第24話 アレク、不安を抱く

 来客が帰るのを見届けると、奥からギリーがやって来た。


 ミーアが一緒じゃないので、彼女に聞かれたく無い話があるのだろう。


「帰ったみたいだな……」


「うん。取り敢えずは、大人しく……ね」


 ボクの言葉にギリーは静かに頷いた。


 彼はまだ警戒心を解いていない。これで終わりとは考えていない様子だ。


「騎士を後三人連れて来ていた……。二人は村の入り口で待機、後の一人はこの家の近くで待機していた……」


「なるほど。騎士が合計で四人もね……」


 騎士は剣士がLv50で転職出来る上級職である。当然ながら、この世界ではあまり数がいる訳では無い。


 その多くは国が召し抱えており、フリーの騎士等はかなりの少数となる。貴族や大富豪であっても、私兵団の隊長クラス以上に数名いれば良い方だ。


「あの少女は、間違い無く王族だろうね」


「だろうな……」


 ギリーは静かに頷く。その立ち振る舞いに、以前の様な幼さは見られない。ボクはそんなギリーの態度に、こっそり苦笑する。


 ギリーはワイバーン討伐の後、本格的に狩人の訓練に明け暮れた。それも、父親のウィリアムさんに頼み込んで、毎日欠かさず森に同行している。


 その甲斐もあり、今のギリーは狩人がLv42となっている。ボクの黒魔術師がLv38なので、その努力は並の物では無いとわかる。


 余談だが、ギリーとの話でウィリアムさんは狩人Lv50と確定している。上級職にこそ就いていないが、この村の戦力はやはりおかしい。


 何せこの村は、50人程度の小さな村なのだから。


 ……話を戻すと、ギリーは四年の間、ウィリアムさんと二人っきりの時間が多かった。


 雨の日だろうが、雪の日だろうが、常に二人で森の奥地まで一緒だった。


 その結果、ギリーはウィリアムさんの様に、寡黙で常に緊張感を漂わせた、中二病属性が加わってしまったのだ。


「どうかしたか……?」


「いや、何でも無いよ」


 本当は、何でも無くは無い。


 ウィリアムさんの様に、三十台のナイスガイなら様になる。


 しかし、ギリーはまだ14歳の少年だ。それがキリッとした表情でいると、かなり痛い感じになってしまう。


 まあ、親友としては、生暖かく見守るしか無い訳なのだが……。


「それで、危険はありそうか……?」


「いや、何かを仕掛ける感じでは無かったね。爺ちゃんの力を欲しがっていたけど、肝心の爺ちゃんはもういないし」


「なるほど……」


 もしかしたら、周囲で情報収集位はされるかもしれない。


 ただ、それも近隣の町での事だろう。この村の中では、嗅ぎ回るには目立ち過ぎる。


 それと、ギリーの姿も警戒心を持たせたはずだ。


 今のギリーは、いつも通りに竜鱗の防具で身を包んでいる。ギリーの様な少年が、上級冒険者の装備を所持しているのだ。


 興味は引かれただろうが、いきなり強硬手段に出るのは危険とわかるだろう。


「取り敢えず、ビリー村長には話しておこう。後は怪しい人がうろつくかもしれない。当面は周囲の警戒を強めた方が良いかな?」


「周囲の警戒は任せて貰おう。父にはオレから伝えておく……」


「ああ、うん……。それじゃあ、任せたよ……」


 親友の中二病は日に日に悪化している。ボクはまだまだ、その様子に慣れる事が出来ずにいた。


 ボクが対応に悩んでいると、奥から覗くミーアと目があった。


「話は終わった……?」


「うん。こっちに来ても大丈夫だよ」


 ボクが手招きすると、ミーアは嬉しそうに駆け寄って来る。


 ギリーはそんな彼女の様子に、僅かに感情が揺れていた。


「邪魔をした。オレは狩りに戻る……」


「ああ、うん。気をつけて」


 ギリーは軽く手を振ると、さっと身を翻す。


 そして、ミーアから逃げる様に出て行ってしまう。


「どうしたんだろ? ギリーっていつも忙しないよね?」


「うん、そうだね……」


 ミーアは不思議そうに首を傾げている。ボクは反応に困って、曖昧に笑みを浮かべる。


 ミーアは未だに気付いてないが、ギリーは今でもミーアに惚れている。


 ただ、その恋が叶わない事を、ギリーは良くわかっていた。だからこそ、ミーアから一歩引いた位置で、彼女を見守っているのだ。


 勿論、ボクからミーアに、その事を伝えたりはしない。


 それはギリーが選んだ道だ。そして、親友の気持ちを知りながら、ミーアを選んだボクには何も言う権利は無いのだから。


 ……だが、だからこそ、ボクはミーアを幸せにする義務がある。それが親友の気持ちに唯一応える事になる。


 そう信じているからこそ、ボクはミーアを守れる強さが必要なんだ。ボクは覚悟を再認識し、両手を強く握りしめる。


 ただ、何故か先程の少女が脳裏に浮かび、嫌な予感だけは振り払う事が出来なかった。

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