ヨネジの事情――5話
「俺は……もう鬼だし、いや、そうじゃなくて……。別に怒ってないよ。本当の事が知れて良かったと思ってるだけだ。だから、あんたが責任を取る事ないだろう」
「有り難いお言葉ですが、これはシラハ城の末裔としての責任ではありません。ただ老いぼれが、あなたに生きる意味を見出したのでございます」
ヨネジは迷わずにそう答えた。
「そういう事なら……ありがとう。嬉しいよ」
キビキがそう言うと、やっとヨネジは顔を上げた。
「そんでさ、今までみたいに喋ってくれると助かるんだけど」
キビキが言うと、ヨネジはくしゃっと笑った。それから「ではそうしようかのぉ」と返事をして立ち上がる。
過去が消えた訳ではないけれど、苦しみぬいた年月が無くなる訳ではないけれど、それでもキビキは暖かさを感じていた。
「それにな、寿命で死なせてもらえると思うなよ」
倒したばかりの大木を切りながらゲンが言う。
「ワシもお前さんらと同じようになると言うのかのぉ? 珍しい事がそうポンポン起こるとは思えんがなぁ」
「ふん。俺はそう思って酔いどれ森に入ってもう二百年になる」
ゲンの言葉に、キビキとヨネジと三人で笑う。
「さて、本格的にこの酔いどれ森に住むのじゃから、テント暮らしもやめにせんとのぉ」
「家でも建てるか? それならいい木材が手に入ったぞ」
顎に手を当てて考え込むヨネジに、ゲンが言った。
そうして家の場所を、にごり酒の森と内山の間の清酒川の分かれ目辺りに決めてそのまま家づくりに取り掛かる事にした。
いつの間にかキビキには仲間がいて、側にいたいと言ってくれる人もいる。もう必要のないご飯を一緒に食べてくれる人もいるのだ。
そうしていつも誰かしら側いたはずなのに、どうして寂しいなんて思っていたのだろうとキビキは少し恥ずかしく思う。
それは本当の自分を見せようとしなかったからかもしれないし、見た目で判断してしまう人間の性質のせいかもしれない。それでも自分が動けば何かが変わる。キビキは今それに気付いた。
そうして三人でバタバタとしているとヒエイとモロコが起きて来て、それから神官のアワタと魔剣士のサツマも様子を見に来た。
今回の霧のせいか、キビキの肌には今朝よりも鉱石が増えている。二本の角は太く長く伸び、間違っても人間には見えない。
それでも集まって来た人たちは何も変わらず笑っている。
そこへコドラがやって来た。
「私が頼んだというのに、すまなかった。いなくなってしまって。しかし問題はなかったようだな」
「問題あるだろう。見ろ、この角。また伸びちまったんだぞ。それにこの足を見ろよ!」
「ほぅ。今回は銀か。美しいではないか」
「そうじゃないだろう! ていうか、コドラどこに行ってたんだよ?」
「ん? あぁ、そうだな……それよりお前たちは何を作っているのだ?」
「ヨネジのオッサンの家だよ」
酔いどれ森ははぐれ者たちの集う森。言えない事も隠したい事もある者たちばかりがそこに暮らしている。
だからキビキは、はぐらかされた事に気付いても追及しないのだ。
そうして皆でまた笑う。
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