第5話 アレク、収穫を手伝う

 周囲に沢山の木が生えている。そして、木には無数の赤い実が実っていた。それは、この村の名産品であるポムの実である。


「さあさあ、しっかりと頼むよ!」


「「「はい! わかりました!」」」


 中年男性が発する開始の合図。ボク達三人は、元気良く答える。


 三人とは、ボク、ギリー、ミーアの子供達だ。今のボク達は、ポムの実収穫の手伝いに来ている。


 ちなみに、中年男性はミーアの父親。赤毛の髪を持つ、爽やかなマッチョである。そして、彼はこの農園の経営者でもある。


 なお、この村にはポムの木がそこらに生えている。しかし、それらは村人がオヤツとして食べる分だ。この農園では、村の外へと出荷する分を栽培している。


 ボク達はミーア父の合図で、それぞれ散らばって行く。背中には篭を背負い、手には踏み台を持ち、対象となる木の元へ移動する。


 ポムの木は、さほど背の高い木では無い。精々が、成人男性が手を伸ばせば届く程度の高さだ。その為、踏み台を使えば、子供でも下半分は収穫が可能なのだ。


 そして、上半分はミーア父とミーア母が収穫する事になる。ミーアの元へはミーア母が、ボクの元にはミーア父が移動していた。


「うむうむ。やはり、アレク君は働き者だな」


「あはは、そうですか?」


 ミーア父は腕を組んで、満足気に頷いていた。頷いていないで手を動かせと言いたい。しかし、ボクは空気を読んで口を閉ざす。


「ふむ、アレク君はミーアと結婚する気は無いかね?」


「う~ん。結婚とか良くわからないですね~」


 相変わらずのストレートな質問だ。ボクは子供らしい返しで、その質問を回避する。


 しかし、ミーア父は諦めずに粘って来る。このマッチョは、この件に関して非常に諦めが悪い。


「ミーアは可愛いし、性格も良い。アレク君だって、ミーアの事は嫌いじゃ無いだろう?」


「うん。嫌いでは無いですよ」


「なら、難しく考える事は無いよ。ミーアもアレク君の事が好きみたいだしね。きっと将来は良い夫婦になるぞ?」


 マッチョは爽やかな笑顔を向けて来る。イケメン風に歯をキラッとさせる所が、逆にイラッとさせる。そして、「好きか?」では無く、「嫌いじゃないか?」と尋ねる辺りが嫌らしい。


 どう対処するか悩んでいると、向こうからミーアが駆けて来るのが見えた。どうやら、いつも通り、決着が着きそうだな。


「ちょっと、パパ! アレク君と何を話してるの!」


 ミーアは顔を真っ赤にし、目を吊り上げていた。マッチョの声は良く通るので、ミーアの元にも届いたのだろう。


 なお、ミーアは父親譲りの赤髪を持つ。また、髪は三つ編みにして、背中まで伸ばしている。顔立ちは母親似で、素朴ながらも人懐っこい雰囲気であった。


「うん? アレク君とミーアは、将来良い夫婦になるだろうって話しだよ」


「止めてって、いつも言ってるでしょ! 結婚なんて、私達にはまだ早いの!」


 ミーアは真っ赤な顔で父親を睨む。しかし、チラチラとボクの顔を見て、様子を伺っていた。


 照れた顔は可愛いが、残念ながらボクにロリコン属性は無い。十年後なら、破壊力は高そうと思うが。


「大丈夫。十年何て、あっという間だよ。それに、アレク君が別の女性と結婚なんて嫌だろう?」


「そ、それはそうだけど……」


 ミーアは俯いて、こちらを見つめて来る。気持ちは嬉しいが、その心配は不要である。


 この村にはミーア以外に、年の近い女の子はいない。村にいる女性は、全て五歳以上の開きがある。


「なら、早く捕まえておかないと。今から婚約何て良いんじゃないかな?」


「うう~。何でも良いから止めて! もう、パパ何て大っ嫌い!」


 ミーアは叫びながら、農園の奥へと駆けて行く。ミーア父はやれやれと肩を竦め、娘を追いかけ行った。


「うふふ。騒がしくてごめんなさいね?」


 二人と入れ替わる様に、ミーア母がやって来る。こちらは話しながらも、しっかりと手は動かしていた。


 ミーア母はブラウンの髪を後ろで縛っている。顔立ちはミーアに良く似ており、ミーアの将来はとても期待が持てそうである。


「二人とも、アレク君がとても好きなの。あ、勿論、私もアレク君の事が好きよ?」


「えっと、ありがとうございます……」


 ストレートに好きと言われると、やはり恥ずかしい物がある。


 しかも、彼女の年齢は二十五歳程で、柔らかな雰囲気を持つ。年上のお姉さんという感じで、少し憧れを感じる部分もあった。


「うふふ。急ぐ必要は無いけど、私もミーアと結婚してくれたら嬉しいわ。その気になったら、いつでも声を掛けてね。全力で応援するから!」


「あ、はい……」


 ミーア母の笑みは柔らかな物である。しかし、その目は完全に猛禽類の目だ。どうやら、両親揃ってロックオンされてるらしい。


 ボクはふと気になって、ギリーの方に目を向けた。すっかり忘れられた兄弟は、一人で黙々と収穫作業を続けている。


 その背中は、気持ち丸まって見えた。こちらから顔は見えないが、今の状況は理解しているのだろう。


「ギリー……」


 兄弟の気持ちを思い、ボクは涙が溢れそうになる。ボクはグッと涙を堪え、収穫作業に戻る事にした。


 そして、今日の報酬は全てギリーに譲る事を心に誓うのだった。

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