第15話 アレク、リリーを案内する

 ボクはリリーさんをケトル村まで連れて帰った。ヘイストを使って早足で移動したが、それでもやはり二時間程は掛かる。


 途中には何度もおんぶを要求された。しかし、体格的に無理があるので断った。今のボクの身長は、リリーさんの半分程しか無いのだから。


「爺ちゃん、お客さんだよ」


 ボクは家に入ると爺ちゃんに呼び掛ける。


 しかし、家には爺ちゃんの他に、ミーアとミーアママもいた。二人はボクに気付くと、ぱっと振り返る。


「アレク君、大変だよ!」


「え? 何かあったの?」


 ミーアは慌てた様子でボクに駆け寄る。ブンブンと手を振って大変さをアピールするが、ボクには可愛らしさしか伝わって来ない。


 そして、ミーアとは対照的に、ニコニコ笑うミーアママがボクに告げる。


「うふふ。子供が出来たみたいなの」


「え……? ……本当ですか!?」


 ボクは慌ててミーアママのお腹を見る。


 しかし、今の所はお腹は大きくなっていない。ボクの様子に爺ちゃんが愉快そうに笑う。


「ほっほっほ。まだお腹が目立つ程は成長しとらんよ。生まれるのは半年以上先じゃろうな」


「へぇ、本当に妊娠してるんだ……」


 ボクは不思議な気持ちでミーアとミーアママを見る。ミーアママは、ミーアのママである。


 しかし、ボクにとっては近所のお姉さんという印象が強い。嬉しいという気持ちが正しいのか、ボク自身にもイマイチわからない。


「うふふ。アレク君の弟か妹よ?」


「いや、ボクのってのは違いますよね?」


 いつも通りのミーアママの冗談に、ボクは冷静にツッコミを入れる。ミーアママの顔は笑顔であった。


 しかし、その目はいつもと様子が違った。


「うふふ。でも、将来はそうなるんでしょう?」


「な……!?」


 その言葉は確信を含んだ物だ。これはいつもの冗談では無いらしい。


 慌てたボクはミーアに視線を向ける。彼女はペロッと舌を出していた。


「ごめんね。ママには全部話しちゃった」


「全部って……?」


「十年後にミーアを連れて行くんでしょ? おばさん、寂しくなって二人目を作っちゃった」


「本当に全部……!?」


 ミーアママはペロッと舌を出す。その仕草はミーアが良くやるものだ。親子で良く似ているが、恐らくはミーアが真似て覚えたのだろう。


 しかし、何てことだ……。将来、ミーアと出て行く事は、二人だけの秘密と思っていたのに……。


 この数ヶ月の間に、ボクはそういう目で見られていたのか……。


「アレク……そろそろ、入って良いか……?」


「あ、ごめんなさい。どうぞ、入って下さい」


 リリーさんは律儀に外で待っていたらしい。ボクは慌ててリリーさんを招き入れる。


 すると、彼女は心配そうにボクを見つめる。


「アレクの顔が真っ赤……大丈夫……? 熱でもあるのか……?」


「だ、大丈夫だよ! ボクの事は良いから!」


 ボクは思わず俯いてしまう。自覚は無かったが、真っ赤になっているのか……。


 そう指摘されると、余計に意識して恥ずかしくなって来た……。


「うん? お主はリリーか……?」


「そうだ……久しいな……ゲイル……」


 爺ちゃんは目を丸くしていた。それに対して、リリーさんは楽しそうに笑う。


 そして、彼女は腕を組んで、爺ちゃんに自慢気に告げた。


「私は森の支配者がLv38になった……。どうだ、凄いだろう……」


「ほう、頑張っておる様じゃな」


 森の支配者? ボクの知識には無いが、何かのジョブなのだろうか?


 ボクが疑問に思っていると、爺ちゃんは微笑みながら教えてくれた。


「森の支配者とは、精霊魔術を極めた者が着ける上級職なのじゃよ。ただし、成れるのはエルフのみで、エルフの女王候補が目指す道じゃな」


「エルフの女王……」


 そんなジョブがあるのか。ゲームでも隠し設定があったのかもしれない。


 とはいえ、プレイヤーは人族しか選べないので、ゲーム時代には無用な知識だったと思う。


 リリーさんはドヤ顔で爺ちゃんを見下ろす。そして、ニヤリと笑いながら爺ちゃんに尋ねた。


「それで……ゲイルはどこまで成長した……?」


「ふむ、賢者ならLv50になっておるよ」


「……は?」


 リリーさんは口をポカンと開ける。想定外の答えに驚いた様子だ。


 とはいえ、ボクも爺ちゃんの回答には驚いた。爺ちゃんは賢者を極めていた。


 もしや、ジョブを極めたから引退したのか?


「だから、天才は嫌いだ……ハゲれば良いのに……」


「ほっほっほ。お主も相変わらずじゃのう」


 憎々しげなリリーさんに対し、爺ちゃんは何故か楽しそうだ。


 そして、リリーさんはふっとボクに目を向ける。


「アレクのレベルは……?」


「え、ボクですか……?」


 リリーさんは何故か不安そうな視線だった。爺ちゃんを見ると、優しい笑顔で頷いている。


 これは話しても大丈夫って事だよね?


「黒魔術師がLv12、白魔術師がLv10、薬師がLv9です」


「ほっほっほ。随分と頑張ったのう」


「凄い! もうそんなに上がったの!」


 爺ちゃんとミーアは嬉しそうだ。しかし、リリーさんは不機嫌そうになる。


 そして、何故か小さく舌打ちされた。


「これだからゲイルの弟子は……アレクもハゲれ……いや、アレクはハゲなくて良い……」


「は……?」


 ハゲれば良いというのは、リリーさんの口癖の様な物か? 何故か途中で言い直されたけど。


 その様子に爺ちゃんは嬉しそうに笑う。


「ほっほっほ。良かったのう、アレクはリリーに気に入られた様じゃな」


「アレクは優しい子……ゲイルの様に意地悪じゃない……」


「ほっほっほ。ワシも別に意地悪はしとらんがのう?」


 リリーさんはやはり、爺ちゃんに突っかかる。そして、爺ちゃんはそれを楽しそうに受け流す。


 この二人は、これで案外仲が良いのかな?何だかんだで楽しそうだしね。


 ……にしても、ミーアとミーアママの目が厳しい。爺ちゃんの言葉で、リリーさんを品定めする目になっていた。


 お願いだから、喧嘩だけはしないで欲しい所だ。

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