2回戦 三塚高校戦

58話 ケルベロス

 2回戦。

 98校がエントリーした大会。


 シード校を除くチーム達が戦い、3分の1のチームが甲子園の夢を終え、ベスト64校となる。

 これから私立高校中心とした昨年結果を残したシード校が参戦してくる。


 シードの山の下にいた松尾高校は昨年ベスト8の強豪校、三塚高校と対戦することになる。


 そして、平日。真田は自陣の観客席を見るが、当然七海の姿はもちろん、在学生の応援はいない。数十名のわずかな部員と大人がメガホンを持って、がやがやしている。


「そーれ、いけいけ三塚、押せ押せ三塚。そーれ」

 相手側のスタンドはベンチ入りできなかった倍以上のメンバーと、その親御さんや野球が好きそうなおじさんたちがいっぱいにいた。


「なになに、応援がいなくて寂しい?」

 恋がポンっと肩を叩いて、隣を歩く。


「別にそんなことはないよ。試合に入れば応援なんてほとんど聞こえないし。それよりも、恋の方が心配だけど?マウンドで相手に呑まれないでよ?」

「私は大丈夫よ。マウンドでは朗のミットに思いっきり投げることしか考えてないから」

 恋が嬉しそうに笑う。


「・・・ちゃんと、フォークとストレートで見分けがつかないように投げるのとか、打球処理忘れないでよ」

 真田も照れ臭そうに注意する。


「は~い」

「なんだよ」

「べっつに~。にしししっ」

 にやにやしながらする恋。


「あっ、まさかあいつのこと考えてないでしょうね?」

「えっ、別に。七海さんのことなんか・・・」

「あ~やっぱり!むー、むー、むー!!」

「怖い、怖い。っていうか、顔が近い、近いよ~」

 二人はじゃれ合いながらベンチに向かう。

 

 矢沢や小松はその後ろ姿をスタンドから見る。

「頑張れよ、真田!!赤坂!!」

 矢沢は『2』と『18』の背中にエールを送る。




 三塚高校ベンチ―――


「おい、ワタル兄ぃ。俺のリストバンド知らね?」

「知らん」

 強気そうな目をした男、犬飼カケルが兄の犬飼ワタルに声を掛けながら、自分のバックを漁る。似たような眉毛をしたワタルが父親のように腕を組みながら見守る。


「おっあった、あった」

 嬉しそうにカケルはリストバンドを付ける。


「お前は・・・全く」

 呆れるワタル。


「兄ちゃんたち、僕のグラブ知らない?」

 二人よりも大きく190㎝近くそうなありそうな男がベンチをオドオドしながらウロチョロする。


「ノボル、お前はもう少し落ち着け。ほらっ、ここにあるじゃねぇか」

 カケルが見つけたグラブをノボルに投げて渡す。


「うわぁ、良かった~。ありがとうカケル兄ちゃん」


「まったく・・・」

 またしても、呆れるワタル。


「はははっ、全く犬飼3は騒がしいなぁ」

『一球入魂』と刺繍された投手用のグローブを手入れしながら、鼻歌を歌う男、鳥谷隼人が3兄弟のやり取りを見て笑う。


「俺を混ぜるな、隼人」

「へいへ~い」

 長男のワタルがツッコミを入れると、隼人はニヤニヤしながら返事をする。


 隼人は相手ベンチを見る。

「さてさて、犬飼家の至宝ノボルちゃんのデビュー戦。華々しく援護してやりますか」

「そっ、そんなプレッシャーかけないでくださいよぉ、隼人先輩」

「はははっ」

 ベンチが笑いに包まれる。


「だが、事実だ」

 長男ワタルが言う。


「えっ」

「おい、ノボル。緊張すんなよ?ワタル兄ぃと3人できる最初で最後の大会だ。兄貴を簡単に引退させんじゃねーぞ」

 次男カケルが吹っ掛けながら、ノボルの右から肩を組む。


「ふぇ。そんなの僕に言われたって」

 三男のノボルの顔から血の気が引く。


「楽しもうや、カケル、ノボル」

 ワタルがノボルの左から肩を組む。


「おう」

「・・・うん!」

「お前ら~最高だぜ!!」

 隼人が後ろから三人に飛びつく。


「こら、お前たち。そろそろ集中しろ。格下でも足元をすくわれぞ」

 橋場監督が4人を注意する。齢70歳。白髪と威厳のある顔立ち。『足は嘘をつかない』をモットーに三塚高校をベスト8常連にまで導いた監督である。


「はいっ!!」

 気合が入った三兄弟と隼人。そして、ベンチにいる全員が強豪校らしい統制された返事をする。


 両チームのオーダーが交換され、両陣営の監督が確認をする。


 両チームオーダー

 先攻 松尾高校

1番 センター   村上 (右投左打)

2番 キャッチャー 真田 (左投左打)

3番 レフト    小林大(右投右打)

4番 ライト    鈴木 (右投右打)

5番 ファースト  郷田 (右投右打)

6番 ピッチャー  赤坂 (左投左打)

7番 サード    橋田 (右投右打)

8番 セカンド   江頭 (右投右打)

9番 ショート   馬場 (右投右打)


 後攻 三塚高校

1番 センター   犬飼渡(左投左打)

2番 セカンド   平良 (右投左打)

3番 キャッチャー 犬飼駆(右投左打)

4番 ファースト  夜神 (左投左打)

5番 ライト    犬飼登(右投右打)

6番 キャッチャー 須田 (右投左打)

7番 サード    安藤 (右投左打)

8番 ショート   倉橋 (右投右打)

9番 ピッチャー  鳥谷 (右投右打)


 松尾高校佐藤先生は真田、恋、村上の1年生三人をスタメン起用することを選択した。守備ではセンターラインを任せ、打順も1番、2番、6番と攻守ともに要に置いた。三人のデビュー戦ではあったが、その役割に伴った活躍をしてくれると佐藤先生は信じた。


 三人はデビュー戦で強豪校、三塚高校に挑む。

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