第28話 ケトル村の戦い(前編)

 ケトル村は炎に包まれていた。多くの家は燃え上がっている。


 そして、多数の兵士が村を蹂躙していた。半数は鉄の鎧に身を包んだ剣士。残りは魔術師や弓使い等である。彼らは良く訓練されている様で、隊長の指示に従って行動している。


「何が……どうなっているんだ……!?」


「生き残りか……!」


 一番近くにいた剣士が、ボクに向かって剣を向ける。ボクは有無を言わさず、剣士にライトニング・ボルトを放つ。生死は不明だが、取り合えず動かなくなった。


 今は目の前の兵士に構っている場合では無い。一刻も早く、ミーア達の無事を確かめねばならない。


「アレク……!」


「ギリー……!」


 村の中からギリーが駆け寄って来る。彼の来た道には数人の兵士が倒れていた。そして、彼自身も複数の傷を負っている。ボクは足を止めて、ギリーにヒールを掛ける。


「村はどうなっているんだ!?」


「わからん! オレも戻ったばかりだ!」


 ギリーは手にした弓で、こちらに向かう敵に矢を放つ。ローブを着た魔術師風の男が、目に矢を受けて即死した。


「父はビリー村長の元へ向かった。オレ達は村の皆を救おう!」


「わかった! まずはミーアと合流しよう!」


 その言葉にギリーは頷く。ミーアは白魔術師なので、攻撃手段が乏しい。身を守るだけなら大丈夫と思うが、多数の兵士は相手に出来ない。ボクもギリーも、ミーアの身が心配だった。


 ボクはギリーにもヘイストを掛けると、二人で協力して村の中を突き進む。ギリーは主に魔術師や弓使い等の、防御の薄い相手を狙う。逆にボクは防御の堅い、剣士等を中心に倒して行く。


 しかし、あまりにも兵士の数が多い。倒しても倒しても、次から次に現れる。お陰で思った様に進む事が出来ず、気持ちだけが焦ってしまう。


「トムさん……」


 ギリーの声にハッとなる。ギリーの視線の先には、絶命した村人の姿があった。ボクはギリっと歯を噛みしめ、爆発しそうな感情を抑え込む。今は冷静にならなければならない。感情に身を任せては、思わぬミスで命を落とすかもしれないのだから。


「ミーア、無事でいてくれ……!」


 祈るような気持ちでじわじわと前へ進む。途中でコルワ婆ちゃんの姿を見た。村長の息子であるコルドもいた。だが、見かけた村人は、全て既に手遅れな状況だった。理不尽な侵略者により、その命が悉く奪われていた。


 彼等は一体何者なのだろう? これだけの数を揃える以上、小さな組織では有り得ない。


 それに、彼らはどこからやって来たのだろうか? 国境を越えて来た、カーズ帝国の兵士だろうか? それとも、反女王派であるペンドラゴン王国の兵士だろうか?


 全ての兵士は身元が特定出来ない、ありふれた装備で身を固めている。彼らは恐らく、非公式な部隊なのだろう。ボクの頭の冷静な部分は、辛うじて状況を整理しようと動いていた。


「貴様等は何者だ……!?」


「お前らこそ何なんだ……!?」


 こちらに問いかけて来たのは隊長格なのだろう。フルプレートに身を包んだ騎士で、背後には魔術師とヒーラーを連れていた。


 彼はボク達の背後に目を向け、息を飲む気配がした。ボク達の背後には、数多の兵士が死体として転がっている。


「いずれにしても、見られた以上は生かしておけん。ここで死んで貰う!」


「問答無用か……!?」


 騎士は右手に剣を、左手に盾を構える。そのバックアップとして、後ろの魔術師とヒーラーも杖を構えていた。後ろの後衛はともかく、上級職の騎士だけは厄介そうだ。


「騎士はボクが抑える……。後ろは頼んだ……」


「任せておけ……」


 ギリーとの作戦会議は瞬時に終わる。ボクが騎士に向けて駆け出すと、ギリーはそれを迂回する様に左へ回り込む。


「むぅ……!?」


 まさか魔術師装備のボクが、突っ込んで来るとは思わなかっただろう。騎士は反応が遅れしまい、ボクの魔法に対応出来ない。


「エア・バースト!」


「ぬぉ……!?」


 風の爆発により、騎士は後方へと吹き飛ばされる。飛んできた騎士を避けようと、魔術師とヒーラーは慌てて左右に飛ぶ。


「甘い……!」


「ギャ……!」


 その隙を逃さず、ギリーはヒーラーの頭を打ち抜く。ヒーラーを真っ先に潰すのは、PT戦闘での定石である。


 残された魔術師は、慌てて魔法を唱えようとする。しかし、それはボクが杖で殴って邪魔をする。彼は憎々しげにボクを睨むが、次の瞬間にはその目を矢が射貫く。


「バカな……!?」


 身を起こした騎士が慌てる。ほんの十秒程度の間に、二人の部下を失ったのだから無理も無い。だが、ボク達を前に呆けている等、あまりにも舐めすぎている。


「ライトニング・ボルト!」


「ぐあぁぁぁ……!」


 賢者が放つ、Lv5のライトニングボルトである。ただの鉄のフルプレートでは、瀕死の重傷を受けてしまう。ヒーラーが生きていれば、まだ勝機はあったのかもしれない。しかし、ボクは膝を付く騎士に向かって、止めのファイアー・アローを解き放つ。


 ボクとギリー騎士が倒れるのを確かめ、ミーアの家へと向かう。途中で数人の兵士と戦闘になったが、先ほどの様な上級職は交じっていなかった。


「あれは……?」


 ボクとギリーは、やっとの思いでミーアの家へと辿り着く。しかし、家の周囲は多数の兵士が囲んでおり、その様子を外から見る事が出来なかい。


「邪魔だっ! エア・バースト!!」


 こちらに背を向けた群れに、風の爆発を叩き込む。彼らは冗談の様に、軽く吹き飛ばされて行った。


「ミーア……!!」


 そして、開けた視界の先には、よく知った戦闘装備のミーアの姿があった。しかし、その手足には複数の矢が刺さり、辛うじて急所だけは守っているという状態である。


「助けに来たぞ……!」


 ミーアは驚いた様にこちらに顔を向けていた。そして、ボクと目が合うと、安堵したように小さく微笑む。


 しかし、次の瞬間に一本の矢が飛来する。そして、ミーアの胸に突き刺さり、彼女はその場に崩れ落ちた。

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