55話 グラウンド外の虹

「一年生、荷物。忘れるなよ」

「はいっ」

 橋田の言葉に矢沢を含めた一年生がクーラーボックスなどを抱えて返事する。


「バスはあるんですね。私立みたいに」

 真田が郷田に尋ねる。


「まぁ、進学校だからな。OBの先輩達には政治家や医者、どこぞの代表取締役やSEとかでがっつり稼いで、寄付してくださることもあるからな」

「すごいですね。でも・・・結構古い?」

「とはいえ、あんまり勝ち上がれねぇから、寄付するときはドカンとしてくれるが、寄付してもらえる時はあんまりない」

「ナルホド」

「さぁ、そろそろ乗り込むぞ」

「はいっ」

 郷田もようやく真田を仲間と認めつつあった。それが真田もわかって嬉しそうに郷田に着いていく。


 ―――長野オリンピック公園球場


「やっぱり・・・皆怖いね」

 小松が呟き、矢沢の腕の袖をつまむ。


「あぁ、やっぱり。どこも三年生は体がでけぇし、眉毛もイカちーな」

「うん・・・」

 矢沢は大会のしおりを取り出す。


「1回戦は・・・松岡穂積高校。南信の高校か」

「そこって強いのかな」

「んーとっ」

 スマホで去年の大会成績を検索し、それを小松がのぞき込む。


「去年はうちと同じで1回戦敗退みたいだし、去年のスコアを見ると・・・まぁ、いけんじゃねーか」

 松岡穂積高校は昨年椎菜高校に10対2で負けていた。


「おおー」

「なにが、おおーだ。お前ら」

 3年の鈴木が突っ込みを入れる。


「すっすいません」

 反射的に二人は謝る。


「さっ、行くぞ」

「はいっ!」

 そんな二人の顔を見て、体格のいい鈴木は微笑む。


 開会式が終わり、前の試合を観戦していた真田たちはグラウンドに降りる。

 

「ちゃお」

「あっ」

 真田がフェンス近くを歩いていると、フェンス越しに七海が声を掛ける。


「久しぶり」

「だね」

 七海がにこっとする。


「その恰好・・・」

 真田が指を差す。

 七海はチアリーディングのユニフォームを着ていた。


「どう?似合う?」

 七海は一回転する。スカートがふわっとする。下にスパッツを履いているとわかっていても、そのスカートの中身に目線を奪われる真田。振り返った七海はニヤニヤしてそんな真田を見ている。


「どこみてーんの、エッチ」

「えっ、別に、どこも見てないよっ」

「ほんとにぃ~?」

 意地悪な笑みを浮かべながら七海が見る。

 真田は俯く。


「似合ってるねっ。それ」

 今度は七海が真田の胸を指さす。


「あっ、ありがと」

 七海は少し俯いて、すぐに顔を上げる。


「それで、朗君は試合に出るの」

「んー、機会があれば・・・かな」

 真田は自然と視線を逸らして、先輩達を見る。郷田や持田、橋田達は気合が入った顔をしている。


「なーんだ、つまんないの」

「ハハハッ・・・」

 乾いた笑いしかできない真田。


「じゃあさ、私の応援を応援してよ」

「はい?」

「だから、私頑張って応援するから、その私を応援して?」

「ちょっと、意味がわからないんだけど」

「えー、暇でしょ。真田きゅん」

「いやいや、先輩達応援しないと。同じチームなんだから」

「同じチーム・・・ね。ふ~ん」

 含みを持たせた言い方をする七海。


「なに、その意味深な言い方」

「べっつにーなんでもないよー」

 七海はわざとらしく言う。


「でも、私の方が見てて面白いと思うよ」

 七海が腰を逸らしてお尻を突き出し、セクシーポーズを取る。

 それを見て、真田は少し赤くなる。


「それに、応援しても、しなくても、4対2くらいで勝つんじゃない」

「えっ」

「じゃ、私行くねぇ。じゃあねぇ~」

 そう言って七海が階段を登っていく。


「それっ」

 3、4段登ったところで真田が呼び止めるので、七海が振り返る。


「そのチアの服。すごい・・・似合ってるよ」

 真田は少し照れながら、七海を褒める。


「また、キャッチボールしようね」

 七海は嬉しそうに女の子らしいはにかんだ笑顔を返した。

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