コドラ――4話
青い炎は広がり続け、魔物はいくら倒してもキリがないくらいに増えている。それでも止まらずに武器を振るうゲンたちは、驚愕の表情で青炎龍を見上げた。
そこへ落ちていくキビキは自分の姿がどうなっているのか、自分の体のどこかに魔物石があるのか、受け入れてもらえるのかという事ばかりを考えている。
そんな自分がとても汚く思えて、キビキは受け身もとらずに落ちる。
しかし痛みは感じなかった。
「大丈夫?」
男の姿になったヒエイがキビキを受け止めて聞く。
「あ、あぁ……」
「あの青い龍なに? それよりあの白龍……あの龍は味方なの?」
ヒエイが怯えた顔で空を見上げる。
「なに言ってんだ。ちょっと大きさが違うけどコドラじゃねぇか」
「コドラ⁉ あの白龍ってコドラなの⁉」
そんな風にヒエイは、いつも通りに話してくれた。そこでようやく、不安を振り払って立ち上がるキビキ。
そこに話を聞こうとゲンたちが集まって来た。
暴れる魔物を切り伏せながらゲンが聞く。
「ありゃあどういう事だ」
「青炎龍だ。千年前から地下の社で祈りを捧げてた巫女だよ」
「千年だと?」
「あぁ。青い炎もあいつの祈りが生んだものらしい」
そしてキビキはさっき見た映像、聞いた言葉、コドラの話を皆に伝える。
「しかし、倒せるかも分からないのに、青炎龍を助けるなんてできるのでしょうか?」
冷や汗を流すアワタが呟いた。その言葉に誰も反論できない。
「それから、もう周りの国は大槍やら大砲やらを酔いどれ森に向けてるぞ」
疲れて見上げた戦場の空。そこには青炎龍と戦う天馬たちの姿があった。しかしモロコの姿が見えない。
「モロコはどこだ?」
「あいつなら、援軍を呼ぶと言って天馬に乗って行ったぞ」
ゲンが答える。その目はしっかりとキビキを見ている。
「そうか。じゃあそれまで頑張らないとな」
キビキは言いながら走り出した。暴れる魔物たちを足場に、空の青炎龍に手を伸ばす。負けてはいけない。仲間のためにも、千年も祈り続けた巫女のためにも。
強い思いで伸ばした手はあと少しで届かない。けれどシラハナがキビキを背に乗せた。
「シラハナ! まだ完全に治ってもねぇのに何やってんだ⁉」
「僕だって神の風たる天馬ですよ。ここで戦わなければ名折れです」
「そうかよ……。そんじゃあ、あの龍を叩き落すぞ」
「了解です!」
シラハナがコドラと青炎龍の真上に着くと、キビキはコドラに「落す」と告げる。そしてコドラと天馬たちと息を合わせて青炎龍を葡萄酒の湖があった大きな穴の中に落とす。
落ちながら青炎龍は暗く重たいヘドロを吐いた。
酔いどれ森の外に被害が広がらないようにと、コドラが囲い川の水を防壁のように立ち上がらせた。
青炎龍が落ちた衝撃で赤い水飛沫が降る。
滴るほどの魔素を吸った魔物石を心臓として持つ魔物たちは、雷雲を呼び雷を轟かせた。
それでも地下から溢れる魔素は尽きる様子もない。
「おい、コドラ! どう戦ったらいい?」
ゲンが聞くが、コドラは首を横に振る。
「分からぬ。前の時の記憶が曖昧にしか残っておらぬのだ。すまんな」
誰もが溜め息を吐く。そこでヨネジが言った。
「酔いどれ森に水壁が現れ、大災害を知らせる。青炎に人々が呆然と立ち尽くす時、魔物たちは牙を剥くだろう。陽は隠され雷雨が責める。やがて生きる希望は残らず洗い流された。けれど青炎の中に光り輝く雹が降れば、大災害はようやく収束するだろう」
「それは?」
キビキが聞くとヨネジは、キビキの事が書いてあった日記の中の一文だという。
「しかし光り輝く雹が何なのかさっぱり分からんのぉ」
「雹なら私が降らせる事ができるが、やるか?」
コドラは言うが、それでどうやってこの事態を治めればいいのか見当もつかない。
そこへ声が聞こえて来た。
「サツマさん!」
いつかシラハナの件でキビキと一緒に戦ったサツマの部下だ。そいつが数人の仲間と共にやって来たのだ。
けれど人数が十人にも満たない所を見ると、アズマ国は及び腰なのだろう。
無邪気にも思える様子で彼らは真っ直ぐにサツマの元に走り寄る。
けれど落ちた青炎龍が立ち直り、頭をもたげた。急なことに腰を抜かす彼らに、その強靭な爪が襲い掛かる。
「避けろ!」
サツマが叫んで走り出すが、人間の足では間に合わない。
だからキビキは急いだ。文字通り飛ぶように走る。勢いよく飛びかかるキビキを振り払う青炎龍。けれど彼らを爪から守る事はできた。
その代わりに青炎龍の敵意の全てはキビキに向かう。
「女の顔を殴るなんて最低だけど、許してくれよな」
キビキは鬼のように大きくゴツゴツとした体で、宝石に覆われた腕で自分よりずっと大きな龍に殴りかかる。
体のほとんどが崩れた湖の中にあって足元が不安定な青炎龍は、キビキの拳を受け止める事しかできなかった。
それでも、雷鳴と間違うような悲鳴をあげても、青炎龍はキビキを飲み込んだ。
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