タニアの過去(語り:タニア)
7年前。タニアとミシアが誘拐され、ミシアが酷い拷問を受け、タニアがそれを見せられていた日々。
ある朝タニアが目覚めると、一人きりになっていた。
夜はいつもタニアとミシアは同じ檻に入れられ、一緒に眠っていたというのに。
幼いタニア「え…何これ…?」
タニアは十字架に磔にされていた。
首には金属の硬くて冷たい感触がある。鉄の輪によって、十字架に固定されていたのだ。
首の他にも手首、肘の前後、肩、足首、膝の上下、太もも、腰、胸に同じような鉄の枷が付けられていた。
手足を動かそうとしても枷に阻まれる。
自由に動かせるのは目や口と指先だけ。
タニアが必死に体を動かそうとしていると、話しかけてくる声があった。
老婆「ん?目が覚めたかい?」
幼いタニア「…あなたは…?ここは…?あたしは…おねえちゃんは?」
老婆「ひっひっひ。慌てなさんな。…ワシの名前はどうでもいいじゃろう。ここは、お前が居た場所と変わっとらんよ。そしてお前のお姉ちゃんは…行っちまったよ。ひっひっひ!」
幼いタニア「え?!おねえちゃんが行っちゃったって、どういうこと?!…ですか?」
老婆「見た方が早いじゃろ。ほれ」
老婆は、タニアの目の前に水晶球を掲げた。水晶球の中には、どこかの景色が映っている。
よく見ると、何人かの人影がいるのが分かった。冒険者風の大人が3人と、他に子供が2人。1人は抱えられ、もう1人は背負われ。
抱えられている子供は、ミシアだった。
幼いタニア「おねえちゃん!」
老婆「そうとも。お前のお姉ちゃんは、お前を置いて逃げちまったんだよ」
幼いタニア「そんな…。おねえちゃんがあたしを置いて行くなんて…。ううん、きっと後で助けに来てくれる…」
老婆「ひっひっひ、果たしてそうかねぇ?もう1人の子供をよく見てみなぁ?」
タニアは背負われている方の子供をよく見てみた。
幼いタニア「?!…あれは、あたし…?」
老婆「正解じゃ。連中は、お前ら2人を助けたつもりでいるのさ。だから、お前を助けになんか来ないよ。お前が捕まっているなんて思うもんかね。連中の近くには偽のお前が居るからねぇ。偽者とも知らずに。ひっひっひ!」
幼いタニア「そんな…」
タニアは泣き出した。
老婆「それにこれは、約束の履行でもあるんじゃ。
タニア「…」
老婆「じゃがな、お前さんにはチャンスがある」
幼いタニア「…?」
老婆「あの偽者を殺すんだ。そうすりゃ、タニアはお前だけになる。大好きなお姉ちゃんの所に帰れるって寸法さね」
幼いタニア「!…そんなこと…」
老婆「無理なことを言ってるわけじゃない。ここから呪い殺せばいいんじゃよ。お前にはその才能がある。ワシには…分かってるんじゃ。手伝ってやるよ。ワシの言うとおりにすればいい」
幼いタニア「…そんなこと…できません…」
老婆「ひっひっひ、まぁすぐには無理かもしれんわなぁ。じゃが、やる気になったらいつでも言ってくれていいんじゃよ?」
そして、タニアの口には半透明のパイプが入れられ、抜けないように紐で縛られた。長いパイプで、頭が自由に動かせないタニアには上の方は見えなかった。
それから7年間、タニアはずっと十字架に磔にされ、口にパイプが入れられた状態で過ごすことになった。
(タニアの成長に合わせて十字架も交換されていたのだが、タニアが眠っている最中に交換されていたので、タニア自身は気付かなかった)
それは、ミシアにされた拷問と違って肉体的な苦痛は伴わないものの、拷問に違いなかった。
飲み物(水)は口のパイプに流し込まれた。
食事も、白くてどろどろとしたお粥のようなものがパイプに流し込まれた。これは、老婆がいつも食べているものと同じで、完全栄養食との触れ込みだった。
酷いときには、虫などの異物が流し込まれることもあった。パイプは半透明なので、中が見えるのが気持ち悪い。最初は吐いてしまったが、吐いた液体もパイプから逆流してくるので結局飲まざるを得ず、そのうち気持ち悪い物でも無心で飲み込むようになり、そうなると逆に嫌な物を飲まされることは無くなった。
排泄用のパイプも股間に付けられ、そこからどこかへ流れていったが、それはタニアからは見えないことだった。
時折り水浴びをさせてもらえることもあったが、そのときも十字架に磔られたままだった。
温水が入った大きな水槽が用意され、十字架ごと吊るして、頭まで水に浸けられる。その際は、口のパイプは呼吸を助けるものとなる。
水槽には小魚が泳いでおり、皮膚の老廃物を食べてきれいにしてくれるのだった。
老婆の他にタニアを訪れたのは、仮面の男。ミシアを拷問していた、あの男だ。
ほとんど毎日のようにタニアの下を訪れたが、タニアを傷付けるわけではなく、逆にタニアに治癒魔法を使うのだった。十字架に拘束するための枷で手足に傷や痣が付かないように、と。
おねえちゃんをあれほど傷付けた男が何を言うのかと思ったが、タニアに対して治癒しか行わないのは事実だった。
ほとんどの時間を、タニアは目の前にぶら下げられた水晶球を見て過ごした。
そこにはミシアやタニアの偽者たちが映っていた。
老婆から聞いた話では、鳥型の魔法具が甘いはちみつ亭を見張っており、それが見た物が水晶球に映るのだという。
ミシアはその鳥が気に入ったようで、毎朝挨拶してくれるのは嬉しかった。――ミシアは鳥に対して挨拶しているつもりであって、タニアに対して挨拶しているわけではないのだとしても。
タニアの偽者を見ると、最初は悲しみや羨みが混じり合う複雑な気持ちだったが、いつしか憎しみのみが湧いてくるようになっていた。
タニアの誕生日には、プレゼントと称してゲテモノを食べさせられた。
さらに、ミシアに会わせてやるなどと言われて見せられたのは、鳥型魔法具が集めたというミシアの髪の毛や、切って落ちた爪。
最悪だったのは、ミシアの肉片。このときのために、拷問時にえぐり取って保管していたというのだ。見せられただけで、タニアは気絶してしまった。
そして、いつも、老婆が背後から耳元に囁く。
老婆「こんな目に遭うのは、あの偽者のせいじゃよ」
老婆「偽者がいる限り、お姉ちゃんはお前を助けに来ないよ」
老婆「偽者さえ消えれば、お前は帰れるんじゃよ」
老婆「偽者を殺す魔法を身に付けるんじゃ。お前にはそれが出来る」
老婆「偽者を呪うんじゃ。お前の今の境遇は、偽者のせいなんじゃ。憎いじゃろう?」
タニアも最初は「そうじゃない、この老婆や仮面の男のせいだ」と思っていた。
しかし何年もの間、何度も何度も囁かれているうちに、偽者に対して憎しみが生まれて膨らんでゆき、いつしか呪いの魔法の修得に打ち込むようになっていったのだった。
その努力が実って、数ヶ月前、ようやく呪いの魔法の発動に成功した。
タニアの呪いの魔法は、自分の意識と相手の意識を魔法的に繋ぎ、自分が感じている感触を相手にも伝えるというもの。
偽者のタニアが身体に感じた異変は、十字架に磔にされている自分が感じている感触だったのだ。
しかし鳥型魔法具を介した遠隔魔法では、偽者を殺せるまでの強度には至らない。
そこで本日、お
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