第27話 アレク、尋問を行う

 ボクは召喚術士サモナーの様子を伺う。


 彼はこのまま血を流し続ければ死ぬ。助かる為には、ボクのヒールが必要な状況だ。


 それは相手も理解しているだろう。ボクは杖を突き付けたまま、地面に倒れた男に尋ねる。


「何の目的で、ボクの家を?」


「賢者ゲイルの遺産だよ……」


「爺ちゃんの遺産……?」


 もう少し抵抗すると思ったが、相手はあっさりと口を割る。


 まあ、確かにこの状況では、早く治療が必要だから当然か。彼はペラペラと話し続ける。


「賢者ゲイルは、賢者の石を持っていた……。それを、手に入れるのが目的だ……」


「賢者の石……?」


 ゲーム内に同名のアイテムがあったな。確かそれは、賢者がエクストラスキルを覚える為のアイテムだ。


 正確には、前提条件となるクエストを発生させる為のキーアイテムである。手に入れるにはレイドイベントで、レイドボスを倒す必要があった。


 しかし、そんなアイテムが家にあっただろうか? 爺ちゃんの遺品は整理したけど、それらしいアイテムを見た記憶が無い。


「そんな物は記憶にないけど……。ちなみに、それを何に使うつもりなの?」


「くくくっ……。賢者の石があれば、世界のことわりに辿り着ける……。この世界を、支配する事が出来る程の知識が手に入ると言われているのだよ……」


「え、マジで……?」


 あれって、そんなアイテムだっけ?


 クエスト内容は覚えていないけど、賢者を極めた者の試練とか、そんな内容だった様な……。


 死霊術士ネクロマンサーのクエスト内容なら、よく覚えてるんだけど……。


「でも、あなたは召喚術士サモナーですよね? 手に入れるなら、竜王の魂なのでは?」


「……何だそれは?」


 しまった……。素で尋ねてしまったが、相手はその存在を知らないらしい。


 竜王の魂は、召喚術士サモナーがエクストラスキルを手に入れる為のアイテム。


 しかし、ネットの無いこの世界では、皆が知っている知識では無いはずだ。発言には気を付けないとな……。


「気にしないで下さい……。こちらの勘違いですので……」


「ふん……。だが、良いのか……?」


 召喚術士サモナーは引き攣った様に、顔を歪めて笑う。その顔には、何故か勝ち誇った様な色が滲んでいた。


「どういう意味ですか……?」


「悠長にしているが……。村の方は、どうなっているかね……?」


「何だって……?」


 ボクはハッとなり、村の方に視線を向ける。


 改めて見ると、村から煙が立ち上がっているのが見える。また、耳を傾ければ、微かに悲鳴の様な物が聞こえてくる。


「どういう事だ……!?」


 彼らの目的は賢者の石では無いのか?


 だとしたら、村を襲う理由がわからない。ボクは殺気の籠った目で、相手を睨みつける。


「賢者の石はついでだよ……。我々の目的は、王女の身柄……。あるいは王女の蒔いた種を刈り取る事……」


「王女だって……」


 そして、ボクは昨日の来客を思い出す。訪ねて来た少女は、確かに王族だろうと思っていた。


 しかし、それによってこの村が襲われる等、その関連性がまったくわからない。


「我々の活動に気付いた王女は、単身で行動を起こした……。彼女がここで何をしたかは知らん……。しかし、我々の不都合となる可能性がある以上、無視する訳にはいかん……」


「可能性があるから……」


 ボクはその言葉に怒りを覚える。


 人の命を何だと思っているんだ……。そんなくだらない理由で、今も村が襲われているだなんて……!


 しかし、ボクの怒りは唐突な悲鳴に水を差される。


「ぐわ……!」


「ぎゃ……!」


 背後から聞こえる声に、ボクは思わず振り返る。


 すると、そこにはグリフォンに喉を切り裂かれた、二人の剣士の姿があった。


 グリフォンは仕事を終えたとばかりに、その場で立ち尽くしている。


「一体、何を……!?」


 召喚術士サモナーに目を向けると、彼は魔法陣の光に包まれる所だった。その手にはスクロールが握られている。


 彼は顔に笑みを、瞳に怒りを浮かべながら、ボクに向かって叫んでいた。


「ここは引かせて貰う……。貴様への復讐は、いずれ果たさせて貰うぞ……!」


 そして、召喚術士サモナーは魔法陣の中に消えて行く。


 恐らく使ったのは帰還のスクロール。スクロールに記録されたポイントへ、利用者を転移させるマジック・アイテムだ。


「くっ……!」


 逃げるだけなら、いつでも出来たという事か……。


 恐らく彼が話し続けていたのは、グリフォンのバインドが解けるまでの時間稼ぎ。


 そして、そうする必要があったのは、残された剣士二人の口封じが必要だったからだろう。


 今は召喚術士サモナーを気にしても仕方が無い。ボクは気持ちを切り替えると、自らにヘイストを掛け直す。


 そして、今現在襲われているケトル村へ、急いで駆け出した。

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