第8話 アレク、参謀となる

 今日は村長の家に呼ばれていた。ボクを呼んだのはビリー村長では無い。村長の息子コルドである。


 コルドは十六歳の青年で、短く刈り込んだブラウンの髪と、大柄な体が特徴である。父親であるビリー村長に仕込まれているので、剣士として初級程度の腕が有る。


 ……ただし、横柄な態度が目立つ為、年下からは嫌われる傾向にある人物だ。


「自警団の皆を呼んだのは他でも無い。収穫祭の警備について打ち合わせを行う為だ」


 コルドはテーブルを囲む参加者を見渡す。参加者はドリー、グランの双子兄弟に、ボクとギリーとミーアである。


 ドリーとグランはブラウン髪の兄弟で、共に十四歳である。将来は冒険者になりたいらしく、ビリー村長に剣士として弟子入りしていた。同じ剣の師匠を持つ関係から、コルドとつるんでいる事が多い。


 ちなみに、自警団はコルドが発起人の集まりだ。村では子供の遊び程度に、何となく容認されている。ちなみに、ボクとギリーとミーアは、将来を見込んでの見習い扱いらしい。


「さて、我が参謀のアレクよ。警備のプランを皆に説明するのだ」


「え……?」


 突然の無茶振りである。そして、ボクはいつの間にコルドの参謀になったんだろうか……?


「えっと、村の中は村長と爺ちゃんがいるから、問題の起きようが無いでしょ。それで、村の外はウィリアムさんが毎日巡回してるから、魔物も獣も近寄って来ない。うん、ボク等がやる事は無いね」


「あの三人はヤベェよな。魔物に倒される姿が想像出来ねぇ」


「ああ、ドラゴンでも呼ぶしかねぇんじゃね? 三人揃ったら、ドラゴンも狩っちまいそうだけど」


 ドリーとグランがニヤニヤ笑いながら話し合う。確かにあの三人は、本来なら小さな村にいる存在では無いからな。過去には冒険者として活躍してたらしいし。


 しかし、コルドはボク達の態度が気に入らなかったらしい。テーブルを強く叩き、ボク達を睨み付けた。


「真面目に考えろ! これは、我々の活動をアピールするチャンスなんだぞ!」


 コルドの言葉に、ボク達は微妙な表情となる。そもそもが、自警団の活動に乗り気なのはコルドだけだ。彼を無視すると五月蝿いので、ボク達は仕方なく付き合ってるに過ぎない。


 そして、この集まりはコルドが満足するまで続く。早く帰りたい一同の目が、自然とボクに集まって来る。ボクはため息を吐いて、カバンから小さな袋を取り出した。


「それは何だ……?」


 コルドはテーブルに置かれた袋を怪訝そうに眺める。ボクは肩を竦めて答えた。


「これは臭い袋だよ」


「臭い袋とは何だ?」


「「「え……?」」」


 コルドの疑問に一同が驚く。臭い袋は村人なら誰もが知っている。村の外を歩く時の必須アイテムである。流石のボクも、コルドがこれを知らないとは思わなかった。


 しかし、皆の様子にコルドの顔が険しくなる。機嫌を損ねても面倒なので、さっさと説明してしまおう。


「臭い袋は魔物が嫌いな臭いを出す袋だよ。これがあれば、魔物が寄って来なくなるんだ」


「……それで?」


「これを村の周辺に置いて回れば、魔物が村に来なくなる。これを収穫祭の当日に、ボク達で撒いてはどうかな?」


「ふむ、なるほど……」


 コルドは腕を組んで考えだす。しかし、その顔はまだ納得しているとは言えない。活動が地味なのが気に入らないのだろう。なので、ボクは袋を持ち上げて、コルドに手渡した。


「ん……? ……こ、これは!?」


「そう、その刺繍はドラゴンだね」


 コルドは手にした臭い袋をじっくりと観察する。そこには、ドラゴンを象徴した刺繍が施されている。その刺繍を確認し、コルドの口元が緩んでいる。


「コルドがドラゴン好きなのは有名だからね。これを見た村の皆は、自警団の活動だって気付くんじゃないかな?」


「……確かにこれなら、自警団の活動をアピール出来るな!」


 コルドは顔を輝かせる。ドラゴンと自分を結び付ける事が出来て、ご満悦のご様子だ。中身は爺ちゃん作だが、袋はボクが用意した。こんな事もあろうと、夜なべして作った甲斐があったよ……。


「よし、それでは当日はこれを配るぞ!準備はアレクに任せた!」


「はい! 私もお手伝いするね!」


「あ、じゃあ、オレも……!」


 ミーアとギリーも手伝ってくれる様だ。三人ならすぐに数を用意出来そうだ。ギリーはミーア目当てっぽいから、何処まで役立つか微妙な気もするが。


「それでは、今日は解散とする!当日は朝からオレの家に集まる様に!」


 コルドが偉そうに宣言する。しかし、ボク達はその事に何も言わない。ボク達はただ静かに、ビリー村長の家を後にした。

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