第二章 ケトル村からの旅立ち編
第22話 アレク、賢者を継ぐ
ワイバーン討伐から八年の月日が流れた。
ボクはケトル村の英雄として扱われる様になり、誰もがボクを大人と同様に扱う様になった。
また、リリーさんはあの後も一年間、ボクを鍛え続けてくれた。
お陰様でボクはその一年間で十分なレベル上げを行え、結果として賢者、錬金術師のクラスを手に入れる事が出来た。
その際に、爺ちゃんとリリーさんから、8歳で上級職についた事は決して誰にも話さない様に釘を刺された。
後からミーアに聞いた話だと、ビリー村長が村人全員に対しても箝口令を出したらしい。
その事からも、今のボクがどれだけ非常識な存在なのかを改めて実感する事が出来た。
それから、爺ちゃんはボクが10歳になると同時に亡くなった。病気などでは無く、寿命によるものである。
ボクは唯一の家族を亡くした事で大泣きしたけど、村全体で行った葬儀の後は無事に気持ちを切り替える事が出来た。
爺ちゃんが最後に笑顔で逝ってくれたお陰だろう。
ビリー村長やミーアの両親からは、一緒に暮らさないかと誘われた。
しかし、その気持ちを嬉しく思いつつ、申し出を断った。ボクは賢者となった際に、爺ちゃんと一つの約束をしたからだ。
それは、ボクの力を人の為に役立てるということ。ボクは爺ちゃんと暮らしたこの家で、爺ちゃんの後を継ぐ事を選んだのだ。
そして、今のボクは爺ちゃんがいつもそうしていた様に、村で必要とされる薬の調合を行っていた。
爺ちゃんの使っていた道具で、爺ちゃんと同じ手順を踏んで。場所も人がいつ来ても良い様にと、爺ちゃんが使っていた、入口が見える部屋の机を使って。
「アレク君、入るね!」
不意に聞こえた声に、ボクは調合の手を止める。家の入口に目をやると、ミーアが入って来る所だった。手には大き目なバスケットを抱えている。
今のミーアは15歳である。村の誰もが認める様な美人になった。そんな彼女が、満面の笑みでボクに声を掛ける。
「お昼ご飯を作って来たよ! 一緒に食べよう!」
「ありがとう。もう少しで終わるから、少し待ってくれるかな?」
「うん。それじゃあ、お昼の準備をして待ってるね!」
ミーアは甲斐甲斐しくも、毎日の様にお昼を作って運んで来てくれる。
爺ちゃんが無くなってからなので、もう4年程は続けてくれている事になる。
ボクはその事に感謝しながら、手早く調合と片づけを終える。
「今日のお仕事はもうお終い?」
「うん。今日の予定はもう無いね」
ミーアの部屋は台所の方から聞こえてきた。昼食の為に、飲み物か何かを用意しているのだろう。
ボクはダイニングに移動しながら答えた。
「じゃあ、旅の準備について相談しても良いかな?」
「ああ、そうだね。もう、そういう時期になるね」
ダイニングのテーブルには、美味しそうなサンドイッチが並んでいた。それオレンジジュースと、デザート代わりのポムの実である。
ちなみに、旅とはボクがこの村を離れて、世界を見て回る旅の事である。三か月後にボクは15歳となり、この村を出る事は村の皆に伝えてある。
ビリー村長には渋られたが、予想していた様で、強くは引き止められなかった。
ボクが椅子に座ると、ミーアも同時に椅子に座る。そして、簡単に感謝の祈りを捧げ、昼食を開始した。
「私が用意する物って何があるかな?」
「旅の装備はボクが作っておくから、着替えだけで良いと思うよ。基本的にはボクのマジック・バッグに全部入れておくつもりだしね」
「信じられないくらい、準備がお手軽だね……」
ミーアは呆れた様にボクの顔を見ていた。ボクはサンドイッチを齧りながら、ミーアに苦笑する。
「ボクの錬金術で大体の物が作れてしまうからね。本当ならもっと、購入する物が多かったりするんだろうけど」
明かりを生み出す魔道具も、水を生み出す魔道具も用意してある。テントの様にかさ張る道具も、マジックバッグにあっさりと入ってしまう。
食料もマジックバッグの中では腐らないので、多めに持ち運ぶ事が可能となっている。
正直、マジック・バッグも作れる錬金術師は、生活面での汎用性が圧倒的に高いジョブと言える。
「私も錬金術師になれば良かったかな……」
「いやぁ、今から錬金術師はかなり時間が掛かってしまうよ?」
「うん。言ってみただけ……」
ミーアの現在のクラスは、白魔術師Lv33である。錬金術師は黒魔術師Lv30と、薬師Lv30が必要となる為、一からでは最短でも5年は掛かってしまう。
それなら白魔術師をLv50まで上げて、プリーストになる方が何かと重宝されるだろうな。
「そういえば、アンナの様子はどうなの?」
「あー、うん……。いつも通り……?」
「そっか……」
その回答に、ボクとミーアは揃って苦笑いを浮かべる。どうやら、彼女の家庭には、まだ問題が残っている様である。
ちなみに、アンナとは7歳になるミーアの妹である。年が離れている事もあって、ミーアはアンナをとても可愛がっている。
アンナもそんな姉に対してべったりと甘えている。そして、ボクはそんなミーアを旅に連れ出そうとしている。
つまり、アンナにとってボクは、姉を連れ去る憎き存在という事になっていた。
「ちなみに、アンナの成長具合は?」
「うん、一昨日にキュアポイズンを覚えてたよ」
「なるほど。白魔術師のレベルが3になった所か」
アンナはお姉ちゃんっ子である為、当然ながら姉に憧れを持っている。そして、村で高位として知られるミーアの白魔術にも興味を持った。
簡単でも白魔術を使える存在は、村にとっては貴重な存在と言える。その為、ミーアは毎日少しずつ、アンナに白魔術の手ほどきを行っていたのだ。
「簡単な毒なら治せるって事だし、後の事は任せれそうだね」
「うん。パパもママも、すっごく喜んでたよ」
ミーアはニコリとほほ笑む。ボクはその笑みに、ほうっと息を吐く。
やはりミーアはとても可愛い。ボクは転生して何よりも、こんな可愛い幼馴染を彼女に持てた事に感謝した。
ボクがぼーっとミーアを眺めていると、ミーアは食べ終わった昼食の片づけを始めていた。
そんなボクに、ミーアは不思議そうにボクを見返した。小首を傾げる様子がまた可愛い。
しかし、二人の時間は終わりを迎える。家の入口からノックの音が聞こえたからだ。
「誰だろう? ちょっと行って来るね」
ミーアに断りを入れると、ボクは入口に向かって進む。
扉を開けると、そこには狩人姿のギリーが立っていた。その顔は、何故か困惑した様に歪んでいた。
「来客だが……。今は大丈夫か……?」
「うん、来客って……?」
来客と言う言葉に、ボクは首を捻る。この村の人であれば、ギリーは名前を直接言うだろう。
しかし、村人以外でこの家を訪れた人は、少なくともボクの記憶の中に無い。
ギリーは肩を竦めると一歩下がり、外に向けて顎をしゃくる。すると、そこには二人の女性が立っていた。
「えっと、あなたは……?」
「突然の訪問失礼する。ここは賢者ゲイル殿の家で間違いないか?」
答えたのは背の高い方の女性である。白銀の鎧を身に纏った、短い銀髪の騎士であった。
年齢は二十台半ばといった所で、クールビューティーなタイプである。
「ええ、祖父の家というのは間違っていませんが……」
ボクの言葉に、隣の女性が微笑みを浮かべる。
こちらはボクと同い年程と思われる。白いドレスを着た、金髪ロングの人形の様な少女であった。
「ああ、良かった……。少し、お邪魔させて頂いても宜しいかしら?」
安堵した様に尋ねる少女に、ボクは小さく頷いて見せた。
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