2話 踏みにじる努力
ジリリリリリリrrrr
バッ、バッ。
布団を叩いて、真田はスマホを探し、手で見つけると、スマホをみることなく、指で画面を押し、アラームを止める。
5時30分。
「やっべ」
(一回目の5時のアラームに全く気付かなかった)
真田は無意識に、昨日貰ったボールを見てしまう。
「さてさて、ダッシュを削るか」
着替えて、張り紙の前に立つ。
「全ては自分のために」
真田は声を出して気合を入れる。
そして、部屋から出て行った。
張り紙には「みんな」が×がされて「自分」に書き換えられていた。
そんな中、人が通ることがないはずの場所であるその場所に人の肩幅ほどを少し狭くした2つの直線には一切の草が生えていなかった。そこを踏みつけるだけために現れる男がいた。
それが、真田だ。
目を閉じて、その場で素早く足踏みを行い、少しずつ進む。
雪解けが始まって間もない直線は、少し柔らかくなっており、柔らかさは場所によって異なるため、真田の足を奪う。
「へへっ」
その感覚を楽しむように真田は足踏みを行い、数十メートル同じことをしたのち、目を開き、自分の場所を見る。
「よし」
自分が直線に進んでいることを確認して、満面な笑みになる。
どこぞの老人は自分の子どもに言った。
「お前らはあの土地を手入れする気がないのは知っておる。手放したいのも知っておる。わしが死んだ後に売っぱらおうがどうしようが構わんが、一つ・・・相続させるのに条件がある。手放すまでは
その老人の笑顔の残像が真田の瞼の裏に残っている。
「そろそろ行こうかな」
真田はひと汗かくと、自宅や学校とは逆方向の林に奥に歩いていく。
「八坂じいちゃん、今日も使わせてもらいました。ありがとうございました」
そこには、「八坂團十郎」と書いてある黒い墓があった。真田は手を合わせて目を閉じる。
真田は目を開ける。
「でも、辛いよ」
つーっと、右の瞳に涙が溜まるのを慌てて右腕の袖でふく。
もう一度、手を合わせて目を閉じる。
「今度、陸上の大会があるんだ。そこで、結果を出すから。じいちゃんに教わったことを出し切るから」
目を開けて真田は時計を見る。
「やべ、そろそろ行くか」
真田は草むらを後にした。
その草むらを使うのは八坂團十郎が亡くなった後、使っているのは真田朗だけだった。そして、今使われているのはその二本の踏みならした線のみ。
しかし、他にも少し草むらが薄い部分もあった。その場所も同じように人間によって踏みならされており、地面が硬く草が生えづらくなっている。そこには的やタイヤが悲しそうに転がっていた。
それらの道具は役目を終えたのか。
否。
それらの道具は誰かが使ってくれるのをひっそりと、音もたてずに待っていた。
真田しか来ないこの場所で、誰かに使われることを。
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