10話 晴れ舞台
「選手交代、代打でお願いします」
佐藤先生が手で真田に代わるジェスチャーをする。
「お願いします」
「おっ」
真田が打席に立つのを見て、諏訪門天の小宮が反応する。
真田は得点板を見る。5回表。6対0。
真田はランナーを見る。1塁と2塁。ちらっとベンチを見る。恋は頭にタオルを被りながら真田を見ている。真田は恋にバットを向ける。
「げげっ」
小宮が反応する。
「タイム、タイム!」
(小宮がいたか)
真田は素振りを始める。
(にしても・・・)
真田はランナーを見る。橋田と郷田が唖然とした顔で立っている。
(あんなに守備の時は死んだような顔してたのに・・・)
2人は殺意のこもった目をして、真田を見る。
(打たなきゃ殺されるかもな)
「サンキューな、小宮。でも大丈夫だぞ。ランナー二人でも2アウト」
「いや、それもあるんですけど、違うんす。真田なんです、あいつ。真田なんです」
ピッチャーの佐々木が小宮の髪をくしゃくしゃするが、必死に小宮が訴える。
「真田?」
キャッチャーが訝しげに首を傾ける。
「そーっすよ、真田です。俺と同じリトルの」
「それでも、俺は3年のこの諏訪門天のエースだ。お前の守備のセンスは知っているが、それでもまだ俺ら3年にしたら粗削り。1年にはまだ負けないぜ」
「でも・・・あいつがベンチにバットを向けるのは・・・」
「まぁ、任せろ」
キャッチャーが小宮の肩をポンと叩いて、バッテリーも他の先輩も守備の定位置に付く。
小宮も諦めてセカンドへ走り出す。
「おい、あいつは何をやってるんだ?」
諏訪門天のベンチの選手が小宮を見て呟く。
「監督、小宮。あんなに下がってますけど、どうしますか」
「まぁ・・・あいつがそう判断したなら、任せよう」
小宮はセカンドの定位置よりもだいぶ下がっている。
「小宮ぁ・・・」
佐々木はちらっと小宮を見て呟くが、小宮は帽子を深く被り目を合わせない。
キャッチャーがほっとけと身振り手振りで佐々木を促す。
「2アウト。プレー」
審判の声を聞いて、「お願いします」と左バッターボックスに真田は立つ。
「あれっ、野球やってんじゃん、ファースト少年」
ひらりひらりと風に舞うスポーティーなスカート。胸には
「MATSUO」と書かれているチアリーディングのユニフォーム。
金髪の髪をリボンで縛り、ほんのり化粧をしていて頬が赤くなっている。
「ちょっと、ななみん。早く準備して」
「ん~、ちょっと無理」
七海を呼んだ同級生は何か言おうとしたけれど、諦めた顔をして、
「・・・先に行ってるからね」
「は~い、ごめんね~千佳」
「先輩に怒られても知らないからね」
七海に聞こえるか聞こえないかわからないくらいの声で呟いた千佳の声は、どちらにしても集中し始めた七海の耳には入らなかった。
佐々木はマウンドを足でならして、投球モーションに入る。
振りかぶって投げる。
カッキーーンッ
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