第14話 アレク、エルフに出会う
ボクは朝の森を散策していた。これは、ここ最近の日課である。
自身にヘイスト、プロテクションでバフを掛け、薬草探しをしながら、ゴブリンやオークを魔法で狩る。
白魔術師、薬師、黒魔術師のジョブレベルを同時に上げる事が出来る。まさに一石三鳥のレベル上げである。
ちなみに、爺ちゃんから教わり始めて、そろそろ三ヶ月となる。今のボクは、黒魔術師Lv12、白魔術師Lv10、薬師Lv9まで上がっていた。
それなりに良いペースなのだが、最近は少しペースダウンが気になる。足があれば遠くの狩場も試せるのだが、午前中のみだと近場の森しか厳しい。
何か効率の良いレベル上げを考えないとな……。
「……にしても、今日は獲物が少ないな」
森の中を早足で駆け抜けながら、ボクは獲物の存在を探す。臭い袋で魔物を寄せているので、近くにいれば向こうからやって来るはずなのだ。
それが、今日は数匹のスライムにしか出くわしていない。まさか、魔物を狩り尽くしたという事は無いと思うのだが……。
「ん……?」
ボクはふと足を止める。鬱蒼と茂る森の中に、何故か開けたスペースが出来ている。この森はボクが定期的に巡回してる。
なので、こんな場所があれば、これまで気付かないとは考え難い。恐らくは、昨日か今日に作られた空間なのだろう。
ボクは警戒しながらも、その空間に近づいて行く。その空間は、鋭利な刃物で切られた様に、草が綺麗に刈り取られていた。
そして、その中央には草が積み上げられ、緑の小山が出来ている。その小山を観察していると、ボクは奇妙な物を発見する。
「これは……靴……?」
小山の近くには、革の靴が転がっていた。サイズからすると、女性か子どもの物に見える。
ボクは不審に思い、ゆっくり近づいて拾い上げた。
「随分と使い込まれてるな……」
その靴は、穴こそ空いていないが、擦り傷だらけである。形もすっかりと崩れており、流石に買い換え時だろう。
ボクは一通り観察すると、靴を元の場所へ戻す。
「何で靴が……?」
周りに血の跡が無い為、誰かが襲われた後とは思えない。とすると、誰かがここに捨てたのだろうか?
確かに、新しい靴に履き替えたなら、古い靴は捨てる可能性もある。
「まあ、ボロボロだしな。捨てられても仕方無いか……」
「その発言は失礼……。その靴は捨てた訳では無い……」
「え……?」
突然の声にボクは固まる。そして、ボクの目の前で、急に緑の小山が崩れ出す。
崩れた草の中からは、緑の人が姿を表した。緑の人は左手を腰に当て、右手の指をボクに向けた。
「寝てる間に脱いでただけ……。私の靴を悪く言うのは良くない……」
「えっと……。ごめんなさい……」
取り敢えず、ボクはペコリと頭を下げた。緑の人はそれで満足したのか、手を下ろしてその場に座り込む。
「許す……。素直な子は好き……」
「あ、ありがとうございます……」
ボクは顔を上げて、相手の事を観察する。良く見ると緑の人は、薄緑の腰まで届く長い髪に、翡翠の様な綺麗な瞳を持つ女性だった。
頭にはフードを被り、服装まで薄緑のローブを着ている為、全体的に緑な印象を持ってしまう。
ちなみに、年齢は二十歳程だろう。ノンビリした雰囲気を醸し出し、目は眠そうにトロンとしている。雰囲気は、おっとり系お姉さんタイプだ。
彼女はニッコリと微笑むと、ボクに話し掛けて来た。
「子どもがいるという事は、村が近いということ……。私を村まで案内して欲しい……」
「……案内ですか? 村には何をしに?」
彼女の言葉に、ボクは僅かに警戒する。見た感じは悪い人に見えない。
しかし、こんな所で草に埋もれている人である。余りにも、得体が知れなさ過ぎる。
警戒するボクを他所に、彼女は両手をお腹の上で重ねる。
そして、彼女のお腹はそれに合わせる様に、ギュルルと大きな音を鳴らした。
「お腹が空いた……。昨日から、何も食べて無い……」
「えっと……。お金はありますか……?」
「…………」
ボクの質問に、彼女は悲しそうな顔をする。つまりは、無一文という事だろう。
ボクは溜め息を吐いて、マジックバックに手を突っ込んだ。
「ポムの実のドライフルーツとジュースがあります。物足りないでしょうが、これで我慢して下さい」
ドライフルーツのビンと、ジュースの入ったボトルを取り出す。それなりに日持ちするので、非常食として持ち歩いている物だ。
ボクが食料を取り出したのを見るや、彼女の眠たそうな瞳が大きく開かれた。
そして、一瞬にして、取り出した食料は奪われてしまう。
「少年は命の恩人……。私の命は救われた……」
「は、はあ、そうですか……」
ボクはグラスも出そうとしたが止めた。既に水差しをラッパ飲みしていたからだ。
彼女は乾燥して小さくなったポムの実を、味わう様にゆっくり口にする。
「私の名前はリリーエンタル……。リリーと呼んで欲しい……。少年の名前は……?」
「ボクはアレクです。ケトル村に住んでます」
「ケトル村……?」
リリーさんは何かを考える様に、視線を宙にさ迷わせる。勿論、その間も手と口は止めない。
そして、彼女はゆっくりと視線をボクに合わせて来た。
「思い出した……。ゲイルが住んでる村だ……」
「爺ちゃんの知り合いなんですか?」
「爺ちゃん……?」
リリーさんは再び視線をさ迷わせる。
そして、ポンと手を打った。彼女は視線をボクに戻す。
「ゲイルと別れたのは三十年前……。ゲイルも今では歳を取った……」
「三十年前……?」
ボクは首を傾げる。彼女の見た目は二十歳程に見えるのだが、実際は若作りという事なのだろうか?
リリーさんはそんなボクの様子にニッコリと微笑んだ。
「私はエルフで、人間より長寿……。こう見えて、私は二百年の時を生きている……」
「あ……」
リリーさんがフードを外す。すると、彼女の長い耳が姿を現した。
一度は会ってみたいと思っていたが、本物のエルフにこんな場所で出会うとは思わなかった。
やはり、耳以外は人間と見分けが出来ないな。
「さて、お腹は膨れた……。ゲイルに挨拶をしたい……。家まで案内して欲しい……」
「えっと、走ると一時間程の距離です。歩くと三時間掛かりますが、村までどうやって行きますか?」
「え……?」
ボクの言葉にリリーさんは絶望的な顔となる。
そして、しばらく考えた後に、ゆっくりと首を振る。
「嘘は良くない……。ここはオークのいる森……。人間の子どもが一人で、そんな距離を出歩ける訳が無い……」
「えっと……。エアーカッター!」
ボクは空に向けて、風の刃を飛ばす。
五つの風の刃を見たリリーさんは、呆れた顔でボクを見ていた。そして、何故か忌々しげに呟く。
「アレクはゲイルの子で間違いない……。彼は自重を覚えるべき……。そして、ハゲれば良いと思う……」
「いや、爺ちゃんはフサフサですけど?」
唐突に爺ちゃんがディスられた。ボクのツッコミに、何故かリリーさんは嫌そうな顔をする。
そして、渋々といった様子で、重たい腰を持ち上げて、靴を履き始めた。
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