54話 スタメン発表

「・・・以上です」

 佐藤先生がスターティングメンバ―とベンチメンバーを発表する。


 悔しがる3年生。

 残念がる1、2年生。

 それを見て、決心した顔をする選ばれたメンバー。


 真田は自分が手にした、『2番』の背番号を見つめ、周りを見る。

 小松と矢沢は俯いている。

 矢沢は何も掴めなかった拳を強く握っていた。

 それを見て、真田は切なそうに目を閉じた。

 

 恋もまた何とも言い難い顔をしていた。

 『18番』の背番号を持って。


 ―――帰り道


 真田、恋、矢沢、小松の4人で歩く。

「よっ良かったね。赤坂さん、真田君」

 小松が二人に話しかける。


「ありがとう、小松君」

「うん」

 感謝を伝える真田と上の空の恋。

 真田は横目で恋を見る。


「二人とも、別格の実力持ってるもん。頑張ってね!!精いっぱい、グラウンドの・・・外で応援するから」

 小松は笑顔を作る。


「やっぱ、打てなかったのがいけなかったか・・・」

 矢沢がぼーっと呟く。


「矢沢・・・」

「守備ではアピールできたつもりでいた・・・けどさ・・・」

「ノーヒット。それも、内容も良くなかった」

「真田君・・・」

 小松が困った顔をする。


「矢沢の守備で稼げるアウトカウントより、1点に関われる選手が欲しいんじゃないかな」

「・・・わかってる」

「うん」

「真田君、それくらいで・・・」

 小松が止めようとする。


 真田は矢沢の顔を見る。

 そして、残念そうな顔をする。


「・・・そうだね」

 真田はそれ以上言うのを止めた。

 

「僕、先に帰るね。ばいば~い」

 真田は駆け足で、3人の先へ行く。


「わっ、私も先に行くね」

 恋も駆け足で立ち去る。


「ちょっ、二人とも」

 小松が追おうともするが、凹んだ矢沢も放っておけなかった。


「朗」

 恋が真田に追いつく。


「えっ、着いてきちゃったの?」

 真田のリアクションがあまり良くなかったが、恋は気づかない振りをして、笑顔で答える。


「そうだよ~」

「そう」

 真田は恋を置いて行こうかとも思ったが、諦めたかのように一緒に歩く。


「とりあえずおめでと」

 恋が真田の顔色を伺いながら、声を掛ける。


「んっ、あぁ。ありがとう」

 真田は愛想のない顔で返事をする。


「やっぱり、朗は凄いね」

「何が?」

「えっ、だって先輩たちを抑えて一桁の番号」

「んー、それは凄さじゃないと思う」

「どういうこと?」

「まぁ、実績を評価されたってとこもあるけどね。でも一番はこの2番って言う数字が先輩たちに指示するのに有効だからだと思ってる」

 真田は背番号が入っている自分のバックを軽く叩く。


「これは、佐藤せんせ・・・監督が僕を評価したって証。僕だけの言葉じゃ説得力が無くても監督のお墨付きがあれば・・・っていう佐藤監督がくれた水戸黄門の印籠みたいな感じじゃないかな」

「んー、朗。難しく考えすぎじゃない。意味がよくわかんないし」

「ちなみに、恋の背番号の18番の意味はわかる?」

 恋がぴくっとした。


「ほら、納得してないじゃん。恋は持田先輩じゃなくて自分こそが1番に相応しいと思ってたでしょ」

「だって、だって・・・」

「僕も1番いいピッチャーは恋だと思ってるよ」

「えっ」

 否定されたと思ったら今度は褒められて、恋は困惑してどんな顔をすればいいのかわからなくなる。


「恋と持田先輩。どっちが1番を背負った方がチームは強い?」

「えっ」

「質問を変えようか。最後の大会、エース番号を1年生に奪われた3年生ピッチャーとエース番号を背負った3年生。どっちが強い?」

「それは・・・エース番号を背負った3年生でしょ。奪われるようなピッチャーダメでしょ」


「うーん、僕の国語力がないのかな。じゃあシンプルに同じ選手で背番号が1番か18番ならどっちが強いピッチャーだと思う?」

「それは・・・おんなっ」

「僕は1番だと思うよ」

 真田が恋の回答にしびれを切らしてかぶせ気味に話す。


「ゲームじゃないんだからさ。君だって気持ちで投げるピッチャーだと思ったけど」

「うん」

 それは当然だという顔を恋がする。


「恋よりも持田先輩が1番に対しての想い入れも強いし、1番を背負った方が、力を出せる」

「私だって、1番付けたほうが・・・」

「君の夢は?」

 真田が見つめる。


「・・・160キロ投げることと、甲子園優勝投手になって朗に高い、高~いしてもらうこと」

「あっ、僕っていう固有名詞出て来るんだ」

「朗、さっきから回りくどい」

「ごめんごめん」

 真田は笑う。


「恋はさ、背番号に振り回されずに自分の持ってる良い球投げられると思うんだ。けど、これは僕の推測だけど持田先輩は違う。松尾高校でエースナンバーを背負って、仲間たちと一緒に最後の大会ができたら、勝てたら、とかってなるんじゃないかな」

「なんとなく・・・わかってきたかも」

「よかった」

 恋は感心する。


「でも・・・」

 真田はまた悲しそうな顔をする。


「でも?」

 恋は尋ねる。


「それじゃ、甲子園には行けない」

「なんで?」

「野球をやれることで満足しちゃうから。やっぱり、甲子園を目指さないと」

「うちだって、甲子園って目標掲げてるじゃん」

「それはただ言ってるだけ。とりあえず、甲子園って言う野球部、球児なんてごまんといるよね」

「んー」

 恋は、どうやら真田の機嫌が悪いことをうすうす気づき始めた。


「松尾高校は進学校。勉強にウエイトを置いている部員も多いじゃん。矢沢だって・・・。うん。口だけとは言わないけど、中学の時は矢沢とは野球以外のところで仲良くいたかったし、あいつも一緒に野球をして青春することが目的な気がしちゃってさ。本気で甲子園を目指しているのってさ・・・」

 自分だけ、そう言おうとした真田。


「ここにいるじゃん」

 恋が自分を指さす。


「ここと、ここ」

 自分と真田を差す。


「朗は悩みすぎ。私が完封して、朗がホームラン打つ。それで勝てるじゃん」

 真顔な恋。真田はぽかーんと見ていたが、自分が色々考えているのば馬鹿馬鹿しくなる。

 

「僕、ホームランバッターじゃないけど・・・」

「じゃあ、私が完封してホームラン打つ」

「恋だけ活躍するのは嫌だ、僕もホームランを打つ」

 真田はすっと出てきた言葉に自分でもびっくりした。


「しししっ。じゃあ頑張って」

 恋が笑うのを見て、真田も釣られて笑う。


「なんだよ、それ」

「伝わると思うよ」

「えっ」

「朗の気持ち。そのためにも大会、頑張ろうね。私も難しい話はわかんなかったけど、18番でもやることは一緒だってわかったから。思いっきり投げるね」

 恋が真田を鼓舞するように左手の拳を真田に向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る