証拠(語り:タニア)

ケニー「あのう、すみませんが。こちらが偽者だと言うなら、何か証拠があるんですか…?」

ケニーが疑問を差し挟んだ。


老婆「ひっひっひ。証拠なら、あるよ…わざわざ作っておいたからねぇ」

アーキル「なに言ってやがる!あるなら見せてみろや!」

老婆「ひっひっひ。慌てなさんな、坊主。…そっちのタニアや、お前さんの利き腕はどっちかね?スプーンを持つのはどっちの手か、ということじゃが」

こちらのタニア「…左利きですけど…」

向こうのタニア「あたしは右利きよ」

老婆はこちらのタニアに重ねて問いかける。

老婆「それは、いつから左利きなのかね?昔からかい?」

こちらのタニア「それは…」


タニアは自分の記憶を掘り起こした。

甘いはちみつ亭で働いているとき――お盆を持ったり、伝票に字を書いたりするのは、左利きだ。

ミシアは手が不器用なのでタニアはミシアの食事を手伝うことがあるが、そのときもスプーンを左手に持っている。

誘拐から助け出された後、ミシアが寝たきりになったときの食事も、スプーンを左手に持って、ミシアに食べさせていた。

誘拐されていた最中、衰弱したミシアに食事をとらせるときは、スプーンを右手に持って――。

あれ?

それ以前は、右利きだったような…?


タニアの顔色が変わった。

こちらのタニア「…わたし、昔は右利きだったような気がする…」

向こうのタニア「ふふん、あたしはずっと右利きよ」

老婆「ひっひっひ、分かったかいぃ?本物のタニアは、右利きなんじゃよ~?」

向こうのタニア「分かったでしょ、偽者さん?あたしが本物なのよ!」

こちらのタニア「そんな…」


コノハ「え…?本当なの?」

ルディア「そんな事が本当に…?」


ケニー「ちょっと待ってください。あなた、“わざわざ作った”って言いましたよね?そんなことが…?」

ケニーは老婆を詰問する。

老婆「ひっひっひ。そういう魔法具があるんじゃよ。原子レベルで同一の物を複製する魔法具が。

鏡に映った物を作り出すと言えばイメージが湧くかい?

必ずしも左右が反転するわけじゃないんじゃが、偽者の証拠を残す為に、わざわざ左右を反転して作ったそうじゃよ。顔にほくろの一つでもあれば、もっと分かりやすかったんじゃろうがね。ひっひっひ」

ケニー「物質生成器リンターと同じような魔法具ですか。人を作り出せるリンターなんて聞いたことがありませんが…」

ルディア「人を自由に複製できるなんて…怖ろしいです…」

ケニー「どうしてそんな事を…」


老婆「ひっひっひ。教えてやってもいいが、聞く気はあるのかい?」

ケニー達はミシアの方を見た。

ミシア「…タニアがどうしてこんな事になったのか、それは知りたい…」

老婆「ひっひっひ。ならタニアや、教えておやり。お前がどうしてこうなったのか…」

向こうのタニア「分かりました、おばば様」

そしてタニアは自らの過去を語り始めた。

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