第25話 アレク、召喚術士に出会う

 今日も朝から、日課である森の散策を行っていた。珍しい野草やキノコを採取したり、奥地にいる少々手ごわい魔物を倒す為である。


 しかし、途中から森の様子がおかしい事を感じ、今は散策を中断してケトル村へ戻る所である。


 何故だか、森の動物達が南から逃げて来ているのだ。何かが南から北上して来ている気がする。


「大丈夫とは思うけれど……」


 村にはビリー村長がいる。引退したとはいえ、上級職である剣豪であった冒険者だ。並みの魔物であれば、遅れを取る事は無いだろう。


 それに、ウィリアムさんやギリーも、既に異変に気付いているはずだ。恐らくはボクよりも先に、村へと戻っている事だろう。


「でも、一体何が……」


 村の南には強い魔物はいないはず。一時期、南を散策した事はあったが、スライムやゴブリンの様な弱い魔物しかいなかった。


 それに、南西には商業都市ヴォルクスが存在する。そこには多数の冒険者が存在する為、周辺の強い魔物は狩り尽されている。


 かといって、南にはカーズ帝国との国境があり、魔物が関所を超えられるとは思えない。


「ケインさんからの情報では、カーズ帝国に戦争の動きは無いはずだけど……」


 ケインさんは一年に一度、お祭りの時期にやって来る吟遊詩人バードである。世界情勢に詳しく、毎年各国の情報を教えて貰っているのだ。


 その情報では、カーズ帝国がペンドラゴン王国に、戦争を仕掛ける様な動きは無かったはずだ。


 ボクはヘイストを掛け直し、ケトル村へと急ぐ。


 何故かとても胸騒ぎがするのだ。こういう時の悪い予感は、得てして当たりやすい物である。


 それから三十分程走り続け、ようやくボクは自分の家へと辿り着く。


 ちなみに、ボクの家は村の北端に位置している為、真っ先に辿り着いただけで、そのまま村へと走り抜けるつもりでいた。


 ――しかし、思わぬ存在により、ボクはその足を止める。見慣れぬ三人組が、ボクの家に入ろうとしていた為だ。


「その家に、何か用ですか……?」


 ボクが尋ねると、三人組は驚いた様にこちらへ振り向く。


 先頭の男は緑のローブを纏った、三十過ぎの魔術師風である。その後ろに続く二人は、鉄の鎧に身を包んだ剣士風であった。


「ふむ。貴様はこの家の者か?」


「ええ、そうですが……?」


 魔術師風の男に問われ、ボクは身構えながら答える。


 すると、男はニヤニヤと笑みを浮かべながら、ボクの装備に視線を這わせる。


「中々に良い装備だ。子供が持つには過ぎた代物だな」


「それはどうも……」


 ボクの装備は、ワイバーン製で統一されている。革のローブに革のグローブ。革のブーツに皮のマント。そして、最後はワイバーンの魔石を使用した杖である。


 ワイバーン製装備は、物理方面に滅法強い。その上、素材が軽くて後衛職でも装備が可能。初心者が目標とする、標準的な中級装備として人気が高い物である。


 ただし、駆け出しでは手が出ない程の値段であり、全て揃う頃には上級職へ手が掛かるレベルになると言われている。


 そういった装備である為、14歳の少年が身に着けるには、分不相応と感じるのが一般的だろう。


 実際の所、ボクは上級職の賢者と錬金術師となっている。しかし、それを初見で見抜ける者はまずいない。


 しかし、男の視線はそういった趣旨とは異なっていた。こちらを見下す感じでは無く、思惑通りに事が進んだ事を喜んでいる様子だった。


「賢者の置き土産といった所か。これは噂もデマでは無いかもしれんな……」


「それで、用事は何でしょうか……?」


 魔術師風の男に、もう一度対してボクは訪ねる。


 しかし、男は肩を竦めると、後ろの剣士に軽く手を振って見せた。


「何、気にしないでくれ。こちらで勝手に漁らせて貰うだけだ」


 その言葉と同時に、後ろの剣士二人が動く。腰の剣を抜くと、こちらに目掛けて走り出した。


「アイシクル・ランス!」


 想定していた動きである為、ボクは慌てずに氷の槍を飛ばす。


 今のアイシクル・ランスはLv5であり、飛んで行く氷槍の数は5本。二本ずつが剣士の両足に突き刺さり、一本が魔術師の男へと飛ぶ。


「ひいっ、足が……!?」


「痛い……痛いよぉ……!!」


ボクは自らの魔法で、初めて人を傷付けた。


 しかし、思ったより心理的な負担は感じていなかった。恐らくは、普段からゴブリンやオーク等の魔物を殺しているからだろう。


改めて見ると、二人の剣士は地に伏していた。こちらはもう、戦闘不能と見なして良いだろう。


しかし、問題は魔術師の男である。彼は炎の壁により、氷槍から身を守っていた。更に、炎壁が消える前に、次なる魔法まで唱え終えている。


「来い! 召喚サモン・グリフォン!!」


男の足元に魔方陣が浮かぶ。


 そして、獅子の体に、鷲の頭と羽を持つ魔物が姿を表す。


「ガキの癖に、高位の黒魔術師……。そうか、貴様は賢者の弟子か……」


男の顔からは笑みが消えていた。その表情は、敵を前にした戦士の物である。そこに油断は見られない。


「貴様は危険だ……。確実に殺す!」


男は吠える。相手は召喚術士サモナー。始めてのPvPは、中々にハードモードになりそうだ。

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