「カードを持ってくる……。少し、待っていろ……」
「ああ、わかった……」
男は奥にある扉へと向かう。この部屋には棚等が見えない為、貴重品等は全て別の部屋に置いてあるのだろう。
ボク達はテーブルまで歩くと、置かれた木の椅子に腰かける。すると、アンナが小さくボクのローブを掴んだ。
「ん、どうかした……?」
「えっと、ギリーとさっきの人は、どうして小声で話し合ってるの……?」
アンナは声を潜めてボクに尋ねる。どうやら、二人のやり取りを見て、普通の声で話してはいけないと思ってしまった様だ。
ボクは回答に困る。中二病と言ってもアンナには通じないだろう……。
彼らにとってはこれがカッコイイのだろうが、アンナにそれを理解させれる自信は無い。
むしろ、ボク自身がカッコイイと思えていないのだから……。
「待たせたな……」
気が付くと、男が戻っていた。手には白い手袋をはめ、シルバーのカードが握られていた。
「それと、挨拶がまだだったな……。オレは地伏のヴァイト……。ここのギルドマスターをしている……」
「え、地伏……?」
ボクとアンナは意味が分からず、揃って首を傾げる。すると、ギルドマスターはニヤリと笑った。
「オレはレンジャーという職を得ている……。そして、森の中で地に伏せ、獲物を待つスタイルを得意としている……。その為、誰が呼び始めたのか、気付くとそう呼ばれる様になっていた……」
「通り名か……!?」
まさか通り名を、ドヤ顔で説明されるとは思わなかった。
見るとギリーは感心した様に頷いている。アンナは良く分からず、首を傾げていた。
「ふっ……。坊主も通り名で呼ばれる位に腕を磨く事だな……。さあ、まずは登録を済ませてしまおう……」
ギルドマスターは未登録のカードを、ギリーに差し出した。
ギリーはそれを受け取り、裏の魔方陣にそっと触れる。
「ほう……。使い方は知っているのか……?」
「ああ、先ほど見て来たばかりだ……」
ギリーがチラリとボクに視線を送る。それを見たギルドマスターは、納得した様に大きく頷いた。
「なるほど、友と共に職を得るか……。もし、共に戦う事を考えているなら、友は大切にしろ……。自分の命を預けれる友は、何にも変えられない宝となる……」
ギルドマスターは静かに、それでいて熱い口調で語る。ギリーはその言葉に頷いて答える。
そして、手にしたカードをギルドマスターへ差し出す。
「知っている……。アレクは命を預けられる友だ……」
ギルドマスターはその言葉に、僅かに口角を挙げる。そして、受け取ったカードに視線を落とし、絶句した。
「……こいつは驚いた。既に狩人を極めていたか……」
ギルドマスターはじっとカードを見つめる。
そして、カードをギリーに返すと、手元の資料に情報を書き込んで行く。
「それで、坊主……いや、ギリーはどうするつもりだ……? まさか、ウィリアムの様に、狩人で満足しないよな……?」
ギルドマスターは知っている様だ。ウィリアムさんが結婚の為に、若くして冒険者を辞めた事を。
まあ、ギルドマスターをしてる位なので、当然と言えば当然かもしれないが。
「あいつはオレの憧れだった……。オレの目標であり、いつか越えたい壁だった……。しかし、愛の為に冒険を諦めてしまった……」
……何故か急に熱く語り始めたんだけど。とりあえず、聞くしか無い雰囲気だよね?
「あいつが冒険を止めなければ、きっと英雄にだって成れたはずだ……。そして、ギルドマスターもオレでは無く、あいつの方が……」
ギルドマスターはグッと手を握る。その顔には、悔しさと寂しさが混じる、複雑な感情が滲んでいた。
しかし、ギルドマスターの言葉を遮る様に、ギリーが口を開く。
「父は戦いの中で散って行った……。だが、母を愛し、オレに愛を注ぎ、幸せな人生を送っていた……」
「戦いの中で、散った……?」
ギルドマスターは信じられない様に、大きく目を見開いた。
しばらく、そうやって放心していたが、やがてゆっくりと首を振る。
「そうか、幸せだったのか……。知らせてくれた事を感謝する……」
「ああ……」
ギリーは小さく頷く。無表情だが、その目には喜びが感じられた。
きっと、父親の死を悲しんでくれる存在が、嬉しかったのだろう。
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