第6話 アレク、交渉を行う
今日のボクは爺ちゃんの代わりに、商人のハンスさんと売買の交渉をしていた。
ハンスさんの家は村で一つだけの商人一家であり、街への買い出しや販売を行っている。ハンスさん自身は二十歳の青年である。しかし、最近はハンスさんの父親から、後継ぎとして色々と任されているらしかった。
ボクは爺ちゃんの仕事に必要な道具の買い付けを依頼すると同時に、爺ちゃんの作ったマジック・アイテムの委託販売について交渉中だ。道具の有用性等を説明して、値段を吊り上げる事がボクの仕事である。
「防毒のタリスマンは、海底洞窟に向かう冒険者に売ると良いよ。低層のヒトデとイソギンチャクは毒を嫌って、皆が相手をしないでしょ? でも、毒さえ防げば簡単に倒せるし、手に入る素材は良い物が多いんだよ」
「はあ~、なるほどね。それで、値段はいくらが良いかな?」
ゲーム知識を活用し、アクセサリーの利用法も伝授する。関心した様なハンスさんは販売時の金額についてボクに尋ねて来る。ゲームと同じ値段でも良いのだが、この世界の相場が同じか自信が無い。ボクは思い切ってハンスさんに聞き返す事にした。
「今の相場ってどの位なの?」
「う~ん、前に店で見た時は500Gだったと思うよ」
「なるほど……」
お金の単位はガルドで、単位に『G』と表記する。一番安いナイフや、低級の回復ポーションが100Gくらいとなる。物価が全然違うから比較が難しいけど、1Gは日本円だと10円程と思えば良い。
つまり、防毒のタリスマンは5,000円程の値段で売られている事になる。この辺りはゲームと同じ値段設定で安心した。
「そうだね……。他のお店に下ろすなら350Gで良いよ。露店とかで直接売るなら400Gにしといて」
「少し安めなんだね。そんな値段で良いのかい?」
ハンスさんは驚いた顔をしている。500Gで売れるのに勿体無いとでも考えているのだろう。しかし、ボクは首を振って苦笑する。
「お得感を出さないと、誰も買ってくれないよ? それに、ハンスさんは街に一週間しか滞在しないでしょ? 売れ残って、持って返られても困るしさ」
そう、街での滞在ではお金が掛かる。その為、ハンスさんは短期間だけ街へ出かけて買い出しと販売を行う。その期間は大体一週間と決めているらしい。その為、売れるタイミングでは必ず売ってしまうべきである。
「なるほどね~。それじゃあ、自分で400Gで売ってみて、売れ残ったら350Gでお店に流してしまうね」
「はい。それで大丈夫です」
ボクが満足気に頷くと、ハンスさんは嬉しそうに手元のメモに値段を書き込む。特に意見を言う訳でも無く、ボクの言い分通りに売ってくれる様だ。
ハンスさんとボクの交渉はこれで五度目になるけど、今ではすっかりボクの意見を信用してくれているらしい。
ちなみに、材料はボクが森で拾って来て、爺ちゃんが作ってくれた物だ。ボクと爺ちゃんの空き時間を除けば、元手は全く掛かっていない。
そして、防毒のタリスマンは二十個用意してるので、最低でも7,000Gが収入として入って来る。二割は委託料としてハンスさんに支払う事になるけど、軽く作った道具が5,000G以上なのだから良い副収入である。
「あ、それと回復ポーションはいくつ用意出来る? 賢者様のポーションは人気が高いから、あるだけ仕入れて欲しいって、商人ギルドから依頼されてるんだよね」
「そう言われると思って、100個用意してあるよ。爺ちゃんがついでに作った予備だから、これ以上の数は増やせないよ?」
「うんうん。それだけあれば十分だよ。これでボクもギルドのポイント稼ぎが出来るよ」
ギルドのポイントとは、メンバーに課せられるノルマの事である。商人ギルドは毎年一万Gを収めるか、ギルドの指定した依頼を達成して、ポイントを稼ぐ必要があるらしいのだ。
他のギルドだと、黒魔術師ギルドには特にノルマは無く、白魔術師ギルドは年に五度のボランティア参加が義務付けられてるらしい。
ちなみに、ボクの目指すネクロマンサーは上級職であり、メンバーの絶対数が少ない。その為、ギルドは存在しない設定になっていたはずだ。
「ギルド依頼だから、ポーションはいつも通り1個100Gね。それで、ボクの取り分として10Gを引いて、90Gを100個だから……」
「全部で9,000Gだね」
「そうそう。後で支払い費用を引いた分を持って来るね」
ボクが先に答えた事で、ハンスさんは少し恥ずかしそうにしている。ハンスさんは商人にも関わらず、計算が得意では無いのだ。ハンスさんは商品を確かめると、誤魔化すように急いで帰って行った。
……まあ、こちらも助かってるので、見える範囲では頑張ってフォローしよう。
ちなみに、ハンスさんとの売買は毎月行われている。そして、基本的には毎回5,000G程が余り、爺ちゃんの貯金となっている状況だ。
爺ちゃんは自分が亡くなった後の事を心配している節がある。なので、このお金はボクの為に貯めているのだろう。
正直に言えば、この村ではお金の使い道が余り無い。しかし、ボクはこの世界での成人となる十五歳になったら、一度はこの村を出て、世界を見て周るつもりだ。
爺ちゃんがいつまで元気かわからないけど、その時が来るまでに出来る限りの恩返しはしておかないとね。
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