本大会スタートライン(1年生)

53話 佐藤ノート

 カタカタカタッ


 パソコンを前に佐藤先生が文字や数字を入力していく。今年から野球部の監督になったとはいえ、生徒達、特に3年生にとっては最後のチャンス。言い訳せずに声掛けと責任を持った行動をしようと佐藤先生は気合を入れていた。


『ベンチ入りメンバー20人。

 スターティングメンバーはそのポジションで一番うまい選手。


 ベンチ入りメンバーは・・・

 次にうまい選手?

 それとも一芸に秀でた選手?

 多くのポジションを守れる選手?

 それとも・・・


 ピッチャー

 心身ともに一番負担がかかるポジション。試合を作るポジション。

 進学校で学力があって、しっかりしていても、彼らは学生・・・

 体も心も未完成。

 調子の悪い日だって、ありうる。

 ・・・そうなると、4人は欲しいか。


 3年生、持田君 右投げ右打ち

 医大を目指す彼は、心身ともにほぼ完成されている。

 切り替えもしっかりできるし、大崩れはしない。

 チームの柱に成長してくれた一人。


 1年生、赤坂さん 左投げ左打ち

 おそらくこのチーム1の才能の持ち主。

 唯一の女性部員。

 性格は子どもっぽいところもあるけれど、前向き。

 彼女という才能を指導者として導けるか・・・。

 彼女の活躍を見れば、きっと来年には女子部員が増えるかもしれない。

 他の先生から授業中寝ているとの報告あり。

 教師として勉強や心の面をしっかり指導したい。

 打撃もムラがあるけれど、魅力的なバッティング。


 2年生、立野君 右投げ右打ち

 学業はそつなくこなしている。

 野球もそつなくこなすが、気持ちが入らない時もパラパラ。

 彼には目標、役割を持つ充実感を教えていきたい』


「あと、一人くらい・・・いないかしら」


 佐藤は前に記録した『星川七海』の場所で止める。

「真田君みたいに、上手く勧誘できないかしら」

 様々書き込んだ七海のページをじーっと見つめいた佐藤先生だったが、キーボードを押していく。


 タンッ、タンッ、タンッ、タンッ


 Deleteボタンだけを何度も押して、文字をゆっくり消していく。

 まとめて、全選択をして消すこともできたが、思い出を噛みしめるようにゆっくりと、少しずつ消していった。


「真田君が、できるって言ってたけど・・・」

 背中を椅子の背もたれにもたれ掛って、伸ばす。

「まー、そこまで考えても、勝てるか・・・。でもでも、監督の私が諦めていても駄目だし~、う~ん」


 もう一度、パソコンにかじりつく。

「とりあえず、次々」


『キャッチャー

 扇の要。フィールド上のブレイン。私の指示をしっかり全員に伝えられる選手。

 精神的支柱。


 1年生、真田君 左投げ左打ち

 1年生にして一番完成されている選手?

 中学で全国大会優勝。その実績に相応しい野球IQと実力。

 彼を正捕手にして攻守の軸にしたい。

 ただ、左投げでキャッチャーをこのままやらせてもいいのか・・・。本人ともじっくり話たいけれど、今大会はキャッチャーで起用したい。

 ただ、完成されているが故に、自分の限界に苦悩したり、ひねくれているところも。

 まだ1年生で、十二分に伸びる余地があることを伝えていきたい。

 また、そのキャリアは私を上回る考え方を持っていて、突っ走る部分もあるけれど、しっかりリード、ケアしていきたい。


 2年生、郷田君 右投げ右打ち

 キャッチング、バッティングは部内でもトップクラス。

 責任感があり、周りへの気配りもできる選手。

 真田君が入って自信が無くなってきているけど、うちの部では欠かせない存在。

 キャッチャーは真田君。バックアップで郷田君にお願いしたいけれど、バッティングを活かすため彼はファーストで使いたい。


 ファースト

 捕球力。

 郷田君

 上記に同じ。


 橋田君が今までファーストを務めてきたので、バックアップは橋田君か?』


『サード

 打球反応。打撃力・・・

 

 3年生、橋田君 右投げ右打ち

 このチームの主軸。

 全学年からの信頼が厚い存在。

 ・・・・・・・・


 セカンド

 内野守備のブレイン・・・

 

 3年生、江頭君 右投げ右打ち

 落ち着き・器用。身体能力がもう少し欲しいが・・・


 ショート

 守備が一番うまい選手。足、肩、反応などセンス・身体能力が求められる。

 うちのチームの一番の課題・・・

 

 3年生、馬場君 右投げ右打ち

 安定した守備。身体能力と落ち着きがもう少し欲しい・・・


 ライト

 打撃力、肩・・・

 

 3年生、鈴木君 右投げ右打ち

 打撃の主軸。

 安定したプレー・・・


 センター・・・』

 

 佐藤先生が手を止める。

「やっぱり、センターラインが弱いわね」

 村上と書こうとしたが、小林淳と書き込む。


『センター

 脚力。守備範囲・・・

 3年生、小林淳君 右投げ右打ち

 堅実な守備・・・


 1年生、村上君 右投げ左打ち?

 足は部内№1だが、まだ心の面の成長が乏しい。

 彼なりに勝利に対しての姿勢は評価できるが、周りの部員に理解されていない状況下では、士気が下がるか。代走要員として経験を積ませるべきか・・・それとも。


 レフト

 打撃力・・・

 小林大翔。

 試合でも勝負強いバッティング・・・』


「うちのチームで左右のピッチャーによって変えるまでの戦力はないし・・・基本的にはスターティングメンバ―は固定・・・しようかしら」

 ただ、3年生を出してあげたい親心と1、2年生に経験に経験を積ませたい気持ちで揺れ動く佐藤先生。


「さて・・・ベンチメンバーをどうしようかしら」

 佐藤先生は、矢沢や村上、小松など1年生のメモと、2、3年生のメモを見比べながら、頭を抱えていた。

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