第33話 アレク、方針を語る

 一日目の道中は何ら問題無く進めた。アンナも黒魔術師がLv3まで上がり、ファイア・アローの矢は三本になっている。


 そして、今は焚き火を囲みながら、夕食を食べている。


 メニューは白パンとホワイトシチュー。食材はマジックバッグに豊富にあるのだが、流石に野営で手の込んだ料理は面倒だ。


「……街に着いた後、どうするつもりだ?」


「ん……?」


 ギリーの唐突な質問に反応が遅れる。実はこれまでまともな会話が無く、三人とも黙々と食べていたからだ。


 アンナは遠慮して、あまり会話を返してくれないし、ギリーは寡黙キャラを貫いている。


 少々沈黙が辛いと思っていたら、ギリーから話し掛けられてしまった。


「ヴォルクスへ向かうのは聞いている……。だが、その後は長期滞在するのか? それとも、別の大陸に渡るのか?」


「あぁ、ごめん。まだ話して無かったね」


 ボクが謝ると、ギリーは目で話を促す。アンナも気になる様で、少し前のめり気味に耳を傾けていた。


「ヴォルクスに着いたら、拠点を構えるつもりだよ」


「拠点……?」


 ギリーは不思議そうに呟く。アンナも首を傾げている。まずはそこから説明が必要か。


「これからボクは、クランを結成するつもりなんだ。クランを作れば、クランハウスという住居が手に入るし、クラン専用の特別な依頼を受けれる様になるからね」


「クランだと……?」


 ギリーは微かに眉を寄せる。どうやら、クランの存在は知っている様だ。アンナは知らない様で、目をキョロキョロさせていた。


「そう、クランだ。高レベルパーティーや大人数でないと達成不可能な、高難易度の依頼が集まる場所だ。そこでなら、ボク達が強くなるのに丁度良いでしょ?」


「しかし、ノルマが発生する。魔物を狩るのが義務となる。それに何より、クランは三人以上のメンバーが必要となる……」


 ギリーはアンナに視線を向ける。難易度の高い依頼にアンナを関わらせる事に、躊躇いがあるのだろう。


 しかし、それに気付いたアンナは、キッとギリーを睨む。強さを求める彼女にとって、その気遣いはむしろ迷惑だ。


「私も戦う! 師匠達と一緒に!」


 ギリーは躊躇いながらも、アンナに頷き返す。今のアンナに説得は無理と考えたのだろう。


 ギリーは再びこちらを見る。そして、質問を続けて来た。


「しかし、ヴォルクスで良いのか……? 王都の方が、環境は整っているが……?」


「確かに、環境だけ見れば王都だろうね……」


 王都では、王国からの依頼も発行される。難易度は高いが、見返りの大きな物が多い。


 当然ながら高レベルパーティーが集まり、それを目当てにした依頼も集まる。


 更に、王都には様々な武具やアイテムも集まる。娯楽施設や公共施設も多く、王都での生活に憧れる若者は多い。


 多くの夢見る冒険者は、英雄になるべく王都を目指す事だろう。


「でも、実はヴォルクスは穴場なんだ。港があるので様々なダンジョンへ行きやすい。それに、商業都市だけあって、多くの素材が安く手に入る。ボクの錬金術で稼ぎやすいし、娯楽さえ我慢すれば、ヴォルクスの方がボク達には合ってると思うよ」


「なるほど……」


 その説明にギリーは納得する。しかし、アンナは何かを我慢する様にソワソワしている。


 恐らくは王都に憧れている口だが、それを口にする事を躊躇しているのだろう。


 ……ちなみに、二人には説明はしてないが、他にも理由がある。それはクランクエストと、期間限定イベントの存在だ。


 クランクエストは、拠点を構えたエリアでのみ受けられる依頼である。


 ヴォルクスは幅広い難易度のクエストが存在するが、王都では高難易度のクエストが多い。今のボク達では、受けれるクエストが限られてしまう。


 期間限定クエストは、正月やクリスマス等に発生するイベントである。


 様々な国や地域で発生するが、ヴォルクスなら移動が楽で、参加するイベントを選びやすい。港があるのは、こういう面でもメリットとなる。


 更には上級職への転職も理由の一つだ。騎士や一部のクラスは王都に行く必要があるが、半数は特定のダンジョン攻略やクエスト等が必要となる。


 ……まあ、何だかんだ言ったが、結論としては移動面が圧倒的に有利なのだ。


 ゲームの中でも、それを理由にヴォルクスを拠点にしたクランは多かった。ボクもゲームでは、ヴォルクスを選んでいた。


 そして、これも重要なポイントなのだが、王家と距離を置きたいというのもある。


 王都で活動すると、あの王女が接触して来る気がするのだ。村を襲った一団の正体が判るまで、出来れば王女との接触は避けたい……。


「それで、クランを作るにはどうすれば良いんだ?」


「うん、まずは三人ともギルドに所属しておこうか」


「ギルドに……?」


 ギリーが不思議そうに尋ねる。アンナは、自分が数に入っている事に驚いていた。


「うん。ケトル村が無くなったでしょ? 今のボク達は身元不明になっているんだよね……」


「そうなのか……?」


 一応、この世界にも戸籍の様な物は有る。ケトル村はビリー村長が名簿を管理し、領主であるユリウス公爵に報告と納税を行っていた。


 しかし、ボク達の所属していたケトル村は無くなってしまった。


 今のボク達は、どこにも所属しておらず、来年以降はペンドラゴン王国の国民として扱われなくなってしまう可能性が有る。


「なので、ボクとアンナは魔術師ギルド。ギリーはハンターギルドに登録しておこう。ギルドによってノルマがあるけど、基本的にはメリットの方が大きいはずだよ」


「わかった。異論は無い……」


「えっと、私もですか……?」


 ここで初めてアンナが発言する。おどおどと、遠慮がちにボクを見つめていた。


「うん、身元証明の為にね。それに、ギルドカードを作っておくと、今後は色々と便利だよ?」


「ギルドカード?」


 アンナは不思議そうに首を傾げる。どうやら、ギルドカードの話しは、ミーアから聞いて無かったらしい。


「自分の名前と所属国、職業レベルが記録させたカードだね。これがあると、自分の所属国では、町への入場が簡単になる。更には他国にも簡単な手続きで入れる様になるね」


「へぇ、便利なんですね……」


 ギルドカードの存在は知っていたが、これまでボクも作って無かった。これまでは、他の町に行く機会が無かったからだ。


 しかし、これからはその機会が増える。様々なクエストを受けるには、必須とも言うべき物である。


 なので、ギルドカード取得は真っ先に行っておきたい。


「それで、ギルドカードを作ったら、クラン事務局に行く事になるね。クランを作ってすぐに、クランハウスを使えると良いんだけど……」


 ゲームならクラン結成直後に、クランハウスを使える様になっていた。


 しかし、この世界では事務手続きや、手配等で時間が必要となるはず。クランハウスが使えるまでは、宿を取る必要があるかもしれない。


「細かい手続きは、事務局にいかないと不明だね。後は……」


 そこでボクは説明を中断する。見るとアンナが眠そうに、ウトウトと船を漕いでいたからだ。


 ……無理も無いか。今日は初めての事ばかりなのに、ここまで頑張ったのだから。


「今日はここまでにしようか。ボクは片付けをしておくから、ギリーは寝床の準備を宜しく」


「わかった……」


 ボクは殆ど寝ているアンナから、空の食器をそっと取り上げる。


 明日も移動とレベリングは続く。せめて今晩位は、ゆっくり休ませてあげないとね。

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